【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

文字の大きさ
上 下
45 / 169

45

しおりを挟む

 マーベリックの鋭い声音に呼応した衛兵達が即座にエリシャを取り囲み、ベルトルトに張り付いていたエリシャを床へと引き倒し、体を拘束する。

「──っ、いやぁっ! 私はっ! 何もしてないのに! お姉様よ、全部お姉様に言われたの!」

 エリシャが叫ぶ度に、室内から何かが破裂するような音が響き渡る。

「魔力封じの枷を付けている筈なのに……魔力だけは膨大だな」

 マーベリックは呆れたように呟くと、衛兵に更に上位の魔力封じの魔道具を持ってくるように伝える。

「エ、エリシャ……っ何がどうなって……っ」

 ベルトルトが戸惑い、怯んでいる間に床に押さえ付けた衛兵達がベルトルトをエリシャから遠ざける。

「ベルトルト様っ、ベルトルト様は私を信じて下さいますよね? ずっとずっと、お姉様に虐げられていた私を知っていますよね……? 鞭で打たれた私を知っていますよね?」
「ああ、勿論だよエリシャ嬢。アイーシャに打たれ、痛々しく腫れ上がった君の腕の傷を見た時に……エリシャ嬢を守らねば、と思ったのだから……!」
「エリシャに対してそのような事を……!」
「アイーシャ! お前が全て悪いのだから王太子殿下にご説明をして、お前がエリシャの代わりに拘束されろ! 今まで食わせてやっていたのに……っ、役にも立たぬお前を引き受け育ててやっていた恩を返せ!」

 アイーシャに対して好き勝手に残酷な言葉を紡ぐ子爵家の面々と、アイーシャの婚約者である筈のベルトルトに、リドルもマーベリックも呆れたように視線を向ける。
 リドルはエリシャが喚き出した辺りからアイーシャに近付き、アイーシャの耳を塞いでいたので子爵家の面々の言葉はアイーシャの耳には入って居ないだろう。

 クォンツは、王都を立つ前に「くれぐれもアイーシャを傷付けぬよう頼む」とリドルに言い含めて出立していた。

(……クォンツが戻った時にアイーシャ嬢が自分が側に居る時より傷付き悲しんでいたらあいつは何をするか分からないもんな……。我が国で上位の腕を持つ魔法剣士に暴れられたら軍に損害が出る)

「ア、アーキワンデ卿……?」
「ん、? ああ、申し訳無いルドラン嬢。強く塞ぎ過ぎてしまったか。頭に痛みは無いか?」
「え、ええ……、大丈夫です。──きっと、彼らがまた聞くに絶えない言葉を発していたのですよね……お気遣い頂きありがとうございます」

 アイーシャは、自分の耳を塞いでいてくれたリドルに眉を下げて笑いかければ、リドルも笑い返してくれる。



 最早、言い逃れ等が一切出来なくなったエリシャ達子爵家の面々は、衛兵に引き摺られながらそれでもアイーシャや、王太子であるマーベリックに言葉を放っている。

「マーベリック様……! マーベリック殿下……! 私を信じて下さいっ! これはっ、お姉様の陰謀ですっ」

(王太子殿下のお名前を勝手に口にするなんて……! 不敬罪で罰せられるわ……!)

 エリシャの失言に、アイーシャが真っ青になってエリシャの両親達に視線を向けるが、両親であるケネブとエリザベートはアイーシャに向かって恨みの籠った視線を向けて来るだけで話にならない。

 アイーシャが自分が咎めるしかないか、とエリシャとマーベリックに視線を向けた瞬間。

 ──パリン
 と、マーベリックが耳にしていた魔法石の付いていたイヤリングが弾け飛んだ。

 粉々になり、目の前で弾け散り自分の足元にパラパラと落ちて行く様を、マーベリックは驚愕に見開かれた瞳で凝視する。
 その額には薄らと汗が一筋伝っており、良くない事が起きたのだろう、と言う事が遠目にも見て取れる。

「──これ程、とは……」
「……っ、殿下! 枷ですっ! 直ぐに装着致します!」

 バタバタと大慌てでやって来た衛兵が、喚いているエリシャの口に布を入れ込み、口を塞ぐ。
 そうしてエリシャの両腕に枷を嵌めると、暴れるエリシャを引き摺って行き、部屋から連れ出した。

 連れ出されて行く中、エリシャはアイーシャに言葉では言い表せる事が出来ない程の感情の籠った視線を向けており、アイーシャはエリシャのその視線にそっと自分の腕を撫でようとして、自分の腕が枷によって自由を奪われている事に気付いた。
 その事に気付いたのはマーベリックも同じなようで。
 アイーシャに視線を向けると、すたすたとアイーシャに近付いて来る。

「アイーシャ・ルドラン嬢。拘束をしてすまなかったな。……今外そう」
「──えっ、?」

 マーベリックが自分の指先に魔力を込めると、アイーシャの腕を拘束していた枷を指先でつん、と軽く叩く。
 すると忽ちアイーシャの枷はガシャリ、と音を立てて床へと落下し。近くに控えていた衛兵がその枷を素早く回収した。

 アイーシャが自分の解放された腕に目を向けた後、混乱するままマーベリックに視線を移すと、マーベリックは眉を下げて苦笑している。

「いや、すまない。貴女をこの場所に連れて来たのは子爵家の面々の思惑を暴く為だったのだが……。報告にあった、貴女個人への憎悪だけなのか、それともそれを隠れ蓑にして本当の思惑が裏にあるのか……確認したかったのだけれどな……。裏の思惑など無いような浅はかな結末だった、のか……」
「それ、は……」

 マーベリックにちらり、と背後を視線で示され、アイーシャもそちらに視線を向けるとアイーシャに向かって未だに何やら口汚い言葉達を放つかつての両親が居る。

「あれらは……エリシャ・ルドランが使用していたような魔法は放っていない……。先程から王城に設置された精神干渉の防御結界が発動していないからな……」
「あの人達は、……どうなるのですか?」

 アイーシャの言葉に、マーベリックは微笑みを浮かべるとゆったりと唇を開いた。

「王城で身柄を押さえたまま、エリシャ・ルドラン嬢が何故あのような魔法を取得したのか……尋問だな……。信用魔法だけならばまだしも、魅了に消滅魔術ロストソーサリィは少しばかりやり過ぎだ」
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 402

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~

希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。 離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。 反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。 しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で…… 傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。 メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。 伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。 新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。 しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて…… 【誤字修正のお知らせ】 変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。 ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。 「(誤)主席」→「(正)首席」

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...