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 アイーシャ達は、マーベリックの指示の元保養所跡の直ぐ側で待機しながら外観を眺め、ぽつりぽつりと会話をする。

「──このような場所があるなんて……初めて知りました」
「ああ。私もあまり気に止めていなかったのだが……四代、いや五代前のルドラン子爵が別邸やカントリーハウスで働く者達の為に建てたそうだ。わざわざカントリーハウスやタウンハウスからやって来る使用人も居たようで、当時は山中の道も整備され、賑わっていたようだぞ」
「そうだったのですね……、だからこの近くには人の手が入った痕跡が多く残されて……」

 ウィルバートの言葉に、アイーシャは納得するように頷いた。
 保養所跡にやって来る道すがら、所々人が通れるように整備されていた痕跡があった。
 昔は、この保養所を利用する人も多かったのだろう。だが、いつしか利用する者が減り今ではすっかり廃墟のような外観をしている。

 何故人の利用が減ってしまったのだろう、と考えるアイーシャの思考を読んだかのようにウィルバートが言葉を紡ぐ。

「廃れてしまったのは色々と理由があったそうだが……この山中で獣が出たり、魔物が頻出するようになり、保養所を利用していた使用人達が何人か犠牲になったそうだ。討伐の為にかつての当主は討伐隊を組み送り込んだらしいが……結果はこうだ」

 ひょい、と肩を竦めて語るウィルバートにアイーシャは眉を寄せて言葉を返した。

「獣、や……魔物が頻出したせいで廃れてしまったと言うのであれば、今現在もこの付近には魔物が多いのでは無いでしょうか……? この建物に、危険は無いのでしょうか……」
「──それを今調べさせているから安心してくれ、ルドラン嬢」

 アイーシャとウィルバートの会話を聞いていたのだろう。
 離れた場所にいたマーベリックが二人に近付きながら安心させるように言葉を発した。

「先鋒隊は、気配に敏い者達を使っているからな。魔物が居れば直ぐにその気配を察知して即座に報告するだろう──」
「──殿下!」

 マーベリックの言葉とほぼ同時に。
 まるでマーベリックの言葉に被さるようにして、焦った声が保養所跡から聞こえて来た。

「何事だ!?」

 マーベリックが鋭い視線を保養所跡に向けると、その建物の入口から慌てて出てくる先鋒隊の一人がマーベリックを呼び、こちらに急いで戻って来る。

 先鋒隊の一員は、きっちりと着込んでいる隊服を所々破れさせ、怪我をしているのだろうか。
 肌には薄らと血が滲んでいる。

「──建物内、深部に魔物が巣食っていたようです……! 物音に反応し、魔物が……!」
「……っ、直ぐに向かうぞ!」

 慌てふためく先鋒隊の隊員の言葉を聞くなり、マーベリックは腰に下げていた剣を抜き放つとアイーシャ達に向かって声を上げる。
 クォンツとクラウディオは長剣では無く、懐から刀身の短いダガーを。
 リドルはマーベリックに伴い長剣を抜き、刀身に魔法を付与している。

 アイーシャも、いつでも攻撃魔法が放てるように心を落ち着かせていると、隣に居たウィルバートがそっとアイーシャの肩に手を置き、建物の方向へと体の向きを変える。

 既にマーベリックとリドルは、攻撃魔法部隊を先頭に建物内の入口まで行っており、クォンツとクラウディオは後に続くアイーシャとウィルバートを待つように建物の手前で停止している。

「アイーシャに危険が及ばないように私がしっかりと守るから安心しなさい」
「っ、ありがとうございますお父様……! ですが、お父様もあまり魔法を使い過ぎないようにして下さいね? 私も、多少ですが攻撃魔法は覚えておりますので」
「ふふ、十年の内にアイーシャは頼もしくなったな。喜ばしい事だ。ならば私の魔力が切れたらお願いしようか」

 ウィルバートは小さく笑い、アイーシャの背中を優しく押してやりながら建物の前で待つクォンツとクラウディオに合流すると、躊躇いなく建物内に足を踏み入れた。
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