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しおりを挟む室内にまたしても人が増えた、と嫌な顔をしてクォンツが扉付近へと視線を向ければ。そこには、先程クォンツがアイーシャへ説明したリドルがキョトン、とした表情を浮かべて立っている。
リドルは、目の前に居るエリシャに不思議そうな表情を浮かべていたが、すぐにふいっと興味を失ったかのようにエリシャから視線を外すとクォンツの姿を見付け、表情を緩めるとそちらへとスタスタと歩いて行く。
「クォンツに先程抱き上げられて大講堂を退出したご令嬢だね。怪我、かな……? 大丈夫かい? ──っ、ああ! 無理に起き上がらなくて結構だ、寝ていてくれ!」
「も、申し訳ございません。私はアイーシャ・ルドランと申します。クォンツ・ユルドラーク卿に助けて頂いて、本日入学したと言うのにこのような体たらく……お恥ずかしい限りです……」
アイーシャは、リドルが目の前にやって来た事に合わせて体を起き上がらせようとしたが、リドルが慌ててアイーシャに寝ているように、と告げその言葉に甘えさせて貰った。
「リドル・アーキワンデだ。きっと、クォンツがルドラン嬢に迷惑を掛けたんだろう? こいつは昔からそうだから」
「昔からそうだ、とは心外だな……。お前も大概だろう」
リドルの言葉に、クォンツがぶすっと不貞腐れたように表情を変え遠慮の無い言葉を放つ。
たった少しの会話で、クォンツとリドルの仲の良さが分かったアイーシャはくすくすと控え目に笑い声を出す。
すると、アイーシャに笑われた事を恥ずかしいとでも思ったのだろうか。クォンツがアイーシャにも不貞腐れたような表情を向け、唇を尖らせる。
「──アイーシャ嬢まで何だよ……そんなに俺は適当そうに見えるか?」
「いっ、いえ……っふふっ、クォンツ様はとってもお優しい方だ、と分かっております」
「良かったなぁ、クォンツ。ルドラン嬢はクォンツに迷惑を掛けられてもそれを迷惑とは思わない広い心を持っているみたいだぞ?」
仲の良い、学友達。
何故、その輪の中に自分では無くてアイーシャがいるのだ、と怒りを感じたエリシャはじわり、と瞳に涙を溜めると自分の後ろにいるベルトルトに勢い良く振り返る。
アイーシャが自分を蔑ろにしている、とベルトルトに訴えようとしたエリシャは、しかしベルトルトに視線を向けて目を見開いた。
「──アイーシャ……笑顔が……」
ぽうっ、とまるでアイーシャに見惚れるように頬を染めてアイーシャを凝視しているベルトルトに、エリシャはついつい舌打ちを打ちたくなってしまう。
(私が! 隣に居るのに、ベルトルト様は何であの人に見惚れているのよ……っ! 信じられないっ!)
「ベルトルト様っ」
「──へっ、? えっ、何だいエリシャ嬢……っ」
ベルトルトは、エリシャからくいっと服の裾を引かれてはっと意識をエリシャに向けると慌ててエリシャに視線を向ける。
すると、ベルトルトの視界に映ったエリシャはじわり、と涙を瞳いっぱいに溜めており、今にもその大きな瞳から雫が零れ落ちてしまいそうだ。
「おっ、お姉様が……酷いです……っ、いつもこうしてっ、私を無視して……っお姉様のお友達や、お知り合いを紹介してくれないんですっ」
「──なっ! アイーシャがそんな事を……!?」
ぐしぐし、と泣くエリシャの高い声は二人から離れた場所のベッド付近にもしっかりと届いており、アイーシャは「またか」と諦めにも似た感情に自分の気持ちが支配される。
「──また、あの子は……っ」
小さく呟いたアイーシャの声は、直ぐ側にいたクォンツやリドルにもしっかりと届いていて。
クォンツは呆れたようにアイーシャのベッドに腰掛けると、アイーシャに向かって唇を開く。
「アイーシャ嬢……、何なんだあの妹は……? 不躾に人の会話に入ったり……、挨拶と言う最低限のマナーすら知らないで……本当に君と同じ家で育っているのか?」
「──えっ、」
「本当だな……。紹介してくれない、って……紹介されないのにはそれだけの理由が自分にもあるとは思わないのか」
クォンツだけでは無く、クォンツの隣に立っていたリドルまで呆れたような表情を浮かべ、エリシャに対して苦言を呈している。
その二人の態度に、アイーシャは驚きに瞳を見開く。
今までは、エリシャの言葉を直ぐに信じてしまう者が多く、アイーシャの言葉を信じてくれるような者は居なかった。
「──お二人、は……義妹の言葉を信じたり、しないのですか……?」
「は? 何を言っているんだ、アイーシャ嬢。あんなのただの難癖じゃねーか」
「……? 勿論。クォンツがルドラン嬢と親しい、と言う事は置いても、貴女と彼女、どちらが礼儀正しい女性か、と言うのは分かるからね」
当たり前だろう? と言う態度の二人に、アイーシャは嬉しさに表情を綻ばせると二人にお礼を告げた。
「ひっ、酷いです……っユルドラーク卿に、アーキワンデ卿! 何故お姉様の言葉を信じるのですか……っ! わっ、私は家でも……っうぅ……っ」
「エ、エリシャ嬢っ!」
バタバタ、と足音を立ててエリシャはアイーシャの方へと近付いて来ると、慌てて止めようとしているベルトルトの手を振り払ってクォンツとリドルに庇護欲を誘うような泣き顔で喚いた。
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