【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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 あれから。
 マーベリックが退出してしまった後、アイーシャ達は王城を後にした。
 リドルはアーキワンデ邸に、アイーシャとクォンツはクォンツのユルドラーク邸に。

 邸に戻る馬車に向かう途中も、戻る馬車の中でもアイーシャは魂を失ってしまったかのように呆然としたままで。
 泣き過ぎて腫れてしまった目元はそのままに、くたりと馬車の座席に力無く背中を預けるアイーシャを心配そうにクォンツは見守る事しか出来ない。

「──くそ……っ」

 どうしてこうなった。とクォンツは心の中で毒付き、やるせなさに前髪をくしゃりと握り潰す。

 マーベリックの言葉は尤もで、国を思えばウィルバートの処罰、処刑は免れない。
 私利私欲で他人を害した、と本人が認めてしまっている。そして重罪人を脱獄させてしまった罪は重い。

「せっかく……本当の家族と一緒に暮らせるようになると思えば……それに、爵位もどうすんだ……。ルドラン子爵家は王家預かりになるのか……」

 ぶつぶつ、と言葉に出して頭の中を整理する。
 ウィルバートが処刑されてしまっては、もうどうする事も出来ない。

(そもそも……ウィルバート卿は十年前に亡くなった人間として処理されてる……確かに今更、か……)

 クォンツがどうしたものか、と悩んでいる内に馬車は邸に到着した。



「アイーシャ嬢、手を……」
「あ……、ありがとうございます……」

 ふらり、と今にも倒れそうな状態で座席から立ち上がるアイーシャを見ていられなくて、馬車から先に降りたクォンツがアイーシャに向かって手を差し伸べる。

 馬車のステップに足を掛けたアイーシャの膝からかくり、と力が抜けてしまい、「あっ」と思う間もなくアイーシャの体がよろめく。

「──っぶねぇ!」
「……っ」

 ステップから転げ落ちそうになったアイーシャをクォンツは伸ばした自分の両腕でしっかりと抱き留める。
 思いもよらず、お互い真正面から抱き合うような形になってしまい、クォンツは自分の背に射るような視線を感じてゾクリ、と背筋を震わせた。

「──っ!?」
「ひゃっクォンツ様……!?」

 ガバリ、と思わずアイーシャから距離を取るように体を離して周囲を見回す。

「いや、まさか……な。いやいや……」
「ど、どうしたのですか……? お顔が真っ青ですが……。危ない所をありがとうございます」

 ぶつぶつ、とクォンツが俯きながら呟いているとそんな様子に心配したのだろうか。
 アイーシャが服の裾をくいくい、と引きながらお礼を告げて来る。
 そんなアイーシャにクォンツは先程感じた既視感ある寒気の説明をしようとして、止めた。
 不確かな事をアイーシャに告げてぬか喜びをさせてしまっては可哀想だ。

(だが……、今の視線……何度も向けられていたからこそ分かる……)

 クォンツが感じた視線と、感情。

 ──これは愛娘に近付く悪い虫に対する殺気だ。






 邸に戻って来た二人は翌日の確認をしてそれぞれ部屋に戻った。
 アイーシャは与えられた客間で寝巻きに着替えながらふとクォンツの妹シャーロットを思い出す。

「そう言えばシャーロット嬢とお話するお約束を果たせてなかったわ……。明日にでもお話してみよう……」



◇◆◇

 数時間前。
 アイーシャ達が王城でマーベリックと話をしている時。
 ユルドラーク侯爵家に一人の家庭教師がやって来た。
 その家庭教師はシャーロットの礼儀作法や勉学を見るためにこの国の王太子であるマーベリックの紹介で遣わされたらしい。

 見た目は三十代程の男性で、礼儀正しい姿にクォンツの母であるユルドラーク侯爵も気に入り、侯爵の夫、クラウディオも彼を見た瞬間表情を綻ばせ、まるで旧知の中のような様子であった。

 そんな様子に侯爵とシャーロットは首を傾げたのだが、シャーロットの授業が終わるとその人物は帰宅してしまったのだった。
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