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しおりを挟む「──なっ!?」
ウィルバートの信じられない言葉に、マーベリック達一同は驚愕に言葉を失う。
だが、直ぐに気を取り直してマーベリックはウィルバートの言葉を否定するように口を開いた。
「待て……っ、待て……! そのような、事……っ! 人を合成獣にするなど……っ、そんな方法ある筈が無いだろう……!」
そんな、人道に反した行いがあってたまるか、と言うようなマーベリックの言葉にウィルバートはゆるりと首を横に振った。
「──古い神話の書物や、言い伝えられている神話にはあのような合成獣の記述がございます。……それに、古くから伝わる神話を拠り所にする団体がある事も殿下は知っておられる筈です」
「──っ、! 邪教か……!」
ウィルバートの言葉にマーベリックは眉を顰めて吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
──邪教。
それは、いつから存在しているのか分からない正体不明の団体である。
マーベリック達の国以外にも、世界中にその邪教は浸透しており、邪教徒は様々な国に潜んでいる。
国々は邪教を取り締まり、団体を解散させているが解散させてもそれは氷山の一角であり邪教が人の営みの中から根絶する事は無かった。
神を信じ、讃える教会があれば、己達が信ずる神を作り出し、または神話に登場するものを神と崇め、心酔し讃える邪教もある。
だが、邪教徒達は自分達が人道に反していると言う自覚など無い。
讃える神の為に、信ずる神の為に行動し、そして再び神がこの世に戻るのを信じているのだ。
罪の意識の無い者がこのような残酷な所業を行ったのか、とマーベリックは考える。
確かに、古くから存在している邪教には一般の者が知る事の無いような魔法が存在していると言う事は聞いた事がある。
「──だが、俄には信じがたいそんな事が本当に……、? そんな得体の知れない魔法などがあると?」
「……得体の知れない魔法、と言う物は殿下もしっかりと見ておられるではございませんか」
「……、? どう言う事だ……、?」
ウィルバートの言葉にマーベリックが分からないと言うような表情を浮かべると、ウィルバートは苦笑する。
「十年前から姿の変わらない人間を、殿下はしっかりとその目で見ておられます……。馬車事故に合った当時、私は三十でした。十年時間が経っていると言うのに、私は四十には見えないと思います」
「──っ!」
すっかり頭の中からその不自然さが抜けてしまっていたが、確かにウィルバートの言う通りである。
ウィルバートは、十年経った今でも当時の姿のまま老いる事無く目の前に存在している。
そんな事は普通であれば有り得ない。
ウィルバートは苦笑すると、次に自分の手のひらに魔力を具現化させる。
真っ黒い光の粒子が煌めき、ウィルバートの手のひらの上で輝いている様子をマーベリックを初め、リドルやクラウディオも時間が止まったかのようにじっと凝視した。
「殿下も薄々勘付いておられたと思いますが……存在があやふやである、闇魔法──。その闇魔法の使用者が殿下の目の前に居ます。有り得ない事は有り得ない、のです」
悲しげなウィルバートの声が小さく空間に響き、マーベリック達はこくり、と喉を鳴らした。
そうして、アイーシャ達は魔物の死骸や血で汚れた場所から移動し、大人数が腰掛けられる部屋に落ち着いた。
クォンツ、リドル、クラウディオが風魔法と水魔法を組み合わせた複合魔法で人が座れる程度にソファを清潔にし、マーベリックの護衛を数人同室させて他の隊員達は外の広間に待機させた。
母親、イライアの形見であるドレスを腕に抱いたアイーシャを挟むようにクォンツ、ウィルバートがソファに座り、その正面にマーベリックとリドルが。一人掛けのソファにクラウディオが腰を下ろしている。
マーベリックは眉間を揉んだ後息を吐き出し、ウィルバートに視線を向けた。
「ウィルバート殿……。貴殿が闇魔法の使用者、と言う事には確かに気付いて居た。戦闘時にあの黒い粒子を見て……他の属性の魔法ではあの色の粒子は出ないからな」
ソファの背もたれに力無く凭れたマーベリックは「それで……」と言葉を続ける。
「何故ウィルバート殿が闇魔法を使用出来る事になったのか……変わらぬその姿は何故なのか……、王都に戻ってから訪ねようと思っていたが……悠長に構えていられる場合では無さそうだ」
「──ええ。邪教が絡んでいるのであれば、早急にお話した方が良い、と思います」
ウィルバートはそこで一度言葉を切ると、隣に座るアイーシャの腕の中にあるイライアのドレスに視線を向けた後話し始めた。
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