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しおりを挟むアイーシャの提案に頷き、ウィルバートは自分達から離れて行く合成獣をそっと見詰める。
何かに引き寄せられるように進んで行く合成獣。
目的は何なのだろうか、と考えるが合成獣の行動も、思考回路も分かる筈が無い。
恐らく、単純に動く物に対して反応しているのだろう、と自分の中で結論付けるとウィルバートはアイーシャの手首を掴んで口を開いた。
「──アイーシャ。殿下達はどの方向に進んでいる?」
「はい。恐らく広い場所に出ようとしているのかもしれません。一階の玄関ホールかも、です」
「……玄関ホールか」
アイーシャの言葉にウィルバートの顔にふっ、と影が落ちる。
玄関ホールには、昔イライアと出掛けた際に街で購入した花瓶がある。
家族の肖像画はケネブに処分されてしまったのだろうが、玄関ホールにはイライアが昔購入した花瓶があった事をこの邸にやって来た時に見た。
邸も、破壊されどんどんと崩壊していってしまっている。
(──僕達の……思い出がどんどん壊されていってしまっているね、イライア……)
悲しそうにウィルバートは眉を下げたが、憂いていても仕方ない。
ウィルバートはアイーシャと共にマーベリック達と合流する為に駆ける速度を上げた。
玄関ホールに向かう間に、使用人達が控えている部屋に寄り避難させ、エリザベートの部屋に居た兵達の安否を確認する。
エリザベートの部屋に居た兵達は案の定、合成獣が原因で部屋が崩壊し、怪我をしたらしいが命に別状はない。
動ける者は邸から遠ざけ、怪我を負った兵達は合成獣から身を隠すように伝えた。
これで、今後何が起きても邸の使用人も兵も命を落とす事は無いだろう。
玄関ホールへ向かっている間、アイーシャはクォンツ達と合成獣がここに向かっている事を魔法で確認しながらどれくらいの距離が離れているかをウィルバートと共有する。
「──少し、時間が掛かってしまったから殿下達の方が先に玄関ホールに到着してしまうかな?」
「恐らく、そうなるかと思います……!」
アイーシャの顔色が若干悪くなって来ている。
(魔力切れの手前、か……)
このまま使い続ければ、アイーシャの体に負担が掛かりすぎる。
「アイーシャ。もうそろそろ気配察知の魔法を解いて大丈夫だ。このままだと最悪魔力が枯渇する」
「──分かり、ました!」
ウィルバートの言葉にアイーシャは言葉を返すと、発動していた気配察知の魔法を解除する。
瞬間、アイーシャは重だるかった自分の体がふっ、と軽くなったように感じる。
先程からズキズキと痛む頭痛もするりと消えて、ほっと息を吐き出した。
思っていたよりも魔力を消費してしまっていたようだ。
ウィルバートに手を引かれながら、足を動かし続けていると遠くに聞こえていた戦闘の音が段々と大きく聞こえて来る。
クォンツ達と、合成獣に近付いているのだろう。
前方を走るウィルバートの、アイーシャの手を掴む力が一瞬強まる。
「──見えた」
「!」
ウィルバートがぽつり、と呟いた。
その言葉にアイーシャが反応して前方に目を凝らすと、前方で土煙が上がっておりその向こうで巨大な影と、人の影が踊るように舞っていた。
人影が腕を振りかざし、次の瞬間に雷鳴が轟く。
雷に打たれたように巨体がぶるり、と震えた後、人影に鞭のような触手が迫る。
だが、その触手は人影に接近する直前、別方向から放たれた風の刃のような物にすぱり、と切り落とされて触手が地面に落ちてのたうち回っている。
「……あっ、」
だが、斬られた筈の触手が直ぐに回復して斬り落とされた部位から再び生えて来るのが薄らと見て取れて、アイーシャは小さく声を上げた。
「あれでは……、いくら斬り落としても終わらないな」
アイーシャの声に反応し、ウィルバートも前方をしっかりと見据えたまま言葉を発する。
斬った側から直ぐに回復している。
信じられない程の回復力だ。
「……アイーシャ。ここで待っていてくれ。アレに近付かないように」
「っ、お父様……!?」
アイーシャの手首を掴み、僅か前を走っていたウィルバートの手がぱっと離れてアイーシャをその場に残したまま、ウィルバートは走る速度を上げる。
──通常の魔法攻撃で再生してしまうのであれば、その部位ごと消滅させてしまえば良い。
そう考えたウィルバートは自分の手のひらに魔力を篭めると、そのまま土煙の向こうに突っ込んだ。
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