【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

文字の大きさ
上 下
17 / 169

17

しおりを挟む

 室内にまたしても人が増えた、と嫌な顔をしてクォンツが扉付近へと視線を向ければ。そこには、先程クォンツがアイーシャへ説明したリドルがキョトン、とした表情を浮かべて立っている。

 リドルは、目の前に居るエリシャに不思議そうな表情を浮かべていたが、すぐにふいっと興味を失ったかのようにエリシャから視線を外すとクォンツの姿を見付け、表情を緩めるとそちらへとスタスタと歩いて行く。

「クォンツに先程抱き上げられて大講堂を退出したご令嬢だね。怪我、かな……? 大丈夫かい? ──っ、ああ! 無理に起き上がらなくて結構だ、寝ていてくれ!」
「も、申し訳ございません。私はアイーシャ・ルドランと申します。クォンツ・ユルドラーク卿に助けて頂いて、本日入学したと言うのにこのような体たらく……お恥ずかしい限りです……」

 アイーシャは、リドルが目の前にやって来た事に合わせて体を起き上がらせようとしたが、リドルが慌ててアイーシャに寝ているように、と告げその言葉に甘えさせて貰った。

「リドル・アーキワンデだ。きっと、クォンツがルドラン嬢に迷惑を掛けたんだろう? こいつは昔からそうだから」
「昔からそうだ、とは心外だな……。お前も大概だろう」

 リドルの言葉に、クォンツがぶすっと不貞腐れたように表情を変え遠慮の無い言葉を放つ。
 たった少しの会話で、クォンツとリドルの仲の良さが分かったアイーシャはくすくすと控え目に笑い声を出す。
 すると、アイーシャに笑われた事を恥ずかしいとでも思ったのだろうか。クォンツがアイーシャにも不貞腐れたような表情を向け、唇を尖らせる。

「──アイーシャ嬢まで何だよ……そんなに俺は適当そうに見えるか?」
「いっ、いえ……っふふっ、クォンツ様はとってもお優しい方だ、と分かっております」
「良かったなぁ、クォンツ。ルドラン嬢はクォンツに迷惑を掛けられてもそれを迷惑とは思わない広い心を持っているみたいだぞ?」

 仲の良い、学友達。
 何故、その輪の中に自分では無くてアイーシャがいるのだ、と怒りを感じたエリシャはじわり、と瞳に涙を溜めると自分の後ろにいるベルトルトに勢い良く振り返る。
 アイーシャが自分を蔑ろにしている、とベルトルトに訴えようとしたエリシャは、しかしベルトルトに視線を向けて目を見開いた。

「──アイーシャ……笑顔が……」

 ぽうっ、とまるでアイーシャに見惚れるように頬を染めてアイーシャを凝視しているベルトルトに、エリシャはついつい舌打ちを打ちたくなってしまう。

(私が! 隣に居るのに、ベルトルト様は何であの人に見惚れているのよ……っ! 信じられないっ!)

「ベルトルト様っ」
「──へっ、? えっ、何だいエリシャ嬢……っ」

 ベルトルトは、エリシャからくいっと服の裾を引かれてはっと意識をエリシャに向けると慌ててエリシャに視線を向ける。
 すると、ベルトルトの視界に映ったエリシャはじわり、と涙を瞳いっぱいに溜めており、今にもその大きな瞳から雫が零れ落ちてしまいそうだ。

「おっ、お姉様が……酷いです……っ、いつもこうしてっ、私を無視して……っお姉様のお友達や、お知り合いを紹介してくれないんですっ」
「──なっ! アイーシャがそんな事を……!?」

 ぐしぐし、と泣くエリシャの高い声は二人から離れた場所のベッド付近にもしっかりと届いており、アイーシャは「またか」と諦めにも似た感情に自分の気持ちが支配される。

「──また、あの子は……っ」

 小さく呟いたアイーシャの声は、直ぐ側にいたクォンツやリドルにもしっかりと届いていて。
 クォンツは呆れたようにアイーシャのベッドに腰掛けると、アイーシャに向かって唇を開く。

「アイーシャ嬢……、何なんだあの妹は……? 不躾に人の会話に入ったり……、挨拶と言う最低限のマナーすら知らないで……本当に君と同じ家で育っているのか?」
「──えっ、」
「本当だな……。紹介してくれない、って……紹介されないのにはそれだけの理由が自分にもあるとは思わないのか」

 クォンツだけでは無く、クォンツの隣に立っていたリドルまで呆れたような表情を浮かべ、エリシャに対して苦言を呈している。

 その二人の態度に、アイーシャは驚きに瞳を見開く。
 今までは、エリシャの言葉を直ぐに信じてしまう者が多く、アイーシャの言葉を信じてくれるような者は居なかった。

「──お二人、は……義妹の言葉を信じたり、しないのですか……?」
「は? 何を言っているんだ、アイーシャ嬢。あんなのただの難癖じゃねーか」
「……? 勿論。クォンツがルドラン嬢と親しい、と言う事は置いても、貴女と彼女、どちらが礼儀正しい女性か、と言うのは分かるからね」

 当たり前だろう? と言う態度の二人に、アイーシャは嬉しさに表情を綻ばせると二人にお礼を告げた。



「ひっ、酷いです……っユルドラーク卿に、アーキワンデ卿! 何故お姉様の言葉を信じるのですか……っ! わっ、私は家でも……っうぅ……っ」
「エ、エリシャ嬢っ!」

 バタバタ、と足音を立ててエリシャはアイーシャの方へと近付いて来ると、慌てて止めようとしているベルトルトの手を振り払ってクォンツとリドルに庇護欲を誘うような泣き顔で喚いた。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 402

あなたにおすすめの小説

「あなたは公爵夫人にふさわしくない」と言われましたが、こちらから願い下げです

ネコ
恋愛
公爵家の跡取りレオナルドとの縁談を結ばれたリリーは、必要な教育を受け、完璧に淑女を演じてきた。それなのに彼は「才気走っていて可愛くない」と理不尽な理由で婚約を投げ捨てる。ならばどうぞ、新しいお人形をお探しください。私にはもっと生きがいのある場所があるのです。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
恋愛
 世間から見れば、普通に暮らしている伯爵家令嬢ルイーズ。  けれど実際は、愛人の子ルイーズは継母に蔑まれた毎日を送っている。  継母から、されるがままの仕打ち。彼女は育ててもらった恩義もあり、反抗できずにいる。  継母は疎ましいルイーズを娼館へ売るのを心待ちにしているが、それをルイーズに伝えてしまう。  18歳になれば自分は娼館へ売られる。彼女はそうなる前に伯爵家から逃げるつもりだ。  しかし、継母の狙いとは裏腹に、ルイーズは子爵家のモーガンと婚約。  モーガンの本性をルイーズは知らない。  婚約者の狙いでルイーズは、騎士候補生の訓練に参加する。そこで、ルイーズと侯爵家嫡男のエドワードは出会うことになる。  全ての始まりはここから。  この2人、出会う前から互いに因縁があり、会えば常に喧嘩を繰り広げる。 「どうしてエドワードは、わたしと練習するのよ。文句ばっかり言うなら、誰か別の人とやればいいでしょう! もしかして、わたしのことが好きなの?」 「馬鹿っ! 取り柄のないやつを、俺が好きになるわけがないだろう‼ お前、俺のことが分かっているのか? 煩わしいからお前の方が、俺に惚れるなよ」  エドワードは侯爵家嫡男の顔の他に、至上者としての職位がある。それは国の最重要人物たちしか知らないこと。  その2人に、ある出来事で入れ替わりが起きる。それによって互いの距離がグッと縮まる。  一緒にいると互いに居心地が良く、何の気兼ねも要らない2人。  2人で過ごす時間は、あまりにも楽しい…。  それでもエドワードは、ルイーズへの気持ちを自覚しない。  あるきっかけで体が戻る。  常々、陛下から王女との結婚を持ち掛けられているエドワード。  彼の気持ちはルイーズに向かないままで、自分の結婚相手ではないと判断している。  そんななか、ルイーズがいなくなった…。  青ざめるエドワード。もう会えない…。焦ったエドワードは彼女を探しに行く。  エドワードが、ルイーズを見つけ声を掛けるが、彼女の反応は随分とそっけない。  このときのルイーズは、エドワードに打ち明けたくない事情を抱えていた。 「わたし、親戚の家へ行く用事があるので、あの馬車に乗らないと…。エドワード様お世話になりました」 「待てっ! どこにも行くな。ルイーズは俺のそばからいなくなるな」  吹っ切れたエドワード。自分はルイーズが好きだと気付く。  さらに、切れたエドワードは、ルイーズと共に舞踏会で大騒動を起こす!  出会うはずのない2人の、変わり身の恋物語。 ※常用漢字外はひらがな表記やルビを付けています。  読めるのに、どうしてルビ? という漢字があるかもしれませんが、ご了承ください。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

処理中です...