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しおりを挟む「ウィルバート・ルドラン……!」
ぎりっ、と奥歯を噛み締めながら憎しみの籠った声音でケネブが声を絞り出すようにして呟くと、ケネブの前に姿を表した男──ウィルバートはこてりと首を傾げた。
「おや、もう兄上とは呼んでくれないのか。せっかく可愛い姪っ子を連れて来てやったと言うのに悲しいな」
「……っ、空々しい……っ!」
可愛い姪っ子、などとは微塵も思っていないくせに、とケネブは足元に横たわるエリシャをウィルバートから視線を外さないようにしながらしゃがみこみ、そっと優しく揺り起こす。
「エリシャ……、エリシャ起きろ……」
「──ん、んん? おとうさま……、?」
体を揺らされ、むにゃむにゃと呑気にエリシャが目を開く。
「なんですか……、ここはどこ……?」
「いいから早く立つんだ。この場を脱するぞ……」
「──えぇ……、?」
何故か口封じの布が取れている状態のエリシャはむくり、と起き上がると状況を把握する為に自分の父親を見た後にくるり、と周囲を見回す。
ケネブの視線を追うようにしてエリシャが顔を向けると、その先にはウィルバートがいて。
「──っ、あの人……っ」
エリシャはひゅっ、と息を飲み込む。
その顔色は真っ青になり怯えるようにケネブに縋った。
「なんであの人が……っ、それにここは……? っ、お母様……!! お母様は!?」
「落ち着け、エリシャ。エリザベートはまだ捕らえられたままだ。失敗したのだろう? エリザベートを救い出すのは私達が無事隣国に逃げおおせた後だ」
「──いやっ! 違うっ、お母様は……っ!! お母様は……っ」
要領を得ないエリシャの動揺した声に、ケネブは眉を顰めるが真っ青になったエリシャが怯えるようにウィルバートから後退る。
その様子を見て、ケネブは更に首を傾げた。
なぜウィルバートにそこまで怯えるのか。
(あの男にここまで怯えるのが分からん……。何か、恐怖を味わうような出来事が……、? だがあの男は虫も殺せぬほど甘い男だぞ……? エリシャがここまで怯えるのが分からん……)
昔のウィルバートを思い出し、ケネブは目の前に佇むウィルバートを強く睨み付ける。
(なぜこの場所が分かったのか、どうやってやって来たのかは分からんが……エリシャを連れて来てくれた事は好都合だ。こちらにはエリシャがいる。消滅魔術でエリシャにウィルバートを操らせれば……!)
ちらり、とエリシャを見ると未だにウィルバートに怯えている様子が伺える。
だが、怯えていようが関係無いと考えたケネブはエリシャに向かって口を開いた。
「──エリシャ! 目の前にいる男を操る魔法を発動するんだ!」
勝ち誇ったような笑みを浮かべ、声高に叫ぶ。
すると、エリシャはきょとんとした顔のまま首を傾げた──。
「え、? 操る……、? 何を言っているのですかお父様? 私にそんな魔法が使える筈ないじゃないですか」
私はお姉様より魔法の才能が無いのを忘れているのですか? と不思議そうに告げるエリシャにケネブはぽかん、と口を開けた。
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