【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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「──子爵家、の案内ですか……」

 アイーシャはマーベリックから告げられた言葉に困ったような表情を浮かべ苦笑する。

「……、? 何か問題でもあるのかルドラン嬢?」

 アイーシャのその表情に何処か引っ掛かりを覚えたマーベリックがそう問うと、アイーシャは何とも言えない顔をしてマーベリックに事情を説明した。

「えっと……。私がお義父様の仕事部屋である書斎や……プライベートルームに入室するのを嫌がられておりましたので……その、何処にどんな部屋があるのかはある程度ご案内出来ますが、室内に関しては殿下達と同じく……あまり力になれないかもしれません……」

 貴族の邸は広い。
 王都にあるタウンハウスは限られた土地に建てる為、カントリーハウス程の広大な広さを誇る程では無いが、それでもアイーシャのルドラン子爵家は莫大な財を築いて来た一族だ。
 タウンハウスもルドラン子爵家と同様の子爵位を持つ他の貴族の邸よりも面積は広く広大で。
 クォンツやリドルの侯爵家、公爵家程の広さは持ってはいないが、邸内を調べると言っても短期間で済まないであろう事は分かる。
 タウンハウスのみならず、領地にあるカントリーハウスまで調べる、と言う事になれば一体どれだけの時間が掛かってしまうのか。

 その事を危惧したアイーシャが申し訳無さそうに口にする言葉を聞き、マーベリックは「そうか」と小さく呟いた。

「……そうだ、そうだった……ルドラン子爵家は確か領地にカントリーハウスと複数の別邸を持っていたな……。それを全て調べて行くとすると骨が折れる……」
「は、はい……。目的の物を探すような魔道具などがあれば別ですが……」
「いや……。抽象的な物だからな……、魔道具でもそのような物を探すのは厳しいだろう……」

 マーベリックは一旦言葉を切ると考え込むようにして視線を床へと落とす。

(──欲しいのは、魅了魔法に関する物や古代語で書かれた書物……蔵書類……。そのような物がタウンハウスの邸宅にあればいいが……万が一にも見付かる可能性を避ける為にはタウンハウス内には持って来ない、か……? ならば、カントリーハウスの邸か……別邸……別荘代わりに利用していた場所に的を絞るか……)

 マーベリックは、ルドラン子爵家が治める領地を頭の中に思い浮かべる。

 そこは、奇しくもクォンツが消えた父親を探しに行った場所から程近い場所で。
 隣国とそう距離が離れていない場所。
 そして、アイーシャの両親が転落死した場所かはも離れていない場所。

「──……っ、」

 そこで、マーベリックはクォンツがアイーシャの両親の事故死について調べていた事を思い出す。
 王都を経つ前、クォンツは侯爵家からの正式な依頼として過去の事件の資料の謁見許可証を提出して来た事は記憶に新しい。

 クォンツはあのような大雑把な性格ではあるが、恐ろしく勘が鋭い男だ。
 その男が、過去の事件に何か不審点でも見付けて再び資料を確認し始めた。
 両親の事故死した場所はルドラン子爵の領地から離れていない隣国の山中。
 そうして、クォンツの父親の消息が絶たれた場所もその山中から程近い場所。
 そうして、クォンツ自身も現在その場所へと向かって居る。

(──何故、点と点が繋がるような……)

 マーベリックは嫌な汗が顬を伝うのを感じた。

「──……アイーシャ・ルドラン嬢……。君が……、ご両親を事故で亡くしてしまった後……」
「はい、?」

 マーベリックは懐に手を差し込むとかさり、と指先に当たったそれを取り出してアイーシャとリドルの目の前にあるテーブルへと広げる。

 それは、この国内の地図で。
 とても詳細に記されたその地図は、一般には出回っていない物だろう。
 要所要所の砦の名前や軍の配置まで記載されている機密的な情報が記載された地図だ。

 アイーシャはその地図を目に入れてひゅっ、と息を吸い込み直ぐに地図から視線を逸らそうとしたが、マーベリックにそのままで良いと言われ、アイーシャは戸惑いながら地図に記載されている文字をなるべく目に入れないようにしてそっと視線を地図に戻した。

「教えて欲しい、ルドラン嬢。……貴女が幼少期に、貴女の義父であるケネブ子爵と、義妹であるエリシャ・ルドランは頻繁にこの場所に行っていなかったか?」

 マーベリックがとん、と指先で指した場所はルドラン子爵領の最北端。
 隣国と一番距離が近く、アイーシャの両親が事故死した山中も直ぐそこにあり、クォンツの父親が消息不明となった山中が領地の中にある。

 アイーシャは、マーベリックの指先が指し示した場所に、子爵家の別邸があった事を思い出して驚きに目を見開いた後、こくりと頷いた。
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