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しおりを挟むエリシャは、遅れて入って来た自分の義姉に憎しみの籠った視線を向けながら、アイーシャと一緒に大講堂に入って来たクォンツに視線を向ける。
「──あれ、誰かしら……」
「、? エリシャ?」
隣に座っていたベルトルトがエリシャの声に反応して、不思議そうに話し掛けて来るがエリシャはにっこりと笑みを浮かべると首を横に振る。
「何でもありません、ベルトルト様」
「そ、そうかい……?」
エリシャは、愛らしく笑顔を浮かべると隣に居るベルトルトに甘えるように体を寄せる。
エリシャが甘えて来た事にベルトルトは顔をだらしなく緩ませると、そっとエリシャの肩を抱いた。
(──ベルトルト様をあの人から奪って……あの人が持っている物を殆ど奪ったと思ったんだけどなぁ)
エリシャはこてん、とベルトルトの肩に自分の頭を預けるとアイーシャの隣に座るクォンツに視線を向ける。
(狡いな……。あんなに格好良い人……、私の周りには居ない……。何であんなに格好良い人があの人と一緒に居るのかしら……狡いなぁ……)
アイーシャが持っている物は全部自分の物だ。
だから、アイーシャの隣に居るクォンツも自分の物にしなくちゃ、とエリシャが考えていると、この学園に通っている公爵家の嫡男が新しく入学した生徒達への祝いの言葉を終えて、次に発した言葉に、再び意識を壇上へと戻す。
「──では、次にクォンツ・ユルドラークの表彰に移ろう。……クォンツ・ユルドラークは先の魔物の発生に際して魔法剣士として現地に赴き、魔物を倒し、現地の住民達を救ってくれた。皆も、クォンツのように学園の授業以外にも魔物の被害を受けている住民達の手助けになってくれ」
公爵家の嫡男がそう告げると、先程アイーシャの隣に座っていたクォンツが椅子から立ち上がると壇上へと歩き出す。
「──えっ、嘘っ、あの方が……!?」
「エリシャ……?」
エリシャが食い付くようにベルトルトの肩からガバリ、と頭を退けると身を乗り出してクォンツの姿を見詰める。
「あんな凄い方と、あの人はいつの間に知り合ったのよ……」
エリシャが悔しげにぎり、と歯を食いしばるとエリシャの底知れぬ感情に反応したのだろうか。
壇上に向かっていたクォンツが一瞬だけちらり、とエリシャとベルトルトが居る方向へと視線を向けて来た。
「──っ、」
エリシャが咄嗟にクォンツから視線を外し、ドキドキと不安に胸を騒がせ、俯いているとエリシャに興味を失ったのだろう。
クォンツはふい、と興味無さげに壇上に視線を戻し、先程の公爵家の嫡男から礼の言葉と共に、何か贈呈品を贈られていた。
クォンツはそれを受け取るなり、一言二言公爵家の嫡男と親しげに言葉を交わした後、さっさと壇上から降りて先程まで自分が座っていた方向へと戻って行く。
エリシャは、クォンツを視線で追いながら隣のベルトルトにクォンツの情報を得る為にこっそりと話し掛ける。
「ベルトルト様。今、褒められたクォンツ様って……?」
「──ああ、彼はクォンツ・ユルドラークと言って、ユルドラーク侯爵家の嫡男だよ。魔法の素質が素晴らしくあり、座学も完璧で、魔法剣士として国内の魔獣退治に学生の身でありながら単身向かえる程の力を持つ、その、何と言うか……化け物みたいな方だよ」
「ユルドラーク……侯爵様になる方なのですか?」
「ああ。そうだね。近い将来、彼は爵位を継いでユルドラーク侯爵になるだろうね。公爵家の嫡男とも仲が良いし、確か王太子殿下とも仲が良好だった筈だよ」
「すごおい……! 王子様とも、仲良しなんですね……!」
エリシャは、ベルトルトの言葉にぱあっと表情を輝かせるとうっとりと瞳を細め、クォンツを見詰める。
「──……ぇ、?」
だが、エリシャが見詰めた先。
クォンツを見ていれば、当の本人クォンツは隣に居るアイーシャに気遣うような視線を向けた後、何事か常勤医と話した後、あろう事か隣に居たアイーシャを優しく抱き上げると常勤医を伴い、大講堂を出て行くでは無いか。
エリシャの視線を追って、クォンツの方へ顔を向けたベルトルトも、そこで初めてアイーシャがクォンツに抱き上げられ、大講堂を出て行く姿を目撃し、驚きに目を見開いた。
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