163 / 169
163
しおりを挟むあれから。
マーベリックが退出してしまった後、アイーシャ達は王城を後にした。
リドルはアーキワンデ邸に、アイーシャとクォンツはクォンツのユルドラーク邸に。
邸に戻る馬車に向かう途中も、戻る馬車の中でもアイーシャは魂を失ってしまったかのように呆然としたままで。
泣き過ぎて腫れてしまった目元はそのままに、くたりと馬車の座席に力無く背中を預けるアイーシャを心配そうにクォンツは見守る事しか出来ない。
「──くそ……っ」
どうしてこうなった。とクォンツは心の中で毒付き、やるせなさに前髪をくしゃりと握り潰す。
マーベリックの言葉は尤もで、国を思えばウィルバートの処罰、処刑は免れない。
私利私欲で他人を害した、と本人が認めてしまっている。そして重罪人を脱獄させてしまった罪は重い。
「せっかく……本当の家族と一緒に暮らせるようになると思えば……それに、爵位もどうすんだ……。ルドラン子爵家は王家預かりになるのか……」
ぶつぶつ、と言葉に出して頭の中を整理する。
ウィルバートが処刑されてしまっては、もうどうする事も出来ない。
(そもそも……ウィルバート卿は十年前に亡くなった人間として処理されてる……確かに今更、か……)
クォンツがどうしたものか、と悩んでいる内に馬車は邸に到着した。
「アイーシャ嬢、手を……」
「あ……、ありがとうございます……」
ふらり、と今にも倒れそうな状態で座席から立ち上がるアイーシャを見ていられなくて、馬車から先に降りたクォンツがアイーシャに向かって手を差し伸べる。
馬車のステップに足を掛けたアイーシャの膝からかくり、と力が抜けてしまい、「あっ」と思う間もなくアイーシャの体がよろめく。
「──っぶねぇ!」
「……っ」
ステップから転げ落ちそうになったアイーシャをクォンツは伸ばした自分の両腕でしっかりと抱き留める。
思いもよらず、お互い真正面から抱き合うような形になってしまい、クォンツは自分の背に射るような視線を感じてゾクリ、と背筋を震わせた。
「──っ!?」
「ひゃっクォンツ様……!?」
ガバリ、と思わずアイーシャから距離を取るように体を離して周囲を見回す。
「いや、まさか……な。いやいや……」
「ど、どうしたのですか……? お顔が真っ青ですが……。危ない所をありがとうございます」
ぶつぶつ、とクォンツが俯きながら呟いているとそんな様子に心配したのだろうか。
アイーシャが服の裾をくいくい、と引きながらお礼を告げて来る。
そんなアイーシャにクォンツは先程感じた既視感ある寒気の説明をしようとして、止めた。
不確かな事をアイーシャに告げてぬか喜びをさせてしまっては可哀想だ。
(だが……、今の視線……何度も向けられていたからこそ分かる……)
クォンツが感じた視線と、感情。
──これは愛娘に近付く悪い虫に対する殺気だ。
邸に戻って来た二人は翌日の確認をしてそれぞれ部屋に戻った。
アイーシャは与えられた客間で寝巻きに着替えながらふとクォンツの妹シャーロットを思い出す。
「そう言えばシャーロット嬢とお話するお約束を果たせてなかったわ……。明日にでもお話してみよう……」
◇◆◇
数時間前。
アイーシャ達が王城でマーベリックと話をしている時。
ユルドラーク侯爵家に一人の家庭教師がやって来た。
その家庭教師はシャーロットの礼儀作法や勉学を見るためにこの国の王太子であるマーベリックの紹介で遣わされたらしい。
見た目は三十代程の男性で、礼儀正しい姿にクォンツの母であるユルドラーク侯爵も気に入り、侯爵の夫、クラウディオも彼を見た瞬間表情を綻ばせ、まるで旧知の中のような様子であった。
そんな様子に侯爵とシャーロットは首を傾げたのだが、シャーロットの授業が終わるとその人物は帰宅してしまったのだった。
103
お気に入りに追加
5,670
あなたにおすすめの小説
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる