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しおりを挟む表情の読めない人物が手に持った物を見て、ケネブは瞳を見開くとその場で藻掻き始める。
あの道具の形状を見れば、それがどんな目的で使用するかなど簡単に分かる。
(絶対に、言うものか……! 国家叛逆罪などっ、そんな大層な事……っ、ただ私は……っ)
ケネブ・ルドランにはとても優秀で皆から好かれる兄が居た。
子供の頃は優秀な兄が、皆から褒められる兄がとても誇らしくまるで自分が褒められているように嬉しかった。
けれど、優秀な兄と比べて自分は平凡。
平凡な容姿に、平凡な頭脳。
比べて兄は容姿も良く、優れた頭脳を持ち、カリスマ性もあった。
兄の周りには常に人が集まる。
対して、自分の周りには人は集まらず、兄を誇らしく思っていた気持ちが。憧れていた気持ちが。
次第に妬ましく、疎ましく感じて来た。
自分には無い物を沢山持っている兄。自分には到底手に出来ないような地位も、評価も、信頼も。全て全て兄が持って行ってしまった。
喉から手が出る程に欲しかった様々な物。
だから、幸せ絶頂の頃。
全てを奪ってやった。
順調に行っていた仕事も。
愛する一人娘の成長を見守る事も。
全部奪った。
成長して行く可愛い自分の娘の姿を、どれだけ見たかっただろうか。
愛する娘が、年頃になり良い人と結ばれ、幸せになる未来を見たかっただろう。
けれど、その未来への希望も楽しみも何もかも奪った。
愛する娘が、婚約者に蔑ろにされ、傷付く姿を見る度に胸がすっとした。
愛する娘の為に残された財産を娘の為に殆ど使わず、自分達で消費した。
愛する娘の心を傷付け、長年虐げて来た。
どれだけ悔しい思いをしているのか。
その顔が見れない事だけが悔しく、心残りではあるが今となってはどうでも良い。
兄が残した商会を通じて、良い取引先とも知り合えたのだから。
魔物は、良い商売になる。
ちまちまと品物を売って、ちまちまと金を稼ぐなど頭の悪いやり方だ。
長年、金を注ぎ込み投資は莫大となってしまっが近年ようやく形になったと言うのに。
それが全て無に帰してしまう事だけは避けなければいけないのに。
それなのに、何故自分は今王城で拘束され、このような拷問めいた仕打ちを受けねばならないのか。
あと少し、あと少しで可愛い自分の娘にあの兄の娘から奪った婚約者を与えてあげられた。
あと少しで、莫大な金が手に入る所だった。
あと少しで、あの兄の娘を壊す事が出来たのに。
ケネブは、自身を襲う強烈な激痛に耐える事は出来ず、意識を失った。
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