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しおりを挟む「──は、? あに……、義兄……? ウィルバート……?」
エリザベートはウィルバートから言われた言葉が理解出来なかったのだろうか。
ぽかん、と口を開け呆気にとられていたが、それも暫しの時間。
はっ、と瞳を見開くとウィルバートから咄嗟に距離を取り恐怖に唇を戦慄かせた。
「なっ、何で生きているの!? ウィルバートと、その妻は確かに殺した、ってあの人が……!」
自分の口元を手で覆い、まるで幽霊を見るような目でウィルバートを見詰めるエリザベートにウィルバートとクォンツが視線を合わせる。
「──クォンツ卿」
「ええ。殿下から頂いた映像記憶の魔道具でしっかりと撮ってますよ」
「ならば、良かった……」
二人の会話に、距離を取っていたエリザベートがぎょっと瞳を見開き、声を荒らげる。
「──は、? 殿下から……撮ってるって……!! どう言う事よ……! それに、ウィルバートが生きているなんて嘘だわ! 貴方は若すぎるのよ……っ、ウィルバートが生きていれば、今頃は四十! そんな若くないわ!」
エリザベートの言葉に、クォンツもウィルバートも反応せずに起動していた魔道具の確認に入る。
しっかりとこの部屋に入ってから魔道具は起動されており、先程のエリザベートの発言も記憶されているのを確認する。
「──よし。私と、妻のイライアを殺したと言う発言は撮れているな。あとはエリシャ・ルドランの接触を待つだけだ」
「はい。そのようですね。どうしますか、エリシャ・ルドランが接触してくるまで夫人には寝ていてもらいますか?」
クォンツの言葉にウィルバートは考え込むように顎先に手をやり、床を見詰める。
その間もエリザベートは未だに声を荒らげているが、ウィルバートとクォンツの後ろにアイーシャの姿を見付けてくわっ、と瞳を見開いた。
「──アイーシャ! お前っ、何故お前がここにいるの!?」
「──えっ、」
「私達がこんなにも大変な目に合っていると言うのに……っ、お前!」
エリザベートはぎりぎりと歯を食いしばると恨みの籠った視線をアイーシャに向ける。
ぎょろり、と血走った目がアイーシャを捉え、アイーシャはエリザベートのその尋常ではない様子に一歩後ずさってしまう。
「役に立たぬお前を十年間育ててやったのに……!」
エリザベートがそう吐き捨てると、アイーシャに向かって徐に自分の片腕を振り上げ、手のひらをひたりとアイーシャに向けて固定する。
エリザベートの魔力だろうか。
アイーシャに向けられた手のひらに、エリザベートの魔力が集中して行くのが感じ取れる。
きゅるきゅる、とエリザベートの魔力が手のひらに集まりそしてその魔力が魔法として発動される。
あろう事か、エリザベートはクォンツとウィルバートの目の前でアイーシャに向かって攻撃魔法を放った。
「──……っ、!?」
エリザベートの魔力は炎を作り出し、圧縮された密度の濃い火魔法が明確な悪意を持ってアイーシャに向かって放たれる。
アイーシャは自分に放たれた魔法に驚き、咄嗟に目を瞑ってしまったが、エリザベートの手のひらから発現した火魔法の炎はアイーシャに向かって来る前にその場でぷしゅり、と消失した。
その様子を近くで見ていたクォンツとウィルバートは焦る様子も無く、アイーシャから視線を外すとエリザベートに意識を戻す。
クォンツは自分の魔法があっさりと消失した事に驚き、唖然としているエリザベートに向かって歩み出す。
「──アイーシャ・ルドラン嬢へ危害を加えようとした事を確認、危険人物と見なし拘束する。今後、貴方の身柄は王太子に引き渡すその時まで厳重に拘束、監視する」
「え……っ、あっ、ちょっとお待ちを……! 何故私が……っ!」
逃げ出そうと踵を返すエリザベートをクォンツは素早く背後から拘束し、マーベリックから預かった拘束魔法が付加された魔道具を取り出し、エリザベートの手首に嵌める。
途端、がちゃんと勢い良くエリザベートの手首が合わさり、後ろ手に拘束される。
「──貴方がアイーシャ嬢に並々ならぬ憎悪の感情を抱き、彼女を害そうとしていた事は周知の事実だ。貴方の魔法を防ぐ魔法をアイーシャ嬢に掛けておく事など造作もない。……もっと頭を使って行動した方が良かったな?」
「ユ、ユルドラーク卿っ、これは何かの間違いよ……! 私をっ、ルドラン子爵家にこんな事をしてっ、大変な事になっても知らないから……っ!」
エリザベートの拘束を問題無く終えると、クォンツは室内に居る兵士に顔を向けて口を開く。
「──夫人を使う。エリシャ・ルドランが見付けやすいよう、夫人の私室に連れて行ってくれ」
「かしこまりました……!」
クォンツの言葉にさっ、と頭を下げた兵士達は拘束から逃れようと藻掻くエリザベートを連れ、部屋を退出したのだった。
◇◆◇
同時刻、ルドラン子爵家の裏門。
裏門フードを目深に被り、こそこそと子爵邸に侵入する二つの影は、敷地内に無事侵入が完了するとほっとしたように表情を綻ばせた。
「──さっさと見付けて戻るぞ、エリシャ・ルドラン」
「あっ、待って下さい……っ! お母様のお部屋はこちらから行った方が近いですよっ」
邪教の信徒である男と、エリシャがエリザベートと接触を図るため、クォンツとウィルバートが予想していた通り邸に姿を表した。
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