【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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「──お嬢様、大丈夫ですか……? 旦那様は、何と言う事を……っ」
「ありがとう。でも駄目よそんな事を言っては。万が一聞かれてしまっていたらルミアが解雇されてしまう可能性があるんだから……」

 アイーシャは、使用人ルミアに支えて貰いながら足を動かし続けるが、先程エリザベートから叩かれ倒れ込んでしまった時に足首を捻挫してしまったのだろう。
 昼間、学園で治療して貰った方とは逆の足首を捻挫してしまっているようだ。

 ちょうど足首が出るくらいの長さのスカートであった為、アイーシャが恐る恐る自分の足首に視線を向けると。
 そこは赤く腫れ、腫れを認識してしまったら次はズキズキと痛みが酷く発生して来る。

「ああ……っ、お嬢様……どんどん腫れて……っ、直ぐに休める場所に行きましょうっ」
「──ええ、でもさっきお義父様から言われたいつもの場所にお願いね。……そうでないと、ルミアが罰を受けてしまうわ」
「……っ、うぅ……っ、お嬢様っ」

 ルミアはぐしゃり、と悲しみに顔を歪ませ何も手助けが出来ず、傷付けられ続けるアイーシャに「申し訳無い」と謝罪し続けた。



 ルミアに連れて来て貰ったのは、アイーシャが「悪い事」をした時に義父や義母にいつも閉じ込められていた地下の備蓄庫で。
 ルミアが仕事服のポケットの中に入れていた鍵を取り出すと、備蓄庫の鍵を開けて扉を開ける。

「……ここ、に入れられてしまうのも久しぶりね……」

 アイーシャが眉を下げてそう呟くと、ルミアはきょろきょろと周囲を見回し、鍵を取り出した方とは反対側のポケットに手を入れると何か布のような物に包まれた物を取り出し、急いでアイーシャに握らせる。

「お嬢様……っ、これだけしかございませんが……!」
「──ルミア……っ、でももしお義父様に私に食べ物を渡した、とバレてしまえば貴女は解雇されてしまうのよ……っ」
「構いません……っ、そうしたら……っベルトルト様とお嬢様がご結婚した後、あの方達が邸から離れたら私を呼び戻して下さいっ」

 ひそひそと声を顰め、会話を行う。
 アイーシャはルミアから貰った包みを返そうとするが、ルミアはぶんぶんと首を横に振るとアイーシャにその包みを押し付ける。

「──そろそろ、戻りますね、お嬢様っ」
「……あっ、ルミア……っ!」

 アイーシャはルミアを呼び止めるが、ルミアはアイーシャに向かってぺこりと頭を下げると備蓄庫の外扉の向こうに走り去ってしまい、外から鍵が施錠される音が響く。

「──もう、ルミアは……っ」

 アイーシャは困ったように笑みを浮かべながら、ルミアから貰った包みを自分の制服のポケットへとしまう。

 きっと、あと数時間もしたらお腹が減ってきてしまうだろう。
 アイーシャはポケットにしまい終えるとそこで改めて備蓄庫の中を見回した。
 十歳程までは、義父や義母と上手くいかず良く仕置き、と称してこの備蓄庫に朝まで閉じ込められていた。

「子供の頃は暗くて、ジメジメしていて怖くてしょうが無かったけれど……今はそんなに恐怖を感じないわね」

 アイーシャは随分自分も強くなった物だ、と苦笑してしまう。
 いや、強くならざるを得なかったのか。

「それとも……あの人達に感情を揺さぶられる事が嫌で……何も感じなくなったのかしら……」

 ぺたり、と備蓄庫の壁に手を付きアイーシャは自分の指先に小さく火を灯す。
 そうしてその火をつい、と指先を頭上に軽く振り火を上空へと移動させると、その行動を何度も繰り返す。

 明かりも何も無かった備蓄庫に、アイーシャは火魔法で小さな火の玉を複数作り出すとその火の玉を長時間消失しないよう魔力をコントロールして固定する。
 そうすれば、火は周囲に燃え広がらないし、煙も出ない。

「──こんな所かしらね」

 そうして、アイーシャは明るくなった備蓄庫の中で壁際にある木箱を見付けると、その木箱の強度を確かめて今度は布を探す。
 直ぐ傍に長年放置されていたからか、ボロボロになってしまい汚れている布を発見したアイーシャは風と水魔法の複合魔法でその布を洗浄して乾かすと、複数の木箱を風魔法で移動させて並べる。

「簡易的なベッドが出来たわ……っ」

 こんな場所に閉じ込められた、と言うのにアイーシャは自分の魔法でこの空間を整えられた事に満足感を得て、表情を明るくさせる。

 備蓄庫の中も肌寒いので火魔法で調度良い温かさを保ちつつ、アイーシャはその木箱に腰掛けると、先程の出来事を思い出す。
 何故か、ベルトルトがとてもアイーシャを気にしていたように感じる。

 自分が、義母に叩かれた場面を見てしまったからだろうか。

「……それでも、ベルトルト様は私が悪いと言う意見は変えなかったわ……」

 何故、あのような……人の意見を聞かない人になってしまったのだろうか、とアイーシャは溜息を零す。
 以前はまだアイーシャの言葉に耳を貸してくれていた気がするが、いつからかアイーシャの言葉など聞く耳を持たず、エリシャの言う言葉ばかりを鵜呑みにするようになってしまった。

「──ベルトルト様がそうなったのって……そう言えばエリシャと共に過ごす事が増えてから、だったわよね……」

 アイーシャはふ、とその事を思い出し首を傾げた。
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