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しおりを挟む前方から聞こえてくる話し声に一番に反応したのはアイーシャで。
背に添えていたクォンツの手のひらに、アイーシャの背がぴくっ、と震えた振動が伝わった。
「アイーシャ嬢……?」
「この、声は……っ」
呟いたアイーシャの声も震える。
前方から聞こえて来る話し声はどんどんアイーシャ達の居る方へと近付いて来る。
そしてその声に嫌と言う程耳馴染みがあったアイーシャは、硬い声音で周囲に言葉を発した。
「──聞こえて来る声はっ、ケネブ・ルドランとエリシャ・ルドランに間違いありません……!」
「何!?」
アイーシャの言葉に反応したマーベリックは声の聞こえて来る方向を睨み付けるように見据え、前方に居る護衛達は剣を構え、いつでも魔法を放てるように準備する。
マーベリックは素早く懐から何かを取り出すと、隣に居たリドル、そしてクォンツとアイーシャに取り出したそれを投げ寄越した。
「──これは、?」
「精神耐性魔法が込められた魔道具だ……! 消滅魔術に対してどれだけの効力を発揮するかは分からんが……っ、信用魔法と魅了魔法ならば防ぐ事が出来る! すぐに装着しろ!」
緊迫した様子のマーベリックからそう言われ、各々は急いで魔道具のアクセサリーを手首に嵌めた。
魔道具を装着し終わったと同時、薄暗い森の中を前方から二つの人影が口論のようなものをしながらアイーシャ達の目の前に姿を現した。
「──だからっ、先程の男性がお父様のお兄様なのでしたら何故逃げるようにして……っ!」
「あの場はああする他無かったのだ……! そもそもエリシャ、お前は何故消滅魔術の魅惑と蠱惑を覚えて──……っ」
走って来たのだろうか。
木々の間から勢い良く出てきたエリシャとケネブは、自分達の目の前に居る一同を視界に入れ、そしてケネブは真っ青になった。
「──ケネブ・ルドランとエリシャ・ルドランを捕らえよ……!」
ケネブが怯んだ一瞬の隙をつき、マーベリックが捕縛命令を出す。
すると、前方にいたエリシャとケネブに一番近い護衛達がマーベリックの言葉に短く返事をし、素早く動いた。
「──しまっ」
「えっ、えっ! 何故ここにクォンツ様やリドル様が……!? きゃあっ! あちらにいらっしゃるのは王太子殿下では!?」
狼狽えるケネブとは真逆に、何故か嬉しそうに黄色い悲鳴を上げるエリシャは事態が呑み込めていないのか、キラキラと瞳を輝かせている。
「──ちっ、何故エリシャ・ルドランは口封じの布をしていない……っ」
アイーシャの隣に居たクォンツが舌打ちし、魔力を魔道具に流すと効果を発動させる。
先程ケネブの口から消滅魔術の名が出て来た。
信用魔法や魅了魔法程度ならば耐性はある程度あるが、あちらを発動されてはどうなるか分からない。
その為、クォンツも護衛に続いて自分自身に魔法を掛けて一足でエリシャ達に近付く。
焦った表情のケネブが自分の手のひらに魔力を込めて魔法を発動しようとしている。
そして、その隣に居たエリシャは自分達に近付いて来る護衛と、そしてその表情やマーベリック達のぴりっとした雰囲気にやっと気付き今更慌てている。
「──リドル! お前はエリシャ・ルドランを……! 俺はケネブ・ルドランをやる!」
「了解!」
クォンツとリドルは短く言葉を交わし合い、護衛達に続いてケネブとエリシャに接近する。
「──くそぉっ! エリシャっ、お前も攻撃魔法を放て!」
「えっ、えぇ……!? お父様っ!?」
ケネブは我武者羅に攻撃魔法を放つが、目前に迫っていた護衛にその魔法を防がれ、次いで接近していたクォンツに後頭部を掴まれ地面に勢い良く引き倒される。
その出来事は瞬きする間の一瞬で。
エリシャがぎょっと目を見開いている内に静かに、だが素早く近付いていたリドルに後ろ手に拘束された。
「──あっ、! 離してっ、離して下さい!」
「リドル。口封じの布だ。再びエリシャ・ルドランに付けろ」
「ありがとうございます、殿下。……ですが、それ以上は近付かぬようにお願いします」
「勿論だ。私はルドラン嬢と少し離れた場所に居よう」
リドルとマーベリックの会話に、アイーシャもこの場に居る事が分かったのだろう。
拘束されていたエリシャとケネブが勢い良く顔を上げた。
「──アイーシャ……、!」
「お姉様が何故ここにっ!」
「何故ここに、と言われましても……」
エリシャとケネブ二人から突然注目され、アイーシャがたじろいでいると拘束し終わったクォンツが護衛とケネブから離れ、アイーシャとマーベリックの近くまで戻って来る。
「アイーシャ嬢、あいつらに言葉を返さなくていい。まともに相手なんざすんな」
「えっ、でもいいのでしょうか?」
「ああ、いいいい。相手にするだけ時間の無駄だろう」
ひょい、と肩を竦め告げるクォンツにアイーシャはちらり、と二人を見やる。
エリシャからは嫉妬に塗れた視線を向けられ、ケネブからは怨嗟の籠った視線を向けられる。
そのどろり、とした重い感情を振り切るようにアイーシャが二人から視線を外した所で、徐にケネブが口を開いた。
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