【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

文字の大きさ
上 下
44 / 169

44

しおりを挟む

 マーベリックの鋭い声音に、室内に居た衛兵達が素早くエリシャを始め、父親と母親に近付いて行く。

「──いやっ、何でぇ……っ! だって、だって私はっ、お父様っ!」
「エリシャ……!」

 エリシャは混乱仕切った様子で、近付く衛兵達から逃れようとバタバタと両親の元へ駆け寄るが、丁度良く三人集まった所を取り押さえられる。



 その様子を、顔色を悪くさせて見詰めて居たアイーシャとリドルが滞在していた部屋にも城の衛兵がやって来て、扉を開けて室内へと入室して来た。

「……アイーシャ・ルドラン子爵令嬢……。子爵家の長女である貴女にも捕縛命令は出ております。……抵抗せずにご同行を」
「……っ、」
「アイーシャ嬢……っ、くそっ、それは王太子殿下のご命令か……!?」

 衛兵は、リドルに視線を向けた後こくりと一つ頷くと硬直しているアイーシャに向かって足を進める。
 衛兵は怪我をしているアイーシャに気付いたのだろう。先程までの険しい表情を幾らか和らげるとアイーシャに向かって唇を開いた。

「怪我をしている女性に、手荒な真似はしたくありません……。大人しく我々に着いて来て下さい」
「──っ、分かり、ました……」

 さあっと血の気が失せたように顔色を真っ白に変えて俯くアイーシャに、リドルは「くそっ」と小さく声を上げ舌打ちをした。



 逃走も、抵抗の様子も見られない事からアイーシャには魔封じの枷だけを付けられた状態で城の衛兵に抱えられ、階下へと降りると、室内で抵抗でもしたのだろう。
 エリシャの父親であるケネブは頬を殴打された様子で床に押さえ付けられ、母親であるエリザベートはぺたり、と床に座り込んでいる。

 エリシャはしくしくと泣きながら何故かベルトルトに縋り付いており、ベルトルトはエリシャを守るようにしっかりと抱き留めて居た。

「殿下、ルドラン子爵家のご息女アイーシャ・ルドラン嬢にご同行頂きました」

 衛兵の言葉に、室内に居た者達の視線がアイーシャに集中する。

「──ご苦労。アイーシャ・ルドラン嬢。突然の事で驚いただろうが……協力して貰えて助かったよ。……女性に手荒な真似はしたくはないからな」
「い、え……っ。このような姿で申し訳ございません。王太子殿下……。ルドラン子爵家が長女、アイーシャ・ルドランと申します」

 衛兵からゆっくりと床に降ろされたアイーシャは、杖を床に置くと足に負担がいかないようそっとカーテシーを取る。
 ぱちり、とマーベリックと視線があったアイーシャはマーベリックの瞳にこちらを気遣うような、詫びるような色が一瞬だけ見えた事に疑問を持つ。
 だが、そのような色が見えた事は一瞬で。アイーシャはそれが自分の勘違いだったか、とそっと視線を俯かせる。

(自分の願望だったのかも……)

 気遣うような視線など、子爵家の一員にする訳が無い。この国の王太子である人が詫びるような視線を寄越す訳が無い、とアイーシャが自嘲気味に口元に笑みを浮かべ俯いていると。
 アイーシャが室内にやって来た事に気付いたエリシャが涙に濡れた瞳でアイーシャを見やった。

「──お姉様……? っ、お姉様っ! 酷いですっ! お姉様のせいで何で私達がこんな目に合わなきゃいけないんですか!」
「アイーシャ……? お前が……! お前がこんな事を仕出かしたのか!?」

 エリシャの声に反応して、床に押さえ付けられいた父親が暴れ始める。

 だが、リドルはその二人の場違いな言葉に呆れたように声を漏らした。

「……アイーシャ・ルドラン嬢が仕出かしたのでは無くて……子爵家の異常な様子に気付いた俺とクォンツが殿下に報告したんだろう……。我々の言葉をあの時何一つ聞いて居なかったのか……」
「──アイーシャ……アイーシャが? アイーシャが私の可愛いエリシャをこんな目に合わせたの……」

 床に蹲っていたエリシャの母親であるエリザベートが俯いていた顔を上げると、憎しみの籠った視線をアイーシャへと向ける。

「お姉様がっ! お姉様がいけないんです! 私は覚えたく無いって言ったのに、お姉様が覚えろって私を脅したんです……っ!」
「──え?」

 エリシャが訳の分からない事を口にして、アイーシャが驚きに瞳を見開いたその時。

 この室内に何かを弾くような「ぱちん!」と言う甲高い音が聞こえた。
 アイーシャがその音に吃驚して小さく声を上げた瞬間。
 椅子に腰掛けていたマーベリック王太子が素早く立ち上がり衛兵に向かって声を上げた。

「──信用魔法の使用を確認した……! その他にも得体の知れない魔法を使用した事も確認、直ちに捕縛して吐かせろ!」
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 402

あなたにおすすめの小説

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

処理中です...