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しおりを挟む「──ははっ、あれ程禍々しい生き物を見た事が無い……」
「あんな物がこの世に何体も存在していたら不味いだろう」
「ここは、俺とクォンツで対応して……殿下は避難した方が良いかもしれません」
得体の知れない生き物だ。
そのような生き物からマーベリックを離した方が良いとリドルは判断して告げるが、マーベリックは生き物にちらりと視線を向けた後、苦笑する。
「いや……。あれは駄目だろう、駄目な気がする。様子を見た方が良いかもしれないな」
「まあ……下手に動いてアレを刺激すんのも不味いか」
マーベリックの言葉に、クォンツも同意する。
クォンツが生き物に視線を向けると、未だにぶくぶくと膨張を続けていて、その体の大きさは以前山中で見た合成獣よりも巨大な気がする。
先程は合成獣に似た姿と感じたが、肥大する体は既に合成獣とは似ても似つかわしくない物になっており、その姿を見ると恐れや不安感を覚える。
本来であれば頭がある部分は大きく抉れており体からは良く分からない液体をだらだらと垂らしており、巨大な体でもぞもぞと何か動いている。
「……マーベリック、どうする。ルドラン子爵邸の邸を破壊したせいで放っておけばアレは街に出ちまうぞ」
「街に出しては不味い……」
「ならば、この場で消滅させるしかないな」
マーベリックを後方にやり、クォンツは一歩その生物に近付く。
クォンツが近付いた事に気付いたのだろうか。その生物は巨大な体でもぞり、と僅かに動くとクォンツ達の方へ体を向けたように感じる。
頭が無い為、はっきりとは分からないが恐らく体の正面はクォンツ達に向いている気がする。
「……魔法攻撃がどれくらい効くのか、攻撃してみるか? それともこのまま様子見をするか?」
「いや。今のクォンツの動きにアレは反応した。このままでは私達に攻撃してくるのも時間の問題だろう。先手を打った方が良い」
「了解。リドルとマーベリックは離れていてくれ」
クォンツとマーベリックは短い会話をすると、クォンツの言葉に従いマーベリックはエリシャを連れたまま生物から更に距離を取る。
リドルもマーベリックの護衛に回る事に決めたのだろう。
剣を構えたままマーベリックの側に立った。
クォンツはちらりと後方に視線を向けてから自分の手のひらに魔力を込め始める。
火魔法ではなく、雷魔法。
火魔法を放つと数秒間ではあるが炎により煙が発生して視界が悪くなる。
あれ程の巨大な体が煙に遮られて見えなくなる事は無いだろうが、その憂いは絶っておいた方が良い。
その点、雷魔法であれば煙は殆ど発生しない。
クォンツが手のひらに雷魔法を発動すると、バチバチと音を立てて空間に帯電し始める。
「──……っ、」
魔力量を増やし、最大限魔力を練り上げるとクォンツはその生き物に向かって雷魔法を放った。
カッ、と一瞬だけ閃光が走り、クォンツの雷魔法が的の大きい巨大な生き物に難無く命中する。
派手な音を立てて生き物の体を雷がバリバリと走り、痛みを感じるのだろうか。
生き物はその場で巨大な体を揺さぶり、まるで苦しんでいるかのように見える。
形容し難い不快な叫び声を上げながら、その巨体がもそり、と動いた。
「──っ」
びしゃりびしゃり、と体液を撒き散らしながら生き物は魔法を放ったのだろうか。
クォンツが立っている場所に正確に火魔法のような物を放った。
だがクォンツはその行動を読んでいたかのように自分の目の前に魔法で防御障壁を発生させると、生き物が放った火魔法を防ぐ。
「やっぱり、魔法を使いやがった……! 山中で出会った魔物──合成獣も、この邪教が作り出したと見て正解だな」
「クォンツ! 大丈夫か!」
背後からマーベリックの叫ぶ声が聞こえ、クォンツは片手を上げて応える。
今受けた程度の魔法の威力であれば、何とか防ぐ事は可能だが、それを続ければ魔力が切れ何も出来なくなってしまうのは目に見えている。
どうしたものか、とクォンツが悩んでいると巨大な生き物が居る場所から少し離れた場所。
その場所から女性の悲鳴が聞こえて来て、クォンツは弾かれたようにその方向へ顔を向けた。
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