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しおりを挟むマーベリックの鋭い声音に、室内に居た衛兵達が素早くエリシャを始め、父親と母親に近付いて行く。
「──いやっ、何でぇ……っ! だって、だって私はっ、お父様っ!」
「エリシャ……!」
エリシャは混乱仕切った様子で、近付く衛兵達から逃れようとバタバタと両親の元へ駆け寄るが、丁度良く三人集まった所を取り押さえられる。
その様子を、顔色を悪くさせて見詰めて居たアイーシャとリドルが滞在していた部屋にも城の衛兵がやって来て、扉を開けて室内へと入室して来た。
「……アイーシャ・ルドラン子爵令嬢……。子爵家の長女である貴女にも捕縛命令は出ております。……抵抗せずにご同行を」
「……っ、」
「アイーシャ嬢……っ、くそっ、それは王太子殿下のご命令か……!?」
衛兵は、リドルに視線を向けた後こくりと一つ頷くと硬直しているアイーシャに向かって足を進める。
衛兵は怪我をしているアイーシャに気付いたのだろう。先程までの険しい表情を幾らか和らげるとアイーシャに向かって唇を開いた。
「怪我をしている女性に、手荒な真似はしたくありません……。大人しく我々に着いて来て下さい」
「──っ、分かり、ました……」
さあっと血の気が失せたように顔色を真っ白に変えて俯くアイーシャに、リドルは「くそっ」と小さく声を上げ舌打ちをした。
逃走も、抵抗の様子も見られない事からアイーシャには魔封じの枷だけを付けられた状態で城の衛兵に抱えられ、階下へと降りると、室内で抵抗でもしたのだろう。
エリシャの父親であるケネブは頬を殴打された様子で床に押さえ付けられ、母親であるエリザベートはぺたり、と床に座り込んでいる。
エリシャはしくしくと泣きながら何故かベルトルトに縋り付いており、ベルトルトはエリシャを守るようにしっかりと抱き留めて居た。
「殿下、ルドラン子爵家のご息女アイーシャ・ルドラン嬢にご同行頂きました」
衛兵の言葉に、室内に居た者達の視線がアイーシャに集中する。
「──ご苦労。アイーシャ・ルドラン嬢。突然の事で驚いただろうが……協力して貰えて助かったよ。……女性に手荒な真似はしたくはないからな」
「い、え……っ。このような姿で申し訳ございません。王太子殿下……。ルドラン子爵家が長女、アイーシャ・ルドランと申します」
衛兵からゆっくりと床に降ろされたアイーシャは、杖を床に置くと足に負担がいかないようそっとカーテシーを取る。
ぱちり、とマーベリックと視線があったアイーシャはマーベリックの瞳にこちらを気遣うような、詫びるような色が一瞬だけ見えた事に疑問を持つ。
だが、そのような色が見えた事は一瞬で。アイーシャはそれが自分の勘違いだったか、とそっと視線を俯かせる。
(自分の願望だったのかも……)
気遣うような視線など、子爵家の一員にする訳が無い。この国の王太子である人が詫びるような視線を寄越す訳が無い、とアイーシャが自嘲気味に口元に笑みを浮かべ俯いていると。
アイーシャが室内にやって来た事に気付いたエリシャが涙に濡れた瞳でアイーシャを見やった。
「──お姉様……? っ、お姉様っ! 酷いですっ! お姉様のせいで何で私達がこんな目に合わなきゃいけないんですか!」
「アイーシャ……? お前が……! お前がこんな事を仕出かしたのか!?」
エリシャの声に反応して、床に押さえ付けられいた父親が暴れ始める。
だが、リドルはその二人の場違いな言葉に呆れたように声を漏らした。
「……アイーシャ・ルドラン嬢が仕出かしたのでは無くて……子爵家の異常な様子に気付いた俺とクォンツが殿下に報告したんだろう……。我々の言葉をあの時何一つ聞いて居なかったのか……」
「──アイーシャ……アイーシャが? アイーシャが私の可愛いエリシャをこんな目に合わせたの……」
床に蹲っていたエリシャの母親であるエリザベートが俯いていた顔を上げると、憎しみの籠った視線をアイーシャへと向ける。
「お姉様がっ! お姉様がいけないんです! 私は覚えたく無いって言ったのに、お姉様が覚えろって私を脅したんです……っ!」
「──え?」
エリシャが訳の分からない事を口にして、アイーシャが驚きに瞳を見開いたその時。
この室内に何かを弾くような「ぱちん!」と言う甲高い音が聞こえた。
アイーシャがその音に吃驚して小さく声を上げた瞬間。
椅子に腰掛けていたマーベリック王太子が素早く立ち上がり衛兵に向かって声を上げた。
「──信用魔法の使用を確認した……! その他にも得体の知れない魔法を使用した事も確認、直ちに捕縛して吐かせろ!」
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