68 / 169
68
しおりを挟むリドルがそのような事を考えている内に、マーベリックとアイーシャの会話は進んで行ってしまっており、マーベリックが次に言葉にした事にリドルはぎょっと瞳を見開く。
「そうだな……、ルドラン嬢も気になっていたあの閃光の発生した方角……確認してみるのも良いかもしれん……」
「ちょっ、ちょっと待って下さい殿下……!」
マーベリックの口からとんでもない言葉が放たれて、リドルは焦って止めに入る。
「国王陛下より許可が降りたのは、このルドラン子爵領にある別邸での滞在及び別邸内を調べる事のみです……! 王太子殿下自ら、あのような山中に向かうなど……! 陛下はお許しになりませんよ……!」
「──うむ……。陛下が許可を出したのはこの別邸内のみ……それは分かってはいるが……"あの者達"が吐いた内容を鑑みれば、山中にも何かしらあるやもしれんだろう……? ここで見逃し、万が一我が国の国民達に何かあってみろ? 私は違和感を感じたと言うのに、何もしなかった己を恨むぞ……」
マーベリックからじっ、と真っ直ぐに見つめられ、リドルはぐっ、と言葉に詰まる。
「……殿下の仰る事は……、お気持ちは良く分かります……。ですが、今回こちらに赴いた人数ではとても山中に入れません。事前に準備をしていなかった為、万が一魔物と遭遇した際、御身に危険が及びます……。私や、護衛の者が魔法を使用しある程度戦闘が出来ると言っても……不測の事態が発生した際に混乱せず指揮を取れる指揮官級の者はおりません……。せめて、山中に入るのであれば指揮官級の者を王都よりお呼び下さい……!」
リドルだって、本音を言えばあの山中の光は気になっている。
自分だって確認しに行きたいのだ。
だが、先程エリシャが吐いた言葉を思い出すととても軽装備であの山中に足を踏み入れる事など出来る筈も無い。
「殿下も、エリシャ・ルドランが言っていた言葉をお聞きになっていた筈です……! あの親子は、何度もあの山中に足を運んでいたと……! エリシャ・ルドラン自身がまだ幼かった為その目的は定かではございませんが、恐らく良く無い事をケネブ・ルドランはあの地で行っていた筈です」
「──それ、は……っ、分かっているが……」
リドルの言葉にマーベリックは悔しそうに眉を寄せると、窓の外へと視線を向ける。
今はもう先程のような閃光は発生しておらず、再び夜の闇に包まれているがあの場所が気になって仕方ない。
だが、リドルとマーベリックの会話を聞いてしまっていたアイーシャは不思議そうに唇を開いた。
「……エリシャが……、エリシャがあの山中に行った事があると……告げたのですか……? エリシャも、お義父様もこの邸にいらっしゃるのですか……?」
アイーシャの言葉に、リドルもマーベリックもしまった、と心の中で呟く。
あの二人を連れて来ていたのは情報を吐かせる為。吐かせる為には拷問めいた事を行っているのだ。その様子をアイーシャには最後まで隠し通そうとしていたが、リドルもマーベリックもつい先程まで蔵書室に居た時の雰囲気で話しをしてしまった。
「ル、ルドラン嬢……」
リドルがどう説明したものか、とアイーシャに言葉を掛け、そして良い説明が思い浮かばずに言葉が途切れてしまう。
アイーシャは、そのリドルの様子とマーベリックの何とも言えない表情を交互に見て、ある程度察してしまった。
女子供に最後まで隠し通すつもりだったと言う事はあまり良くない内容だろう。
「お義父様も、エリシャも、……許されない事をしてしまったのですね……?」
ぽつり、と呟いたアイーシャの言葉にマーベリックはアイーシャに一歩近付くと肩にそっと手を置く。
「……すまないな、アイーシャ・ルドラン嬢。深く考えないでくれと言っても察してしまっただろう。……ならば隠す事はもうしない」
「──はい」
「あの二人……いや、エリシャ・ルドランは、魅了魔法と消滅魔術を取得しているのはもう知っているな? その取得した切っ掛け、取得方法を吐かせる為に我々に同行させていた。……ルドラン嬢が見付けてくれた蔵書室で、ケネブ・ルドランがどのようにして自分の娘にその魔法を取得させたのかはある程度分かった」
アイーシャはマーベリックの言葉に何て事を、と小さく呟く。
「エリザベート・ルドランに関してはこの件とは無関係ではあったので、極刑は免れるだろうが、あの二人は極刑は免れない……。それだけの事をしてしまったのだ。……そして、あの二人……いや、ケネブ・ルドランはそれ以外にも罪を犯している可能性が出てきてな……それが、あの山中にあるやもしれぬ、と言う事だ」
「我が子爵家の者が、大変申し訳ございません。……国への叛逆罪……子爵家の一員としてしかと罰はお受け致します。……お義父様が山中に、まだ何かを隠している可能性がある、と殿下方はお考えなのですね?」
アイーシャの言葉に、マーベリックは頷く。
「あの山中……幼い頃に父と何度か登った記憶がございます……。魔力が豊富で、とても不思議な場所がある、と父が申してました……。結局、その場所を見付ける事は出来ませんでしたが……」
悲しそうに瞳を細めて懐かしむように窓の外に視線を向けるアイーシャに、マーベリックもリドルも瞳を細めた。
「──魔力が豊富な場所が、ある……?」
89
お気に入りに追加
5,661
あなたにおすすめの小説
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
【完結】これからはあなたに何も望みません
春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。
でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。
結婚して三年が過ぎ。
このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。
リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。
※完結まで作成済み。11/22完結。
※完結後におまけが数話あります。
※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~
柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。
大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。
これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。
※他のサイトにも投稿しています
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる