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しおりを挟む翌日、目が覚めたアイーシャは朝食の席でシャーロットと顔を合わせ、シャーロットに家庭教師が付いた事を知らされた。
「本当ですか? シャーロット嬢に、家庭教師が……」
「はい、そうなのです。何だかお父様も知っている方のようで……。ああ、そうですわ! その家庭教師の方、アイーシャ嬢と同じ綺麗な躑躅色の髪色をしていたのです。この国では珍しいので、とっても印象に残っていて……」
シャーロットは朝食を食べる手を止め、アイーシャに向き直り嬉しそうに言葉を続ける。
「私、その家庭教師の方に褒められてしまいました……! 礼儀作法も、お勉強もとっても覚えが早いそうです!」
「──こらこら、シャーロット。嬉しいのは分かるが、そんなに話し掛けてはアイーシャ嬢が食事をとれないだろう?」
「あ……っ! も、申し訳ございませんお母様……! アイーシャ嬢も、大変失礼致しましたわ……先生についてはまた時間がある時にお話しますわね」
淑女らしくシャーロットは恥じ入るように頬を染めてそっと瞳を伏せる。
「──いえ、お気になさらず……」
アイーシャはただただその言葉だけを返すのに精一杯で。
シャーロットは今、何と言っただろうか。
同じ髪色、と言っただろうか。
と、ぐるぐる考えてしまい、アイーシャがその家庭教師の名前をシャーロットに聞こうと口を開いた所で、食堂に使用人が入室してくる。
「──お食事中、大変申し訳ございません。……お時間です」
「ああ、もうそんな時間か。……ばたばたしてしまいすまないがそろそろ出ようか」
頭を下げる使用人にクォンツの母親は食事を終え、口元を軽くナプキンで拭うと席を立つ。
「……アイーシャ嬢。シャーロットへの話は後にしよう。ケネブ・ルドランの処刑が始まる……。処刑場に向かおう」
「クォンツ様……。分かり、ました……」
どこかもやもやとした気持ちを抱きながら、アイーシャ達は邸を出て王城へ馬車で向かった。
王城には罪を犯した者を処罰する場所がある。
その場所は普段は解放されていないが、罪人が罪を償う際に解放され、貴族が集う。
罪人が平民の場合はその場に平民も入る事が出来るが、今回は貴族の処刑。
罪人が貴族の場合、その処刑は一般公開はされない。後日、処刑されたと言う事実だけが国民に知らされる。
アイーシャ達が到着した頃には既に王都に滞在している貴族達の多くが参列していた。
「──もう、既にこんなに……」
「……重罪人の処刑だ……。罪状が如何程か、確認しに来ているんだろうよ」
アイーシャの言葉にクォンツが答え、そっと人目に付かない場所で待機する。
ルドラン子爵家当主であるケネブ・ルドランの処刑だ。
アイーシャは無関係、とマーベリックは告げるだろうが目立つ場所にアイーシャが居れば好奇の視線に晒される事は必定である。
クォンツはアイーシャと共に離れた場所に残り、ユルドラーク侯爵とクラウディオは前方へと向かう。
シャーロットはまだ十一歳と言う事もあり、邸に残して来ている。
「アイーシャ嬢、もし気分が悪くなったら直ぐにこの場を離れよう。何も無理してこの場に残らなくても良い筈だ」
気遣うように声を掛けてくれるクォンツにアイーシャは眉を下げて微笑みかける。
「お気遣いありがとうございます、クォンツ様。……けれど、叔父が犯した罪を……、そして罪をその命でもって償う瞬間をしっかりと見届けないといけないと思うんです……。私はルドラン家の人間ですから」
「……そうか」
二人が待機する場所の先。
断頭台の前方にある高台にマーベリックが姿を現した。
マーベリックの後ろには何人かの執行人がおり、その者達は皆全身黒ずくめで、顔が見えないよう隠されていた。
それまではざわついていた空間が、マーベリックが姿を現した事でしん、と静まり返った。
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