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しおりを挟むアイーシャを迎えに来たのだろう。
クォンツと、リドルがアイーシャとエリシャの会話に訝しげるような表情を浮かべ、そのまま無言で教室へと入って来るとエリシャを筆頭に、まだ教室内に残っていた学園生達が色めき立つ。
クォンツ・ユルドラークとリドル・アーキワンデは侯爵家と公爵家の嫡男であり、二人とも家柄の良さも然ることながら容姿もずば抜けて良く、令嬢達からは秋波を送られ、令息達からは憧れの視線を向けられる程だ。
アイーシャの隣に居たエリシャはベルトルトが居るにも関わらず猫なで声を出すと、クォンツとリドルに話し掛ける。
「お二人共、お姉様が悪い事をしたのですから……お父様から罰を受ける事は仕方無いですわ……! きっと、お父様もお母様も本当はしたくないのです。けれど、お姉様が罰される程の事をしたのだから、それは当然の結果です……!」
エリシャは得意気に笑顔を浮かべ、首をこてんと倒し隣に居るベルトルトの腕に自分の腕を絡ませ、「ね? ベルトルト様」と声を掛けている。
エリシャの言葉に、教室内に残っていた生徒達は困惑して、アイーシャにちらちらと視線を送っており、クォンツはその視線に気が付くとアイーシャを自分達の方へと引き寄せた。
クォンツがアイーシャを引き寄せると、それまでエリシャの言葉を黙って聞いていたリドルがエリシャに向かって問い掛ける。
「──ルドラン子爵令嬢。悪い事って……? いったい、君の姉君──アイーシャ嬢がそのような仕打ちを受けるに至った罪、って言うのはなんだい?」
純粋に疑問を感じたのだろう。
リドルの言葉に、エリシャははた、と瞳を見開くと言葉に詰まる。
「そ、それは……」
「──それは? 姉君が何か、子爵家にとって不益となるような失態を? それとも、赤の他人を傷付けた? それとも何か不貞を犯した?」
リドルは、「不貞」と言う言葉を放つ瞬間、ちらりとエリシャとベルトルトに視線を向ける。
リドルの視線を受けて、顔色を悪くさせたベルトルトはばっ、とエリシャの腕を振り払うと体を離すがベルトルトの行動にエリシャは不服そうに頬をぷくっ、と膨らませる。
だが、リドルはそのまま敢えて教室内に居る生徒達に聞こえるように良く通る声音でエリシャに質問を続けた。
「ああ……、それともまさか王家に対して何か不敬な物言いでもしたかな? それだったら爵位を持つ家の長として、君の姉君であるアイーシャ嬢を罰する為に監視の意味合いも含めて何処かに閉じ込め、動向を監視すると言うのも頷けるのだが……」
リドルはそこで言葉を切ると、エリシャに向かって微笑み「で、どうなんだい?」と声を掛ける。
リドルに微笑まれたエリシャは、ぽうっと頬を染め見蕩れながら「えっと、」ともじもじとした後にキッとアイーシャを見据えて得意気に唇を開いた。
「そ、そのような事はしておりませんが、お姉様は私に恥を掛せてしまったのです! だからこそ、お父様もお母様もお怒りになり、お姉様を──」
「うん? だから、その罪って……? まさか、恥を掛かされたから閉じ込めたとでも言うの? 姉妹間で?」
リドルは、にこやかにだが容赦なく事実を確認しようと詰めて来る。
この状況に、このままだと何か悪い事になるのでは、と焦ったベルトルトは咄嗟に言葉を挟んだ。
「ア、アーキワンデ卿……っ! お待ち下さい、昨日の出来事は──……っ、」
「君。君の発言はいらない。君は今回のルドラン子爵家の事柄について無関係だろう?」
だが、リドルにぴしゃりと言葉を遮られ、ベルトルトはぐっ、と言葉を飲み込む。
リドルの言葉は最もで、アイーシャに行われた事柄とベルトルトは無関係だ。
「──っ、!」
ベルトルトはそこで「だが!」と光明を得た。
「ア、アイーシャの婚約者である私にも関係はあるかと……!」
「婚約者? 君が? アイーシャ・ルドラン嬢の?」
リドルは冗談だろう? と言うように薄らと笑みを浮かべるとベルトルトに冷たい視線を向ける。
「君は、先程までそこに居るルドラン子爵令嬢と腕を組んでいたではないか? 君の言葉が本当なのであれば、何故君は婚約者の前で他の女性と親密そうにしているんだい? これでは逆に、アイーシャ嬢の婚約者である筈の君と、妹君の子爵令嬢が婚約者同士みたいだね?」
「──そっ、それは……っ」
リドルの言葉に、何も言い返せ無くなってしまったベルトルトはしどろもどろになりながら最後は尻すぼみに何事か小さく呟きながら黙り込んでしまった。
その様子を冷たい視線で見やった後、リドルは風魔法を発動した。
「──あーあ……怒らせちまった……」
アイーシャの隣に居たクォンツが小さく呟くと、アイーシャが驚いたようにクォンツに顔を向ける。
だが、クォンツがアイーシャに説明するよりも早く、リドルが言葉を発した。
「──エリシャ・ルドラン子爵令嬢の発言の真偽について正式に確認する為にルドラン子爵家を訪問しよう。鳥を飛ばして先触れを出す。いいね、エリシャ・ルドラン子爵令嬢」
エリシャは、事の重大性を理解していないのか。リドルの言葉にこくこくと頷いた。
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