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しおりを挟む保養所跡に戻って来た三人は、入口を入った所にある開けたスペースに荷物をどさり、と置きウィルバートがアイーシャとクォンツ二人に視線を向けながら口を開く。
「三人いるのであれば、二手に別れよう。私は自分が暮らしていた家を片しに向かう。それ自体には時間は掛からない為、アイーシャとクォンツ卿は私が家に向かっている間、この保養所跡を簡単に調べていてくれるだろうか?」
「それ、は可能ですが……。アイーシャ嬢と離れて行動して大丈夫ですか?」
あれ程に娘を溺愛している様子を見せていたウィルバートが、まさかアイーシャと行動を別にすると言い出すとは思わず、クォンツは些か呆気に取られたように言葉を返した。
「ああ。クォンツ卿の実力は把握している。状況判断も長けている。短時間であれば大丈夫だろう」
「──ありがとう、ございます」
まさかウィルバートからそのような言葉を掛けられるとは思っていなかったクォンツは素直に礼を口にするが、ウィルバートがぐっ、とクォンツに近付き、耳元で低く呟いた。
「……だが、アイーシャに手を出したらその場で即座に葬る」
「──肝に銘じます」
声色が本気だ、と判断したクォンツはウィルバートに間髪入れず言葉を返す。
言葉を返して、クォンツはウィルバートが言っていた「状況判断」とはこの事か。と妙に納得してしまう。
クォンツの返事を聞いて、ウィルバートは満足そうに頷くと不安そうな表情を浮かべているアイーシャに笑いかけた。
「アイーシャ、別行動とは言ってもほんの短時間だ。私は転移魔法を使えるから、家に行ってやる事を済ませたら直ぐに戻って来るよ。短時間だからあまりこの保養所跡を調べる事は出来ないとは思うが……クォンツ卿と先に調べておいてくれ」
「分かりました、お父様……。ですが、無理だけはしないで下さいね……? 魔力切れを起こしてしまえば……闇魔法はどのような事がお父様の身に起こるか分かりませんから……」
「ああ。気を付けるよ、だからアイーシャも気を付けて保養所内を調べてくれ」
アイーシャの言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべながら、頭を撫でるとウィルバートは荷物を置いたまま「じゃあ行ってくるよ」と言い放ちその場から一瞬で消えてしまった。
「──っえ!? ほ、本当に転移魔法と言う物があるのですね……っ」
キラキラとした黒い粒子を残してウィルバートの姿が消えた事に、アイーシャは瞳を見開いたままクォンツに話し掛ける。
「ああ。俺と父上もウィルバート卿の転移魔法で転移した時は本当に言葉を失ったからな……」
闇魔法は本当に滅茶苦茶だ、とクォンツが苦笑するのが分かる。
「──さて、アイーシャ嬢。この建物内を調べるとするか。もしかしたら、ケネブ・ルドランが邪教に関わっていた、と言う証拠が出てくるかもしれねぇしな」
「あっ! そうですね……! ならば、早く調べないと……っ、お父様が直ぐに戻って来てしまいそうですね」
アイーシャは急いで荷物を端に寄せると、動きやすいように羽織っていた外套を外し、髪の毛を高い位置で結い直す。
が、慌てている為か髪の毛を上手く纏められず、ぱらぱらと落ちて来てしまう。
それで更に慌てるアイーシャにクォンツは苦笑すると、近くまでやって来てアイーシャに問い掛けた。
「アイーシャ嬢、もし俺が髪の毛に触れても大丈夫であれば……。俺が結び直そうか?」
「──えっ、クォンツ様が、ですか!?」
「ああ。妹のシャーロットにねだられて何度か髪の毛をいじった事はあるからな。意外と手先は器用だと思う」
クォンツが結び直してくれるのであればアイーシャとしてもとても助かる。
アイーシャは自分の不器用さと、クォンツに結び直してもらう恥ずかしさに薄らと顔を赤くしつつお願いする事にした。
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