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しおりを挟む「──殿下……、ウィルバート卿……! それならば、先程話していた邪教と言う存在がケネブ・ルドランと繋がっているのでは無いですか……!?」
「何だと……?」
クォンツの言葉にマーベリックが怪訝な表情を浮かべ、どう言う事だと言葉を続けた。
「ルドラン子爵家からアイーシャ嬢を保護するにあたって、ルドラン子爵家の事を調べていたのです。何故、アイーシャ嬢があのような酷い仕打ちを受けねばならなかったのか……、何故エリシャ・ルドランの言葉を周囲は鵜呑みにするのか、を父の捜索に出る前に調べていたのですが……」
「クォンツ様、そこまで調べて頂いていたのですか……」
クォンツの言葉に、アイーシャは驚きに目を見開いてしまう。
あの家から保護してくれただけでは無く、何故アイーシャがあの家で不当な扱いを受けなければならないのか、何故誰もアイーシャの言葉を信じずエリシャの言葉ばかりを鵜呑みにするのか。
それを調べて、クォンツはルドラン子爵家の当時の事を僅かではあるが情報を得た。
「──ああ。アイーシャ嬢を保護したと言っても、一時だけの一時しのぎになったら意味がねえだろう? だから、ルドラン子爵家の事を調べていた。……殿下のお陰で、エリシャ・ルドランが魅了と信用魔法を乱用していたのは分かったが……それ以外にも……。ウィルバート卿と、奥方が合った馬車の転落事故……。そもそもが仕組まれていたんじゃねえか、と思ってな……」
「仕組まれていた、なんて……そんな……」
クォンツの言葉にウィルバートは信じられない、と言うようにぽつりと言葉を零す。
もし、クォンツの言葉が事実であればケネブ・ルドランは実兄と、その伴侶を手に掛けたと言う事だ。
それに加えて、娘への魅了魔法と信用魔法の習得を促し、国で調べる事すら禁じられている消滅魔術の取得も促し、更には邪教と関わりがある可能性まであるとしたら。
ケネブ・ルドランの罪はどれだけの物になるのだろうか。
「十二年前、ルドラン子爵は御者を三人程採用した記憶が残っておりました。そして、十年前の転落事故が起こった際に、二年前に採用した御者が当日馬車の御者を務めていたのですが……その御者……。ケネブ・ルドランから斡旋を受けていたのです」
「──っ、!」
「そうして、その御者も当時の転落事故に巻き込まれ、亡くなったと記録はされていましたが……」
クォンツが言葉を濁した事で、顔色を悪くしたウィルバートが小さく呟く。
「──まさか……」
ウィルバートの考えを肯定するようにクォンツは眉を寄せると、ぐっ、と感情を押し殺すようにしてこくりと頷いた。
「ええ……。その馬車の御者は、生き延びていて……。ルドラン子爵邸の使用人に戻る事が出来ぬから、と再びケネブ・ルドランの用意した推薦状を持って他家に雇われていました」
いったい、クォンツはどんな魔法を使って十年前以上も前の事を調べたのだろうか。
だが、そのクォンツの調べてくれた情報のお陰で、十年前に起きた恐ろしい思惑が少しずつ形となってきていて。
アイーシャは自分の口元に手を当てると声を出してしまわないようにぐっ、と耐える。
気を付けて、耐えておかねば口汚い言葉が零れ出てしまいそうだ。
「ケネブが……っ、御者を……」
ウィルバートも、まさか自分が巻き込まれたあの馬車の転落事故が仕組まれた事であったとは考えつかなかったのだろう。
マーベリックとリドルは痛ましい表情を浮かべ、クォンツの言葉を正しすかに座して聞いている。
「──っ、ならば……! ならばその御者を何とか説得して……っ、ケネブに依頼された事を話してもらえば……っ」
そうすれば、ケネブには重罪が課せられる。
ウィルバートは、愛する妻の命を奪ったケネブを許すつもりは無い。
愛する娘を孤独に過ごさせ、長い時間笑顔を奪った事を許すつもりは無い。
自分の手でケネブに罰を与えたいとウィルバートは強く願うが、クォンツが揃えてくれた証拠だけで十分効力がある。
そもそも、侯爵家の人間が調べた物が裁判で証拠として認められないと言う事は無い。
だが、そのウィルバートの考えを打ち砕くようにクォンツは小さく首を横に振った。
「──けれど……、けれどその御者に会う事はもう出来ません……」
悔しそうに唇を噛み締めるクォンツに、それまで黙って聞いていたマーベリックが吐き捨てるように言葉を紡いだ。
「その御者……。消されたか」
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