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しおりを挟む「お父様……っ!」
「アイーシャ、怪我は無いか? 良く見せてくれ」
先程までの緊張感がいつの間にか霧散しており、アイーシャはクォンツと共にウィルバートに駆け寄った。
ウィルバートが教団の男を合成獣に変貌させた巨体の生き物は大人しくしており、ウィルバートやアイーシャに対して敵意を感じない。
クォンツはアイーシャと共にウィルバートに近付きつつも生き物を注視しているが、生き物はぴくりとも動かず、殺気を纏ったクォンツやリドルが近付いて来ても反応しない。
(──これ、は……)
ちらり、とウィルバートを見やった後クォンツは近付いて来るリドルに向かって声を掛ける。
「リドル……ケネブ・ルドランとエリシャ・ルドランが邪魔だ、回収してくれ」
「分かった。万が一それが暴れ出したら援護してくれよ」
「勿論だ」
まあ暴れ出す事は無いだろうがな、とクォンツは独りごちる。
それ程までに先程と比べ、巨体の生き物は大人しい。まるで主に従うかのようなその様子にクォンツは奥歯を噛み締めた。
焼け爛れ、溶け出した皮膚に激痛を感じているのだろう。
ケネブは痛い痛いと喚き、エリシャは声ならぬ声を上げている。
その二人を護衛達に指示を出しながら回収し終わったリドルは前方にいるウィルバートへ自然と視線を向けた。
何故この場所にルドラン親子がいるのか。
そして、何故計ったかのようにあの二人の後をあの生き物が追い、そしてウィルバートが姿を現したのか。
恐らく、この場にいる殆ど全員がその理由を察している。
(あれは恐らくウィルバート卿が……)
リドルはウィルバートに向けていた視線を外し、直ぐに巨体の生き物に向け直す。
「クォンツ、取り敢えずあれを処理しよう」
「ああ」
二人が話していると、アイーシャとの会話が終わったのだろう。
ウィルバートが「手伝おう」と言いながら二人に近付いて来る。
「助かります。ウィルバート卿の闇魔法は強力ですから」
「だが、この場ではあまり強力な闇魔法を放てない。アイーシャに万が一の事があれば大変だ」
「あー……それはまあ、確かにそうですね。アイーシャ嬢にはマーベリックと一緒に離れててもらいましょうか」
三人でぽつりぽつりと討伐方法について話し合い、アイーシャはマーベリックと共に少し離れた場所に待機してもらう。
そうして、被害が及ばぬように注意を払いながら三人は巨体の生き物を討伐する為に動き出したのだった。
◇◆◇
三人が巨体の生き物を討伐するために動き出してからは早かった。
クォンツとリドルがウィルバートが魔力を練り上げる間、時間を稼ぎ膨大な魔力を練り上げ終えたウィルバートが闇魔法を発動する。
闇魔法が発動するなり一瞬で巨体の生き物の体は黒い粒子に覆われ、その粒子が霧散した後には何も残らなかった。
三人がアイーシャとマーベリックの下に戻って来ると、アイーシャの隣にいたマーベリックが一歩前に踏み出してウィルバートに声を掛けた。
「ウィルバート殿、少しいいだろうか」
「構いませんよ」
「ケネブ・ルドランとエリシャ・ルドランの捕縛は完了した。邪教の人間は残念ながら捕らえる事は出来なかった、が……」
マーベリックはそこで言葉を区切るとちらりとウィルバートを見やる。
だがウィルバートは目を伏せてゆったりと口元に笑みを浮かべているだけでマーベリックに視線を返す事は無い。
「……重罪人二人の処罰を優先しよう。邪教については追々だな。ウィルバート殿は私の馬車に。城に戻るまでに色々と聞きたい事がある」
「かしこまりました。……アイーシャ、また後で」
マーベリックに促され、馬車に向かう途中。
ウィルバートはアイーシャに顔を向けると笑顔で片手を上げて声を掛ける。
「はい、お父様。また後ほど」
アイーシャも笑顔でウィルバートに言葉を返し、その姿を見たウィルバートは笑みを深くしてくるりと背を向けてマーベリックに続き馬車へ向かった。
マーベリックの乗る馬車には、ウィルバートとマーベリックのみが同乗し護衛は外を馬で進む。
リドルは珍しくマーベリックからアイーシャとクォンツと一緒に戻れ、と言われた為首を傾げたが深く追求する事なく帰りは学友達とゆっくり王都へ戻る事にした。
──数日掛けて王都へ戻る道中。
罪人を乗せている馬車から何故かエリシャの悲鳴が上がり、何故か馬車が横転した。
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