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しおりを挟むクォンツが出て行った玄関を見詰めながら、アイーシャはその場にぺたり、と座り込んでしまう。
クォンツの見送りを行っていた邸の使用人達が慌ててアイーシャの元にやって来てくれて、気遣ってくれる様子に、アイーシャは謝罪をして立ち上がると自室に戻る事にした。
忙しい使用人達にこれ以上迷惑を掛ける訳にもいかない。
恐らく、クォンツの母親であり侯爵も突然の出来事に混乱し、状況把握に忙しくしているだろう。
(……無理をするな、とクォンツ様は言って下さったけれど……邸に残っても迷惑を掛けるだけだわ)
クォンツの妹のシャーロットの事は気になるが、侯爵家に無関係な自分が居ても邪魔になるだけになってしまう、とアイーシャは考え学園に向かう準備をする為に自室へと向かい歩き出した。
アイーシャが学園に向かう時間が近付いて来ても邸内は未だバタバタと騒がしく、アイーシャはクォンツの母親である侯爵の補佐をしている家令に学園に向かうと言う伝言だけを頼むと、シャーロットの私室に向かい、様子を確認する。
シャーロットはやはり自分の父親が消息を絶った事に動揺し、更にクォンツまで出て行ってしまった事に不安そうにしていたが流石に侯爵家の令嬢とでも言うのだろうか。
しっかりと事実を受け止め、学園に向かうと言うアイーシャを笑顔で送ってくれた。
侯爵家が用意してくれていた学園への馬車に乗り込んだアイーシャは、座席に座りながら長い長い溜息を吐き出す。
「……シャーロット嬢の方が……、しっかりと落ち着いているように見えたわ……。私の方が年上なのに、情けない……」
もし、自分にもっと力があればクォンツの助けになれたかもしれない。
強い──強力な攻撃魔法が使えれば、もしかしたらクォンツの父親探しに協力出来たかもしれないのに、とアイーシャは詮無きことを考えてしまう。
「このままじゃあ……クォンツ様のお家に助けて頂いて、迷惑を掛けているだけの……本当に"居候"になっちゃう……」
以前、居候のくせに、と言われた言葉が何故か急に頭の中に蘇りぐるぐると思考を占拠する。
役立たずで、ただ迷惑を掛けるだけの存在になるなんて御免だ、とアイーシャは考えると、自分にも何か出来る事は無いだろうかと考える。
魔法の腕に関しては、既にこの国で魔法剣士として討伐に携わっているクォンツには及ばないだろう。
だからと言って、自分の頭脳がずば抜けて良いわけでも無い。
頭の良さで言ったら、クォンツにもリドルにも及ばない。
アイーシャは、考えれば考える程に自分に出来る事など何一つとして無いと言う事に気付き、本当に役立たずだと言う事を自覚しただけになってしまう。
そう考えていると、学園に到着したのだろう。
御者が到着を教えてくれて、アイーシャは御者の手を借りて馬車から降り立った。
アイーシャが馬車から降り立って直ぐ。
「──アイーシャ!」
「お姉様?」
別々の方向から掛けられた声に、アイーシャは驚き振り向いた。
今までは共に学園に同じ馬車でやって来ていたと言うのに、何故か今日は違うようで。
ベルトルトとエリシャは別々の馬車でやって来て、降りた所でアイーシャの姿を見付けて声を掛けて来たらしい。
「エリシャ、ベルトルト様……。おはようございます」
声を掛けられて聞こえなかった振りは出来ない。
アイーシャは二人に振り返ると挨拶をして、この場を去ってしまおうとしたが杖を付き歩いているアイーシャに心配そうにベルトルトが駆け寄って来た。
「ア、アイーシャ大丈夫かい? その足では歩くのは大変だろう。僕の肩を支えに歩けばいいよ」
「あれ……? 今日はクォンツ様はご一緒じゃないんですね、お姉様」
二人にそれぞれ違う話題を振られてしまい、アイーシャは言葉数少なめにベルトルトとエリシャに答える。
「ベルトルト様、大丈夫です。一人で歩けますから……。エリシャ、クォンツ様はお休みを頂いてます」
「──あっ」
「お休み……? お体は丈夫そうでしたけど……お風邪でもひかれたのですか?」
アイーシャは早く会話を切り上げたいのに、早く歩く事ができない為、ベルトルトとエリシャがのんびりとアイーシヤに付いて来てしまう状態になってしまい、アイーシャは歯噛みした。
ベルトルトはちらちら、とアイーシャを気遣うような視線を寄越して来ているが、アイーシャはそれに気付くような素振りを見せない。
「風邪などでは無いわ……。私は歩くのが遅いから、エリシャもベルトルト様も先に行っていて下さい」
「足を怪我しているアイーシャを放ってなんておけないよ……抱き抱えて教室まで行こうか?」
「いえ、大丈夫です。足を怪我しているからと言って、楽をしてはいつまでたっても治りませんから」
「ふうん……。お風邪では無いのであれば、いつ頃クォンツ様は学園に来られるのですか?」
「──さあ。それは私には分からないわ」
エリシャの言葉に、アイーシャが素っ気なく答えるとエリシャは「可哀想」とアイーシャに向かって憐れむような視線を向けて、言葉を続けた。
「お姉様、可哀想……。私の家でも居候って悲しい事を言われたのに……クォンツ様のお家でも居候として扱われてしまっているんですね……。何も教えてくれないって事は……そう言う事ですもんね……」
いつもは気にならないエリシャの言葉が、アイーシャの心を深く抉った。
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