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しおりを挟むクォンツがアイーシャの本当の両親が事故死した事を調べる為に取り寄せた資料には、基本的な事柄しか載ってはいなかったが、それには一通り目を通している。
しっかりと調べる事が出来ずに直ぐに自分の父親の捜索に向かってしまった為、得た情報は多くないが、アイーシャ六歳、ウィルバート三十歳の時に痛ましい事故が起きたらしい。
貴族の馬車の転落事故。
しかも、この領地を発展させて来たルドラン子爵家の当主と当主夫人が馬車に乗っていたと言う事から大規模な捜索隊が派遣されたが、結局見つかる事は無く、事故死と言う形で捜索は打ち切られ、アイーシャはある日突然両親をいっぺんに亡くした。
(そりゃあ……捜索も打ち切られる訳だ……)
クォンツは、アイーシャの母親の墓標がある丘をぐるり、と見回して今自分がどの辺りにいるか凡そを把握する。
(ここは、隣国の土地……国を越えた山中まで流されてんだ……まさか捜索隊も隣国まではやって来れねぇ筈……)
国と国の間には、薄らとではあるが魔法障壁が張られている。
個々で通ったり、冒険者登録をしている人物であれば障壁に引っ掛かる恐れは殆ど無いが、大人数が突然障壁を越えたり、その付近に集まれば国の中枢に報せが入る。
軍隊をすぐ側まで来させない為、簡単に攻め込ませない為の障壁ではあるが、その障壁自体は弱い。
だが、大人数がその障壁に近付けば国の中枢に直ちに報せが入る為、馬鹿正直に戦争を仕掛ける国々は減って来てはいる。
ちょっとした抑止力にはなってはいるが、今回のように僅かな人数が国境を越えたとしても国に報せは行かない。
(……それも……どうかと思うがな……。父親は国でもかなりの実力者だ……。冒険者なんぞやっているが、力のある冒険者が国に所属して他国に入り込み、暴れたら軍を出さねば制圧出来ない……)
クォンツは、そこまで考えるとちらり、とウィルに視線を向け、背中に薄らと汗をかく。
(だが、それはウィル、と言う男も同じ事──。この男……魔力量が膨大過ぎて……どれだけの力を秘めていやがんのか……)
クォンツの視線に気付いたのだろうか。
ウィルは不思議そうな表情を浮かべ、小首を傾げている。
クォンツはウィルに向かって笑顔を浮かべて誤魔化すと、ウィルと父親が「そろそろ戻ろうか」と話している内容に自分も同意して歩き出した二人に着いて行く。
(恐らくウィル殿はウィルバート・ルドラン子爵で間違いない……。アイーシャ嬢の母親であるイライア・ルドラン夫人が亡くなってしまっている事は……残念ではあるが……。記憶を失っているのであれば、ウィル殿には失った記憶を取り戻して貰う事を第一に考えるしかねえな)
記憶の取り戻し方、それに馬車事故を恐らく仕組んだケネブ・ルドラン。
そして、隣国の山中に程近い自国のあの山中で出た得体の知れない魔物。
頭を悩ます事柄が大いにあるが、今この場にはクォンツの父親も居る。
相談し、何か良い案が無いか。
それを話し合ってみよう、とクォンツは考えながらウィルと父親の背を追った。
◇◆◇
時は遡り、クォンツが魔物と戦闘を行っていた頃合。
クォンツが魔物に追い詰められ、氷魔法と雷魔法を放った時。その雷魔法は空を一瞬眩く照らした。
クォンツが魔物と戦闘をしていた場所は、ルドラン子爵領であり、アイーシャ達が滞在している別邸から然程離れていない山中。
その為、クォンツの放った雷魔法はしっかりとアイーシャ達が滞在する別邸にも届き、自室に戻って、眠れぬ夜を過ごしていたアイーシャの視界にもしっかりとそれは届いた。
「──……っ、あれは……っ」
部屋に戻って居てくれ、とマーベリックとリドルに言われたアイーシャは、自室に戻ったはいいものの、中々寝付けず窓の外を何の気なしに眺めていた。
そうして、眺めていた窓の外。
夜の帳が降り、真っ暗で何も見えない外の景色が突然一瞬だけ明るく照らされた。
「──自然発生の雷にしては、不自然だわ……。誰かが雷魔法を……?」
あのような山中で、このような時間帯に雷魔法を発動するなんて何かよっぽどの事が起きたのでは無いだろうか。
アイーシャは素早くベッドから降りるとクローゼットへと急ぎ足で向かい、ガウンを羽織る。
──何故かは分からないが、何だか胸騒ぎがする。
翌朝に、マーベリックやリドルに話してもいいのでは、と一瞬アイーシャは考えたが、このように気になったまま眠れる筈が無い、と考えを改めるとそのまま自室の扉を開けて廊下へと踏み出した。
階段付近に居る護衛に声を掛けて、マーベリックの居る蔵書室へと向かう事にしたのだった。
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