40 / 169
40
しおりを挟むクォンツが出て行った玄関を見詰めながら、アイーシャはその場にぺたり、と座り込んでしまう。
クォンツの見送りを行っていた邸の使用人達が慌ててアイーシャの元にやって来てくれて、気遣ってくれる様子に、アイーシャは謝罪をして立ち上がると自室に戻る事にした。
忙しい使用人達にこれ以上迷惑を掛ける訳にもいかない。
恐らく、クォンツの母親であり侯爵も突然の出来事に混乱し、状況把握に忙しくしているだろう。
(……無理をするな、とクォンツ様は言って下さったけれど……邸に残っても迷惑を掛けるだけだわ)
クォンツの妹のシャーロットの事は気になるが、侯爵家に無関係な自分が居ても邪魔になるだけになってしまう、とアイーシャは考え学園に向かう準備をする為に自室へと向かい歩き出した。
アイーシャが学園に向かう時間が近付いて来ても邸内は未だバタバタと騒がしく、アイーシャはクォンツの母親である侯爵の補佐をしている家令に学園に向かうと言う伝言だけを頼むと、シャーロットの私室に向かい、様子を確認する。
シャーロットはやはり自分の父親が消息を絶った事に動揺し、更にクォンツまで出て行ってしまった事に不安そうにしていたが流石に侯爵家の令嬢とでも言うのだろうか。
しっかりと事実を受け止め、学園に向かうと言うアイーシャを笑顔で送ってくれた。
侯爵家が用意してくれていた学園への馬車に乗り込んだアイーシャは、座席に座りながら長い長い溜息を吐き出す。
「……シャーロット嬢の方が……、しっかりと落ち着いているように見えたわ……。私の方が年上なのに、情けない……」
もし、自分にもっと力があればクォンツの助けになれたかもしれない。
強い──強力な攻撃魔法が使えれば、もしかしたらクォンツの父親探しに協力出来たかもしれないのに、とアイーシャは詮無きことを考えてしまう。
「このままじゃあ……クォンツ様のお家に助けて頂いて、迷惑を掛けているだけの……本当に"居候"になっちゃう……」
以前、居候のくせに、と言われた言葉が何故か急に頭の中に蘇りぐるぐると思考を占拠する。
役立たずで、ただ迷惑を掛けるだけの存在になるなんて御免だ、とアイーシャは考えると、自分にも何か出来る事は無いだろうかと考える。
魔法の腕に関しては、既にこの国で魔法剣士として討伐に携わっているクォンツには及ばないだろう。
だからと言って、自分の頭脳がずば抜けて良いわけでも無い。
頭の良さで言ったら、クォンツにもリドルにも及ばない。
アイーシャは、考えれば考える程に自分に出来る事など何一つとして無いと言う事に気付き、本当に役立たずだと言う事を自覚しただけになってしまう。
そう考えていると、学園に到着したのだろう。
御者が到着を教えてくれて、アイーシャは御者の手を借りて馬車から降り立った。
アイーシャが馬車から降り立って直ぐ。
「──アイーシャ!」
「お姉様?」
別々の方向から掛けられた声に、アイーシャは驚き振り向いた。
今までは共に学園に同じ馬車でやって来ていたと言うのに、何故か今日は違うようで。
ベルトルトとエリシャは別々の馬車でやって来て、降りた所でアイーシャの姿を見付けて声を掛けて来たらしい。
「エリシャ、ベルトルト様……。おはようございます」
声を掛けられて聞こえなかった振りは出来ない。
アイーシャは二人に振り返ると挨拶をして、この場を去ってしまおうとしたが杖を付き歩いているアイーシャに心配そうにベルトルトが駆け寄って来た。
「ア、アイーシャ大丈夫かい? その足では歩くのは大変だろう。僕の肩を支えに歩けばいいよ」
「あれ……? 今日はクォンツ様はご一緒じゃないんですね、お姉様」
二人にそれぞれ違う話題を振られてしまい、アイーシャは言葉数少なめにベルトルトとエリシャに答える。
「ベルトルト様、大丈夫です。一人で歩けますから……。エリシャ、クォンツ様はお休みを頂いてます」
「──あっ」
「お休み……? お体は丈夫そうでしたけど……お風邪でもひかれたのですか?」
アイーシャは早く会話を切り上げたいのに、早く歩く事ができない為、ベルトルトとエリシャがのんびりとアイーシヤに付いて来てしまう状態になってしまい、アイーシャは歯噛みした。
ベルトルトはちらちら、とアイーシャを気遣うような視線を寄越して来ているが、アイーシャはそれに気付くような素振りを見せない。
「風邪などでは無いわ……。私は歩くのが遅いから、エリシャもベルトルト様も先に行っていて下さい」
「足を怪我しているアイーシャを放ってなんておけないよ……抱き抱えて教室まで行こうか?」
「いえ、大丈夫です。足を怪我しているからと言って、楽をしてはいつまでたっても治りませんから」
「ふうん……。お風邪では無いのであれば、いつ頃クォンツ様は学園に来られるのですか?」
「──さあ。それは私には分からないわ」
エリシャの言葉に、アイーシャが素っ気なく答えるとエリシャは「可哀想」とアイーシャに向かって憐れむような視線を向けて、言葉を続けた。
「お姉様、可哀想……。私の家でも居候って悲しい事を言われたのに……クォンツ様のお家でも居候として扱われてしまっているんですね……。何も教えてくれないって事は……そう言う事ですもんね……」
いつもは気にならないエリシャの言葉が、アイーシャの心を深く抉った。
91
お気に入りに追加
5,664
あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません
かずきりり
恋愛
今日も約束を反故される。
……約束の時間を過ぎてから。
侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。
貴族の結婚なんて、所詮は政略で。
家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。
なのに……
何もかも義姉優先。
挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。
挙句の果て、侯爵家なのだから。
そっちは子爵家なのだからと見下される始末。
そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。
更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!?
流石にそこはお断りしますけど!?
もう、付き合いきれない。
けれど、婚約白紙を今更出来ない……
なら、新たに契約を結びましょうか。
義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。
-----------------------
※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。


【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる