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しおりを挟むアイーシャ達三人が邸を出て、馬車の方向へと向かう中。
背後からバタバタと慌てて駆けて来る音が聞こえる。
「アイーシャ!」
何故追い掛けて来たのだろうか。
義父であるケネブを先頭に、ベルトルト、エリシャと続いて最後に義母エリザベートが姿を現し、今正に馬車に乗り込みこの邸を出ようとしていたアイーシャ達に向かって大声を上げた。
「アイーシャ……! 今戻ればまだ許してやるから、戻って来るんだ……! 世間も知らず、まだ未成年のお前が一人で何て生きていける訳が無い……っ」
「ア、アイーシャ、お父上の言う通りだよ……! 邸を出て何処に行くと言うのか……っ、それに学園に通う事にも、家から援助が無ければ通う事すら出来なくなってしまう……! 君一人では何も出来ないのだから、戻った方が良い……! いつものように今だけは謝って、また──」
ベルトルトの言葉を途中で遮るように、クォンツは馬車の扉を閉めてしまうと御者に「出せ」と声を掛ける。
馬車の御者は躊躇うような態度で本当に出していいのだろうか、と顔をこちら側に向ける。
だが、クォンツに座席に座らせて貰ったアイーシャは馬車の窓を開けて御者に向かってはっきりと言い放った。
「──構いません、出して下さい」
「わ、分かりました……」
アイーシャの言葉を聞き、躊躇いがちに御者が返事をすると馬車が動き出す。
邸の玄関から懲りずにこちらに向かって叫び続けるルドラン家の面々と、婚約者ベルトルトの声を聞きたく無い、とばかりにアイーシャは馬車の窓を閉めた。
「クォンツ様、アーキワンデ卿。連れ出して下さりありがとうございました」
窓を閉め、アイーシャは姿勢を正すと向かいに座る二人に向かってぺこり、と頭を下げる。
「……私一人では、あの人達の言葉に逆らう事が出来ずに……あの家から抜け出す事は出来なかったです……お二人がお力添えして下さったお陰です。──っ、本当にありがとうございました……!」
「当然の事をしたまでだ。頭を下げるなアイーシャ嬢」
「そうだよ。俺達は友人がこれ以上酷い目に合うのを黙って見ている事が出来なかっただけだし……。それに俺自身は何も。家の権力を振りかざしただけだからね」
アイーシャの言葉に、クォンツは優しく言葉を返し、リドルは少しだけふざけたように肩を竦めて言葉を返す。
「──ふふっ、アーキワンデ卿の公爵家のお力、効果は絶大ですね。一瞬で黙ってしまいましたもの」
「うんうん、そうなんだよね。……けれど……、公爵家の名前を出しても最後はあのように再び追い掛けて来た。……何故あんなにも彼らがアイーシャ嬢に固執するのか……調べないとだね」
「……確かにな」
リドルの言葉に、クォンツも小さく頷く。
クォンツは、以前アイーシャの両親が転落死した馬車の事故の事を調べていたが、国内では無く隣国で起きた事故の為調べる事に時間が掛かってしまっている。
(今回の、アイーシャ嬢への暴力と、両親の事故死。……両親の事故死に万が一"今の"子爵……子爵夫人が関わっていたら直ぐにどうとでも出来るんだがな……)
クォンツは、リドルと同じく自分の家の力を利用する事に躊躇いは無い。
それと同時に、国内の魔物や魔獣被害に対する討伐の記録を持つクォンツは侯爵家嫡男として、優れた魔法剣士として国内で発言力も影響力もある、と自分自身で良く理解している。
「まあ……先ずはルドラン嬢の当面の住む場所だね。うちの公爵家ではちょっとな……ルドラン嬢の安全を確保するとは言え、いきなり公爵家でルドラン嬢を預かると……」
リドルは何処か含みを持った視線をちらり、とクォンツへ向ける。
リドルからの視線にクォンツは何故か気恥ずかしそうに小さく舌打ちをすると、アイーシャが気にする前に素早く唇を開いた。
「それなら、うちの侯爵家でアイーシャ嬢の身柄を預かる。……うちには、下に妹も居るし……妹に淑女としてのマナーを教えてくれるよう俺が友人であるアイーシャ嬢に住み込みで滞在してくれ、と頼んだと学園には届けりゃいい。色々言われても、それで通しちまえばいいさ」
クォンツの言葉にリドルは「いい案だね」と笑い、アイーシャは本当にお邪魔してもいいのか、と何度もクォンツに確認したのだった。
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