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しおりを挟むフード付きの外套で、目深にかぶって移動している様子から移動速度を優先しているのだろうと言う事が分かり、アイーシャ達も目立たぬようにしてマーベリックとリドル達に近付く。
アイーシャ達の接近に一番早く気が付いたのは護衛達で、護衛達は近付いて来るアイーシャ達の姿を見付けると直ぐにマーベリックに声を掛けたのが分かる。
そうして、マーベリックは護衛から声を掛けられ勢い良くアイーシャ達に顔を向けると、安心したように表情を綻ばせた。
マデランの街の宿屋の食堂に移動し、無事落ち合ったアイーシャ達は小休憩がてら食事をする事になった。
周囲はがやがやと沢山の利用客がおり、声を潜めて会話をせずとも大丈夫そうだ。
マーベリックはフードを被ったまま、リドルはフードを外して席に着いている。
「ウィルバート殿、ルドラン嬢、クォンツ。早い合流だったな。安心した」
「──貴方様と早めに合流出来て良かったです」
「それで、大分早い合流だったが……目的は果たせたか?」
マーベリックの言葉にウィルバートが返事をすると、マーベリックが言葉を続ける。
真剣な表情のマーベリックに、ウィルバートもこくりと頷くと、アイーシャ達に視線を向けた後、唇を開いた。
「はい。目的は恙無く。……それで、アイーシャとクォンツ卿があの保養所跡で蔵書を発見致しました。私達が討伐した魔物に関して……、精製の仕方について記載されている蔵書です。……恐らく、ケネブがあの組織と関わりがあった、と証拠付ける事が可能な蔵書かと」
「──本当か。その蔵書は今どこに?」
「私が保管しております。ここでお渡しするには些か人の目が多いため、王都に戻りましたら……」
ちらり、と周囲に視線を向けるウィルバートの様子にマーベリックも察したのだろう。
「分かった」と一言呟き頷くと、がらりと態度を変える。
「ならば、軽く腹に何か入れよう。これから王都に戻るため、馬を駆け続ける。小休止はもう取らない予定だからな」
明るく告げるマーベリックは、近場にいた店員に声を掛けて料理を注文し始める。
アイーシャ達もマーベリックに倣い、料理を注文し、束の間の休息を取った。
そうして、休憩を取った一行は急ぎ王都へ出立し、行きより一日程時間を巻いて王都へと到着した。
昼夜馬を駆け、疲労が蓄積してはいるがこれからやる事は山ほどある。
ウィルバートと共に馬に乗り、王城にやって来たアイーシヤも流石に疲労が溜まっており、足に力が入らない。
先に下馬したウィルバートに手伝ってもらいながらアイーシャが地面に足をつけた時。
王城の奥から慌ただしくマーベリックを呼ぶ足音がバタバタと近付いて来て、アイーシャ達が驚いていると、騎士達がマーベリックに近付いて来る。
「──殿下……っ、殿下! 申し訳ございません!!」
顔色を真っ青にして、ただ事では無い様子で駆け寄って来た騎士達にマーベリックは眉を顰めた。
「……何事だ」
「それがっ、申し訳ございません殿下……っその……」
マーベリックの低く、重い声音に怯む騎士の一人がちらり、とアイーシャ達に視線を向けてこの場で話しても良いのだろうか、と悩んでいるのが分かったのだろう。
マーベリックは「いい、話せ」と短く告げる。
マーベリックの言葉に騎士はぐっ、と眉を寄せたあとに情けない声で報告を上げた。
「申し訳ございません……っ、大罪人であるケネブ・ルドランとエリシャ・ルドランが牢から──っ」
「──っ、!?」
◇◆◇
バタバタ、と慌ただしく階段を降りる音が地下牢に響き渡る。
「詳細を説明しろ……!」
「──はっ」
城に戻るなり、マーベリックの元に届いた報告は耳を疑うような物で。
マーベリック達が王都を離れている間に、ケネブとエリシャは地下牢を脱獄した、との事であった。
「昨晩、牢番の交代時間になり、交代の者がこの地下牢にやって来た際、牢番は殺されており、ケネブ・ルドランとエリシャ・ルドランの姿は既に無かったようです……!! 近衛騎士に直ちに周辺を探させましたが、既に両名の姿は無く……っ」
「──まんまと脱獄された、と言う訳か……!」
「もっ、申し訳ございません殿下……っ!」
激昂するマーベリックに、騎士は怯えるように声を上げ、謝罪を口にするがマーベリックはそのまま二人が捕らえられていた地下牢へと向かう。
だが、マーベリックが地下牢に辿り着きその目で空の牢屋を確認すると怒りに任せ鉄柵を拳で殴り付けた。
ガシャン! と大きな音が響き、同行していたアイーシャ達、アイーシャはその音に肩を跳ねさせる。
これ程に怒りを顕にしたマーベリックは初めて見る。
だが、それもそうだろう。
自分が王都を離れている隙に簡単に脱獄されてしまったのだ。
「──あの二人を逃がした者が居るな。その人物が牢番も手に掛けたのだろう……っ」
「はい。城壁も一部破壊されており、恐らくその部分から外へ逃れたものとみられます……っ」
牢の中には、エリシャに付けられていた口封じの布が落ちており、現在エリシャは魅了魔法も信用魔法も自在に発動出来てしまう状態だ。
「エリシャ・ルドランが魅了魔法を国内で発動した際に、反応を察知出来る魔道具がある場所であれば直ぐに居所が分かるが……っ」
魔道具が無い場所で発動されてしまえば。
そもそも魅了魔法を発動せずに国から脱してしまえば。
二人を追う事が出来なくなってしまう。
「先ずは国境を封鎖するしか無い。それは陛下の命で既に済んでいるだろうな!?」
「は、はいっ!! 国王陛下の命により国境は封鎖しています……!!」
「ならば、後は──っ」
マーベリックが次に打つべきであろう手を模索していると、リドルが小さく声を上げた。
「殿下……! エリザベート・ルドランは!? あの者はまだ王城で捕らえられたまま、です……!! エリシャ・ルドランは母親に接触を図るのではないでしょうか!?」
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