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「いやああぁっ! 何あれ!」
クォンツ達の居る場所に響いて来た声は、エリシャの母親であるエリザベート・ルドランの声で。
何故、この場にやって来れたのかとクォンツは目を見開く。
エリザベートは囮に使う為、エリザベート自身の自室に軟禁していた筈。
その部屋の前にも、室内にも見張りの兵を置いていた筈なのに何故、とクォンツが考えていると、エリザベートの腕を拘束していた手枷が破損している事に気付いた。
「──ちくしょう……っ、アレが暴れた影響で部屋が破壊されたか……っ」
あの合成獣のような物が暴れ、破壊した場所はエリザベートの自室に近かったような気がする。
邸が破壊された事でエリザベートの自室も影響を受けたのだろう。
室内外に居た兵がエリザベートを逃がしてしまった、と言う事はそう言う事だろう。
クォンツがエリザベートを捕らえるかどうするか、と考えていると背後に居たエリシャがもがもがと声を出す。
「──んんぅーっ、んんーっ!」
口封じの布により、エリシャは言葉を発する事は出来ないが、娘の声に反応したのだろう。
エリザベートはぱっ、と顔をクォンツ達の居る方向に向けるとエリシャがマーベリックに捕らえられている姿を見て表情を変えた。
「エリシャ……っ! エリシャに何て事を……っ!」
隣に居る王太子であるマーベリックなど目にも止めていない。
ただただ、娘が拘束されている姿を見て憤り、怒りを顕にしている。
エリザベートは怒りを顕にしたまま、クォンツ達の元──エリシャの元に来ようとしているのだろう。
近くに居る合成獣など目に入っていないのか。
声を荒らげ、体の向きを変えてこちらに近付いて来る。
クォンツ達の元へ近付くと言う事はすなわち、合成獣に近付くと言う事で。
「──おいっ、近付くな……っ!」
合成獣を刺激して、不味い事になっては面倒だ。
クォンツはずんずんと近付いて来るエリザベートに静止の声を掛けた。
だが、合成獣は近付いて来る人間の気配にぴくり、と反応した。
巨大な体をのそり、と動かし地面にびしゃびしゃと自分の体液を撒き散らしながらエリザベートを見た、ような気がする。
エリザベートはエリシャの元に向かおうと、クォンツ達の方へと歩いて来ていたが、不意に歩いていた自分に巨大な影が被さった。
「──え、」
そこで初めてエリザベートは周囲の状況を確認する余裕が出たのだろう。
自分の足元に真っ黒い影が出来て、それは何なのだろう、とゆっくりと頭上を見上げる。
「──んうぅーっ、!! んぅーっ」
クォンツの背後からはエリシャの切羽詰まったような声が聞こえて。
エリザベートは先程悲鳴を上げた存在が自分の真上、頭上に覆い被さるようにして静止している姿を見て目を見開いた。
エリザベートの顔に、頭上から合成獣の体液がぼた、ぼたと垂れて来る。
「──ひっ、」
自分の顔に落ちた体液に、エリザベートが頬を指先で触れて。
そしてぬるつく体液に顔を真っ青にして悲鳴を上げようとした。
だが。
──パシュッ
と軽い音が聞こえた。
悲鳴を上げようとしていたエリザベートの声は最後まで発される事は無く、巨大な体を持ち、緩慢な動きしかしていなかった合成獣からは想像も出来ない程、俊敏な動きだった。
合成獣の頭部がある筈のそこから太い触手のような物が生え、鞭のように撓り、一瞬の内にエリザベートの上半身を襲った。
「──……は、?」
合成獣の触手が動いた後には、そこにあったはずのエリザベートの上半身は消えて無くなっており、エリザベートの身体は支えを失ったかのようにその場にどしゃり、と崩れ落ちた。
「んううぅっ! んうううーっ!!」
背後でエリシャが何か喚いている声が聞こえるが、クォンツは瞳を見開き、その場を微動だに出来ない。
──人間の上半身が一瞬の内に消失した。
唖然としていると、合成獣の触手は再び動き、床に崩れ落ちたエリザベートの下半身に向かって再び素早く動いた。
よくよく見てみれば、その触手と思っていた物は、頭部の部分から生えているのではなく少し下。人間で言う所の肩の位置から生えている物で。
あれが、あの合成獣の腕なのだろうかとぼうっと考えているとその触手のような物には手のひらがあるようで。
その手のひらのような部分には口のような物も見受けられる。
そして、その口のような部分が大きく開き、エリザベートの体を一呑みした。
「──っ、」
クォンツは思わず一歩後ずさってしまう。
「……っ、人を……っ、人間を喰うのかよ……っ」
あのような速度で向かってこられては、躱す事も骨が折れる。
クォンツは背後に居るマーベリックとリドルに向かって叫んだ。
「リドル……! マーベリック! 走れ……っ!」
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