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◇◆◇

「しっかり暖かい湯を張って入れてやれ。ああ、王女に使用人も数人付けて」

 王城に戻るなり、ディザメイア国の国王であるヒドゥリオンは連れ帰ったタナ国の王女を自身の部屋から近い客室に連れて行き、丁重に扱えと使用人達に指示を行っていた。

「──陛下、お戻りになられたのであれば、王妃殿下にお会いに行かれた方が……」

 気まずそうに侍従の男から声を掛けられ、ヒドゥリオンは眉を顰める。

「王妃には道中連絡はしている。被害の程度も全て告げているから直ぐに会いに行く必要など無いだろう」
「で、ですが二ヶ月お会いしておりませんし……妃殿下も陛下にお会いしたいのでは……」
「──王妃が会いたがる、と? そんな事ある訳無いのは分かっているだろう」

 鼻で笑うように言い放ち、ヒドゥリオンは客室の浴室に向かおうとしている自分が連れ帰った女性の下に向かう。

「ソニア。私は暫しここを離れるが……何も心配は要らない。この者達が湯浴みを手伝ってくれるだろうし、湯浴みの後は食事を用意させておく。直ぐに戻って来るからここで待っていてくれ」
「……分かり、ましたヒドゥリオン様。早く戻って来て下さいね……」
「ああ、勿論だとも」

 心細そうに、不安そうにするソニアの髪の毛をヒドゥリオンは労るように優しく撫で、微笑んでから部屋を退出する。

 そんな二人の様子を少し離れた場所で見ていた侍従は顔色を悪くさせたまま、ヒドゥリオンの後に着いて行った。




 ヒドゥリオンは自分の部屋に戻るなり急いで着替えを始める。
 バサバサと乱暴に服を脱ぎ捨て、身支度を整えて行く。

「ソニアの下に急いで戻る。あのような野蛮族に攻め入られ、恐怖しただろう。ソニアの側に居てやらねば……」
「ですが陛下──……」

 先程からソニアの事しか口にしないヒドゥリオンに侍従も流石に看過出来ないといった様子で口を挟むが、ヒドゥリオンは侍従の言葉になど耳を貸すような気配が無い。

 服を着替え終え、使用人を呼んで身なりを整えさせたヒドゥリオンはいそいそとソニアの下に向かおうとしたが、そこで王妃であるクリスタの侍女が部屋にやって来た。

「……陛下よろしいでしょうか?」
「──何用だ? 私は忙しい」

 扉を開け廊下に立つ侍女の姿を一瞥だけしたヒドゥリオンは冷たく言い放つ。
 その時ささっと侍従がヒドゥリオンの近くにやって来て、耳打ちした。

「王妃殿下付きの侍女でございます……」
「……」

 こそり、と告げられた侍従の言葉にヒドゥリオンは不機嫌さも隠しもせず、侍女に向き直った。

「何の用だ」
「王妃殿下が、お目通りを……」
「必要無い。出征から戻ったばかりで疲れている。明日でいいだろう?」

 面倒臭そうに断りの言葉を口にしたヒドゥリオンだったが、侍女の背後から良く知った耳馴染みのある女性の声が聞こえた。

「お疲れの所申し訳ございません、陛下。ですが確認させて頂きたい事がございます」
「……王妃」

 ヒドゥリオンはばつが悪そうに顔を歪め、クリスタから顔を逸らす。
 その様子を見たクリスタは溜息を一つ零した後、自分の侍女に向かって口を開いた。

「ありがとう、もう下がって良いわ」
「──はい。失礼致します、王妃殿下」

 ぺこりと一礼して下がる侍女に合わせ、室内に居た侍従も室内の不穏な空気に逃げるようにその場を離れた。

 ヒドゥリオンの部屋で二人きりになったクリスタはじっとヒドゥリオンを見詰めた後、口を開いた。
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