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しおりを挟む「この様な時間帯に大変申し訳ございません、王太子殿下」
「護衛から話は聞いた。ルドラン嬢、リドルも入ってくれ」
アイーシャとリドルに視線を向けると、マーベリックは座ったまま手を上げて二人を室内に通す。
マーベリックから入室の許可を貰い、アイーシャが室内に入ると、扉の前に居た護衛も入室して扉の横に待機する。
他にも二人程護衛の姿があり、その護衛達は王太子であるマーベリックの専属護衛なのだろうと言う事が分かる。
まだ、どんな事が起きているのかマーベリックは把握していない。
その為、自身の周辺を護衛に守らせているのだろうと言う事が伺えて、アイーシャは急ぎ先程蔵書室で自分が見た事を説明する事にした。
入室を許可され、リドルはアイーシャを一先ずソファへと促すと腰を下ろす。
その際、マーベリックから視線を向けられたリドルは真剣な表情でマーベリックに向かって唇を開いた。
「殿下、もしかしたらお探しの物を……いや、場所? をルドラン嬢が見付けてくれたかもしれませんよ」
リドルの言葉にマーベリックは瞳を見開くと、小さく「何!?」と声を漏らす。
その後、マーベリックはアイーシャに視線を移すと、マーベリックからの視線を受けてアイーシャはこくりと頷いた。
「はい、殿下。おかしな部屋が……いえ、おかしくなっている部屋があったのです」
「……詳細を話してくれ、ルドラン嬢」
マーベリックに促され、アイーシャは説明を始めた。
元々、この別邸では自分の両親が亡くなる前に良くここに滞在していた事。
そして、知識欲に貪欲だった両親は特別な部屋を作り、その部屋を当時アイーシャが遊んでいた子供部屋に隠した事。
隠し部屋であるその部屋は蔵書室である事。
様々な蔵書を両親は所持しており、その部屋は大切に維持されていた事。
けれど。
「──十年振りにそこを訪れると、そこは荒れ果て、ある場所の蔵書が大量に消失していました」
アイーシャの言葉にマーベリックは思わずソファから腰を上げ掛けたが、自分の気持ちを落ち着かせるように一度息を長く吐き出すとその場所は何処にあるのか、アイーシャに確認する。
「ルドラン嬢。その、ご両親が良く利用していた蔵書室はどの場所にある?」
「下の階の東館奥、人の利用が少ない場所にその部屋の扉があります。……ご案内致します」
アイーシャの言葉に、マーベリックはゆるゆると首を横に振るとアイーシャの申し出を断る。
「いや……。これからその隠し部屋の蔵書室を調べるとなるとどれだけ時間が掛かるか分からない。女性をそんな深夜まで起こさせ案内させるのは忍びない。……場所と、隠し部屋への行き方を教えて貰えば後は私とリドル、護衛の者達で確認しに行こう。ルドラン嬢はもう寝なさい」
「で、ですが……。この邸内の事を多少覚えている私がご同行しなくても宜しいのでしょうか……」
「ああ。不明な部分は纏めておくから、明日ルドラン嬢に聞こう。ルドラン嬢は怪我が治ったばかりでもある。後は私達に任せて休みなさい」
気遣うようにマーベリックにそう言われてしまえば、アイーシャは頷くしかない。
アイーシャは眉を下げたまま、マーベリックの言葉に頷き、そして詳しい部屋の特徴や、隠し部屋の入り方をマーベリックとリドルに説明すると、マーベリックとリドルに促されて先に休む事になった。
「ルドラン嬢。お部屋までお送りしますよ」
「──えっ、あ……っ、申し訳ございません、ありがとうございます」
マーベリックの指示で、護衛にアイーシャを送らせると、アイーシャが扉から出て行く姿を見送る。
最後にぺこり、と頭を下げて部屋から退出するアイーシャに、リドルは笑顔で手を振るとソファに背中を付けて息を吐き出す。
「……まさか、こんなに早く見付かるとは……」
「ああ。ルドラン嬢が見付けてくれて助かった。早く動けそうだな」
リドルの言葉に、マーベリックは言葉を返すと腕の袖のボタンを外し、腕まくりを始める。
その様子を見たリドルはぎょっと瞳を開くと、マーベリックを止めるように声を掛ける。
「まさか、マーベリック自身がやるのか……? やめておけ、護衛に任せた方がいいんじゃないのか……?」
「──いや、私がやろう。……おい、二人を連れて来てくれ」
マーベリックは腕まくりを終えると、ソファから立ち上がり護衛に声を掛ける。
マーベリックに伴い、リドルもソファから立ち上がると部屋の扉へとスタスタと歩いて行ってしまうマーベリックの隣を歩く。
「……まさか、エリシャ・ルドランとケネブ・ルドランを連れてくるとは思わなかったよ」
「──? 当人達にはしっかりと現地に来て貰った方が良いだろう? この場所で行う方が効果的だ。……人は死の恐怖や耐え難い痛みに直面した時救いを求めるように無意識にその場所へ視線をやったり、助かる為に情報を口にする。……父親は頑なでも、娘ならばいくらでも揺さぶりようがあるからな」
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