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しおりを挟むアイーシャとクォンツ、ウィルバート三人は地下室から上の階に戻るとマーベリック達と合流するために荷物を纏め始める。
「──そう言えば、お父様。お父様が使用する転移魔法は、殿下の元へ正しく転移する事が出来るのですか……? 殿下達が今どの辺りまで進んでいるか……全くわかりませんが……」
「ん、? ああ、問題無いよアイーシャ。殿下には別れる前に私の魔力を封じた魔石をお渡ししている。私の魔力の元に転移すればいいだけだからね」
いつの間に魔石を渡していたのか。
あっさりと告げるウィルバートにアイーシャは感心してしまう。
「お父様は、流石ですね」
「ふふっ、そうかい? アイーシャにそう言ってもらえると嬉しいね」
楽しそうに親子の会話を交わす二人に、クォンツも優しげな表情を浮かべて見守る。
家族に蔑ろにされていたアイーシャ。
家族の記憶を失っていたウィルバート。
(出来れば……今後は穏やかに過ごしてもらいたかったが……それも暫くは無理か……)
王都に戻れば忙しくなるだろう。
(それに……ウィルバート卿の見た目……十年前と変わらない姿をどう説明するのか……。殿下はどのようにウィルバート卿を世間に公表するのか……。そもそも、ウィルバート卿を世間に公表しねえ、って言う事は無いだろうな……?)
悶々とクォンツが考え込んでいると、荷物を纏め終わったのだろう。
アイーシャとウィルバートが不思議そうな表情を浮かべてクォンツに視線を向けている。
「──クォンツ卿、? どうした? そろそろ殿下の元へ向かおう」
「え……っ、あっ、はい……! 今そちらに向かいます……!」
クォンツは声を掛けられはっとして、急ぎ足で二人の元へと向かう。
クォンツが近くにやって来た事で、ウィルバートはアイーシャとクォンツの腕を取るとぐっと握る。
「──では、転移するぞ。殿下達の直ぐ側では無く、少し離れた場所に転移する」
「分かりました、お父様」
「よろしくお願いします、ウィルバート卿」
アイーシャとクォンツの返事を聞き、ウィルバートは頷いた後、転移魔法を発動した。
一瞬で景色が変わり、三人が転移した場所は王都からそう離れていない街中にある建物の影だった。
「──ここは……マデランの街か」
ぽつり、と呟いたクォンツの言葉にアイーシャは周囲を見回す。
「マデランですか?」
「ああ。王都からさほど離れていない、流通も良くそこそこ賑わっている街だ」
「ここがマデランか? 十年前からは大分変わっているな」
「お父様も、マデランの街を知ってらしたのですね?」
「ふふっ、私も十年前はこれでも一応子爵領の領主だったからね? 国中色々と回った事があるんだよ」
にこりと笑顔を浮かべたウィルバートに、アイーシャははっとして顔を赤くしてしまう。
「そっ、そうでしたわ……! すみません、私は何を馬鹿な事を聞いてしまったのでしょう……!」
恥ずかしそうに両頬を抑えるアイーシャに、クォンツもウィルバートもほんわかとしてしまう。
少し場違いにもほんわか、としてしまった一同が建物の影から通りを見やった時。
「──殿下たちだ!」
クォンツが小さく声を上げ、アイーシャもウィルバートもそちらの方に顔を向けた。
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