33 / 169
33
しおりを挟むアイーシャ達三人が邸を出て、馬車の方向へと向かう中。
背後からバタバタと慌てて駆けて来る音が聞こえる。
「アイーシャ!」
何故追い掛けて来たのだろうか。
義父であるケネブを先頭に、ベルトルト、エリシャと続いて最後に義母エリザベートが姿を現し、今正に馬車に乗り込みこの邸を出ようとしていたアイーシャ達に向かって大声を上げた。
「アイーシャ……! 今戻ればまだ許してやるから、戻って来るんだ……! 世間も知らず、まだ未成年のお前が一人で何て生きていける訳が無い……っ」
「ア、アイーシャ、お父上の言う通りだよ……! 邸を出て何処に行くと言うのか……っ、それに学園に通う事にも、家から援助が無ければ通う事すら出来なくなってしまう……! 君一人では何も出来ないのだから、戻った方が良い……! いつものように今だけは謝って、また──」
ベルトルトの言葉を途中で遮るように、クォンツは馬車の扉を閉めてしまうと御者に「出せ」と声を掛ける。
馬車の御者は躊躇うような態度で本当に出していいのだろうか、と顔をこちら側に向ける。
だが、クォンツに座席に座らせて貰ったアイーシャは馬車の窓を開けて御者に向かってはっきりと言い放った。
「──構いません、出して下さい」
「わ、分かりました……」
アイーシャの言葉を聞き、躊躇いがちに御者が返事をすると馬車が動き出す。
邸の玄関から懲りずにこちらに向かって叫び続けるルドラン家の面々と、婚約者ベルトルトの声を聞きたく無い、とばかりにアイーシャは馬車の窓を閉めた。
「クォンツ様、アーキワンデ卿。連れ出して下さりありがとうございました」
窓を閉め、アイーシャは姿勢を正すと向かいに座る二人に向かってぺこり、と頭を下げる。
「……私一人では、あの人達の言葉に逆らう事が出来ずに……あの家から抜け出す事は出来なかったです……お二人がお力添えして下さったお陰です。──っ、本当にありがとうございました……!」
「当然の事をしたまでだ。頭を下げるなアイーシャ嬢」
「そうだよ。俺達は友人がこれ以上酷い目に合うのを黙って見ている事が出来なかっただけだし……。それに俺自身は何も。家の権力を振りかざしただけだからね」
アイーシャの言葉に、クォンツは優しく言葉を返し、リドルは少しだけふざけたように肩を竦めて言葉を返す。
「──ふふっ、アーキワンデ卿の公爵家のお力、効果は絶大ですね。一瞬で黙ってしまいましたもの」
「うんうん、そうなんだよね。……けれど……、公爵家の名前を出しても最後はあのように再び追い掛けて来た。……何故あんなにも彼らがアイーシャ嬢に固執するのか……調べないとだね」
「……確かにな」
リドルの言葉に、クォンツも小さく頷く。
クォンツは、以前アイーシャの両親が転落死した馬車の事故の事を調べていたが、国内では無く隣国で起きた事故の為調べる事に時間が掛かってしまっている。
(今回の、アイーシャ嬢への暴力と、両親の事故死。……両親の事故死に万が一"今の"子爵……子爵夫人が関わっていたら直ぐにどうとでも出来るんだがな……)
クォンツは、リドルと同じく自分の家の力を利用する事に躊躇いは無い。
それと同時に、国内の魔物や魔獣被害に対する討伐の記録を持つクォンツは侯爵家嫡男として、優れた魔法剣士として国内で発言力も影響力もある、と自分自身で良く理解している。
「まあ……先ずはルドラン嬢の当面の住む場所だね。うちの公爵家ではちょっとな……ルドラン嬢の安全を確保するとは言え、いきなり公爵家でルドラン嬢を預かると……」
リドルは何処か含みを持った視線をちらり、とクォンツへ向ける。
リドルからの視線にクォンツは何故か気恥ずかしそうに小さく舌打ちをすると、アイーシャが気にする前に素早く唇を開いた。
「それなら、うちの侯爵家でアイーシャ嬢の身柄を預かる。……うちには、下に妹も居るし……妹に淑女としてのマナーを教えてくれるよう俺が友人であるアイーシャ嬢に住み込みで滞在してくれ、と頼んだと学園には届けりゃいい。色々言われても、それで通しちまえばいいさ」
クォンツの言葉にリドルは「いい案だね」と笑い、アイーシャは本当にお邪魔してもいいのか、と何度もクォンツに確認したのだった。
97
お気に入りに追加
5,661
あなたにおすすめの小説
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
【完結】これからはあなたに何も望みません
春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。
でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。
結婚して三年が過ぎ。
このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。
リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。
※完結まで作成済み。11/22完結。
※完結後におまけが数話あります。
※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。
毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……
藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」
大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが……
ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。
「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」
エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。
エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話)
全44話で完結になります。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる