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マーベリックが出立すると告げた時間の少し前に、アイーシャとウィルバートは天幕を後にした。
天幕の撤去は隊員が行ってくれるらしく、二人は礼を告げてからマーベリックに言われた野営地の入口付近へと移動して来ていた。
アイーシャとウィルバートが入口にやって来ると、そこには既にクォンツが待っていた。
「クォンツ様?」
「──早いな」
二人に声を掛けられ、クォンツは何とも言えない情けない表情で二人に言葉を返す。
「……一人でじっとしていると色々考えてしまいそうで。ここに居れば、人が動いている所を見て気が紛れますし」
クォンツの言葉にウィルバートは「そうか」と言葉を返すと三人の間に重苦しい空気が漂う。
何か言葉を発した方が良いとはわかっているが、口を開けば不安を煽るような言葉しか出てこないような気がして。
三人が押し黙り、マーベリックとリドル、クラウディオを待っていると三人が談笑しながら近付いて来る声が聞こえて来て、アイーシャ達は声の聞こえる方向に視線を向けた。
「──三人共、早いな。待たせてしまったか?」
既に入口で待機していたアイーシャ達三人に気付くと、マーベリックが驚いたように声を掛けてくる。
マーベリックの言葉に、ウィルバートは「いえ」と曖昧に笑って返事をした。
マーベリック達と合流した面々はウィルバートの案内の元、施設が建てられる程の土地がある場所や、魔物が多く発生していた場所を確認しに行くが、ウィルバートが子爵領の山中を歩くのは十年振りである。
「──申し訳ございません、殿下……。私の記憶と……現在の山中の様子は大きな違いがあるようで……」
「その、ようだな……」
「自然災害などによって地形が変わっているのでしょう。昔はこの場所にあった小屋なども取り壊されています……」
ウィルバートの案内で、アイーシャ達は何ヶ所か確認して来ていたが今の所ケネブが使用していたような施設が見付かる事は無かった。
「──闇雲に探しても見つからんか……。もしくは、地面の下か……? ケネブ・ルドランにもう一度吐かせるか」
マーベリックが口元に手を当てて思案する。
ウィルバートは力になれず申し訳無い、とマーベリックに謝っているが、ウィルバートで見つけられぬのであれば今回のような短期間の調査で見付ける事は難しかったのかもしれない。
マーベリックは、薄らと日が落ちて来てしまい、周囲が薄暗くなって来た事を確認するときょろ、と辺りを見回してウィルバートに顔を向けた。
「ウィルバート殿。この近くに野営が出来そうな場所はあるだろうか? 日が落ち切ってしまう前に出来れば休む場所を確保したいのだが……」
「ええ、それでしたらこの先に幅の狭い川がございます。その川を越えて、北東の方向を一時間程下ると数代前のルドラン子爵が働く者の為に作った保養所跡が。私がこの地を治めていた頃は定期的に管理させてましたが……」
「そうか、そんな所が。まあ、屋根さえあればどうとでもなる。今夜はそこで野営としよう」
ウィルバートの言葉にマーベリックは頷き、再び先鋒隊に場所の確認をさせる。
「我々は少し歩く速度を落として川向うを下るとしようか。ゆっくり向かいながら先鋒隊の戻りを待つぞ」
マーベリックの言葉に従い、ゆっくりゆっくりと途中小休憩を挟みながら下って行くと、途中で先に放っていた先鋒隊が戻って来る。
先鋒隊はウィルバートが説明した保養所と見られる建物がある事。
建物が崩れておらず、足場もしっかりとしている為大人数が建物内に入っても大丈夫であろう事を伝える。
「ウィルバート殿。保養所跡のような物はあったようだ。助かった」
「いえ。お役に立てて幸いです、殿下」
マーベリックはウィルバートに礼を告げると、雨風を凌ぐ場所で今夜は過ごせそうだと気が楽になった。
川向うを下り続け、一行はへとへとになりながらようやっと保養所跡の姿を視界に入れると、皆の表情が輝く。
「──お父様、あの建物が……?」
「ああ。私も中に入った事は無いが……まだ残っていて良かった」
今日はこの地で休む事も出来るし、この建物内を調べる事も出来るだろう。
保養所跡と言うだけあり、建物はとても大きく恐らく内部も広い。
これは調査も骨が折れるかもしれないわね、とアイーシャが考えているとマーベリックに指示を受けた先鋒隊が建物内に入って行くのが見えた。
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