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157(戦闘描写有り)
しおりを挟むケネブは怒りで体をぶるぶると震わせながらアイーシャに向かって怒声を張り上げる。
「……っ、アイーシャ! 貴様っ! ここまで育ててやった私に対して生意気な口を! いらないのはお前だっ! お前の存在価値など無いっ!」
「──っ私達の人生に叔父様こそいりません!」
「貴っ、様……!」
アイーシャはマーベリックの前だと言うのを忘れてついつい怒りに駆られ、売り言葉に買い言葉で言葉を返してしまう。
何故、ケネブにこんな事を言われなければならないのか。
自分の母と父を事故に見せかけ、殺そうとした。
実際母親であるイライアは事故のせいで命を落とした。
父親のウィルバートだってどうなっていたか分からない。あの時、親切な人がウィルバートを助けてくれていなければ、アイーシャは本当に一人ぼっちになっていたのだ。
「──そこまでだ、ケネブ・ルドラン。私の前でこれ以上醜い姿を晒すのは許さん。この者を連れていけ」
不快感を顕にしたマーベリックがそう命じ、護衛らが短く返事をすると拘束したケネブを立たせる。
すると、その場から離れてしまう事を悟ったのだろう。ケネブは合成獣に変貌してしまったエリシャを振り返り、エリシャの名前を叫び続ける。
「やめっ、離せっ! エリシャっ、エリシャ……っ!」
ずるずると引き摺られて行くケネブをアイーシャは何とも言えない表情で見詰める。
王太子であるマーベリックの前で醜態を晒してしまった事を恥入り、アイーシャはマーベリックに向き直ると頭を下げる。
「……申し訳ございません、殿下……殿下の前でこのような無礼な真似を……」
「ルドラン嬢が謝る事ではないだろう? 私は気にしていない。顔を上げてくれ」
困ったように苦笑い混じりにマーベリックに言われ、アイーシャはおずおずと顔を上げる。
「……、ああなってしまったからには討伐するしか無いが……。ああなる前に止める事が出来ず、すまなかったな……」
「──、? それこそ、殿下がお気に病む事ではございません。見知らぬ邪教の人間が渡した薬を飲んでしまったのはエリシャ本人ですから」
「……それでも、だ──……」
眉を下げて申し訳なさそうに笑うマーベリックにアイーシャは若干の違和感を覚えたが、その違和感に首を捻る事しか出来ない。
そうしている間に、元エリシャだった合成獣は、苦しそうな咆哮を上げた──。
◇◆◇
──ぱっ、と血が飛び散る。
それは、切り裂かれた腕に痛みを感じているのだろうか。
苦痛、と言う言葉がぴったりな程、苦しみに満たされた音で、自分の長剣に魔法を付加して斬りつけたクォンツも表情を歪めてしまう程の痛みや苦しみに満ちた音だ。
──とん、と地面に着地したクォンツは、後方で闇魔法を放つ為に集中しているウィルバートをちらりと横目で確認する。
「──とんでもない集中だな」
「リドル……」
クォンツと同じく、遅れて地面に着地したリドルが隣にやって来ると、同じようにウィルバートを見てそう呟いた。
「俺の気の所為か……? 出会った頃に比べてウィルバート卿は闇魔法の発動が早くなっているだろう? 魔力量も益々増えているような気がする……。あれ程集中せずとも、俺達の時間稼ぎなど無くとも、簡単に強力な闇魔法を発動出来そうなのだが……?」
リドルの言葉にクォンツは無言で肩を竦める。
確かに、リドルの言葉は尤もだ。
クォンツ自身、リドルと同意見である。
だが、ウィルバートは以前と変わらずにクォンツとリドルに自分の魔法を放つまでの時間稼ぎを頼んで来た。
「考えるだけ無駄だろ……。俺にはそうする理由がちっとも想像つかねーよ」
「……殿下からは何も聞いてないか?」
「俺とお前はアイーシャ嬢と同じ馬車に乗って移動してきただろ。マーベリックからは何も聞いてねえよ」
「……俺でも分かるくらいだ。殿下だって察しておられるはず……何を考えておいでだ……?」
悩むように呟くリドルにクォンツは「知らねーよ」と短く答え、ボタボタと地面に血を落とし続けるエリシャ──合成獣を見据えて、再び駆け出した。
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