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 ケネブとエリザベートを連行した部屋の前にマーベリックはやって来ると、衛兵に扉を開けられて中へと入室する。

 両親は、恐らく精神干渉魔法や消滅魔術ロストソーサリィを使用する事は無いだろうが、先程壊されてしまった魔道具を他の物と交換して両親の元へとやって来た。

 両親が連行された部屋はエリシャが入れられた牢屋とは違い、王城に相応しい豪奢な部屋では無いが質素ながらも室内に置かれている調度品は全て質の良い物で揃えられて居る。

 ケネブとエリザベートは両手を枷で拘束され、ソファに座らされており、マーベリックが入室して来るなり瞳を見開きソファから立ち上がる。

「──殿下……! 私達の娘は……っ!」
「エリシャは、エリシャは何処に連れて行かれたのでしょう……!?」

 自分の愛する娘を何処に、と喚き散らす両親に向かってマーベリックは懐から懐中時計を取り出すと時間を確認する。

「……エリシャ・ルドラン嬢は私に対して精神干渉魔法を使用した罪と、許しも無く私の名前を口にした罪、ありもしない犯罪行為を捏造した罪を鑑みると、重罪となる。私に対する精神干渉魔法は王族に対する不敬罪では片付けられん。……国に対する叛逆の意思ありとして通常であれば即刻処刑だ」

 マーベリックの冷たい声音に、エリシャの両親ケネブとエリザベートは顔色を真っ青にすると唇をわなわなと震えさせる。

「──いくら令嬢が常識知らずと言えども、大のお前達ならば分かるだろう?」
「ち、ちが……っ、殿下……っ、ご再考を……! エリシャは理不尽な姉に対して思う所があり、ただただ純粋に自らの思うままに行動を起こしてしまっただけです……!」
「そ、そうでございます……! 一度、一度だけお考え直し下さい……! 我が娘エリシャはまだ十五歳です……! 甘やかしてしまったせいで、礼儀を知らぬ娘なのです……! 処刑など……! 何も知らぬ子供に対して、そのような残酷な事を……!」

 必死になって言い募る両親に、マーベリックは懐中時計を見た後「そろそろか」と呟くと、両親に視線を向ける。

「……甘やかし、礼儀も常識も知らぬ子供……、と?」
「──そうでございます……!」

 マーベリックの言葉に、ケネブはぱっと表情を明るくさせるとここぞとばかりに説得を試みる。

「姉に対する執着が深いだけで、エリシャは他者を傷付けるような真似は致しません……! 純粋な娘なのです……!」

 つい、先程エリシャ自身が王太子であるマーベリックに精神干渉の魔法を発動した事など忘れているかのようなケネブの言葉にマーベリックは呆れたような視線を向けるが「分かった」と言葉を返す。

「ルドラン子爵……その言葉に偽りは無いな……? 純粋で、まだ子供と言うのだな……? ならば我々の目で確認するとしようか……?」

 マーベリックはそう告げると、ケネブとエリザベートを衛兵に連れて来るように声を掛け、目的の場所へと向かう事にした。
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