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邪教の男は、ギリギリと自分の腕を捻り上げられている状態に息を荒くしながら相手を見やる。
そこに居たのは、空色の髪の毛に海のような深い蒼色の瞳を持つリドル・アーキワンデが居て。
リドルの向こう側、エリシャが扉を開けたその直ぐ傍には濃紺の夜明けのような髪色に、金の瞳を持つクォンツ・ユルドラークが呆気に取られているエリシャを拘束していた。
「──くそっ、くそぉっ」
──公爵家と、侯爵家の嫡男が相手では分が悪い。
邪教の男は床に押さえつけられた体勢のまま、何とか空いている片方の腕を踏み付けて固定しているリドルの足を力任せに跳ね除ける。
「──っ、悪足掻きを……っ」
男が暴れだした事に眉を顰めたリドルが腰の長剣の柄に手を掛けた所で、男は自分の体に流れる魔力を暴発させた。
「……っ、」
「リドル!」
周囲一帯を巻き込み、自爆でもしようとしたのだろうか。
邪教の男から膨大な魔力が膨れ上がり、それが暴発する前にリドルは瞬時に自分の周囲に魔法障壁を発動すると急いで男から距離を取る。
エリシャを拘束していたクォンツも、エリシャを扉の奥に押しやると、自分とリドルに向けて防御用の魔法障壁を発動する。
刹那。
──カッ
と眩い光が視界一杯に広がり、その眩しさにクォンツもリドルも瞳を閉じてしまう。
だが、その光も一瞬で収まり直ぐに目を開けたクォンツとリドルは目の前に広がった光景に唖然とする。
「くそっ、くそぉ……っ!!」
邪教の男は本気でリドルを巻き込み、自爆をしようとしていたのだろう。
火魔法の魔力暴発。
敢えて、自分の魔力を制御不能にまで昂らせて周囲を巻き込み自爆しようとした。
邪教の男が自分の命さえ投げ出し、このような事を仕出かすとは思っていなかったクォンツとリドルはゾッとする。
捕まるのであれば、自ら命を絶つ。
常人では考えられぬような選択を当然のように行う男に、改めて邪教と言う団体の異常さを認識する。
目の前で魔力暴発を起こした男の肌は、炎に焼かれ爛れ落ち、焼けた肌が垂れ下がっている。
片腕は肘から先が吹き飛んでしまったのか、体のバランスが取れずに傾いている。
そんな中でも、邪教の男は痛みを感じないのか悔しさにのみ表情を歪めていて、その異質さにもクォンツとリドルは寒気を感じる。
「──何だ、こいつ……っ」
「クォンツっ、エリシャ・ルドランを……!!」
「……っ、しまった……!」
邪教の男の行動に気を取られてしまい、エリシャから目を離してしまったクォンツは急いで振り返る。
振り返った先には、エリシャは腰を抜かした状態で男の酷い有様に恐れ、泣いている。
そのエリシャの近くには王太子であるマーベリックが立っていて。
「クォンツ。この女から目を離すな……」
「す、すまないマーベリック……」
呆れたように苦言を呈すマーベリックに、申し訳無さそうにクォンツが詫びを告げる。
いつの間にマーベリックはエリシャの口に口封じの布を噛ませたのか。落ち着いた様子で状況を確認すると、よたよたと歩き残った片腕を自分の懐に入れる邪教の男の行動に眉を顰めた。
「──クォンツ、リドル! その男から離れろ……!」
「……っ、」
「!」
マーベリックの鋭い声に反応し、クォンツとリドルは瞬時に男から距離を取る。
クォンツとリドルの後方で男は懐から取り出した錠剤のような物を、三人の目の前で躊躇いなくごくり、と飲み込んだ。
──良くない物だろう。
そう判断したマーベリックは、側にいたエリシャを担ぎ上げるとこの場を離れるように男から距離を取るために駆け出した。
マーベリックの行動にクォンツとリドルも倣い、マーベリックに着いて行くように駆け出す。
そして、ぽつりと残された男は錠剤を飲んだ後。一拍置いて体が膨張し始める。
「──立ち止まるな! 距離を取れ……!」
「……っ、何だってんだ……っ」
「殿下っ! 他にも侵入者が居るかもしれません……! あまり先行せぬよう!」
マーベリックが後方の二人に吠え、クォンツが悪態を付き、リドルがマーベリックの身を案じる。
バタバタと走る三人の足音の後方で、男が居た空間から禍々しい程の魔力が膨張し、そして弾けた。
魔力が弾けた瞬間、まるで大地震が起きたかのように大きく揺れが起きる。
そして、その空間がまるで爆発したかのように大きな音を立てて崩れ、破壊された。
物凄い音を立てて崩れた建物の中から、ぶくぶくと青黒いぬめった皮膚のような物が膨張してくるのが距離を取った三人の視界に映り、思わずその場に立ち止まってしまう。
「──何だ……、あれ……」
ぽつり、と呟いたクォンツの言葉に誰も言葉を返す事が出来ず、ぼうっとその膨張し続ける物体を見上げる事しか出来ない。
邸の中心部にアイーシャ達を避難させているが、あの物体がそちらの方向に向かってしまってはどうしようも無い。
アイーシャはウィルバートと、マーベリックが連れて来ていた部隊の騎士達と共に居る。
ウィルバートが共に居るのであれば安心ではあるが、闇魔法はまだ不透明な部分が多く、アイーシャの身の安全を確保するのであれば合流するのが一番だが、物体が邪魔をしていて合流しようにもその物体との戦闘は避けられないだろう。
「──もっと城から人員を引っ張ってくれば良かったか」
マーベリックの言葉にクォンツとリドルは曖昧に答える事しか出来ず、自分達の視界に巨大化した男だった物が完全に姿を現し、背中に嫌な汗が伝った。
所々、体の形成が成されていないが、かつて人間だった男の体は山中で見た魔物と何処か似た印象を与えている。
クォンツ達三人は、無言で腰の長剣を抜き放った。
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