上 下
12 / 169

12

しおりを挟む

 エリシャは、遅れて入って来た自分の義姉に憎しみの籠った視線を向けながら、アイーシャと一緒に大講堂に入って来たクォンツに視線を向ける。

「──あれ、誰かしら……」
「、? エリシャ?」

 隣に座っていたベルトルトがエリシャの声に反応して、不思議そうに話し掛けて来るがエリシャはにっこりと笑みを浮かべると首を横に振る。

「何でもありません、ベルトルト様」
「そ、そうかい……?」

 エリシャは、愛らしく笑顔を浮かべると隣に居るベルトルトに甘えるように体を寄せる。
 エリシャが甘えて来た事にベルトルトは顔をだらしなく緩ませると、そっとエリシャの肩を抱いた。

(──ベルトルト様をあの人から奪って……あの人が持っている物を殆ど奪ったと思ったんだけどなぁ)

 エリシャはこてん、とベルトルトの肩に自分の頭を預けるとアイーシャの隣に座るクォンツに視線を向ける。

(狡いな……。あんなに格好良い人……、私の周りには居ない……。何であんなに格好良い人があの人と一緒に居るのかしら……狡いなぁ……)

 アイーシャが持っている物は全部自分の物だ。
 だから、アイーシャの隣に居るクォンツも自分の物にしなくちゃ、とエリシャが考えていると、この学園に通っている公爵家の嫡男が新しく入学した生徒達への祝いの言葉を終えて、次に発した言葉に、再び意識を壇上へと戻す。

「──では、次にクォンツ・ユルドラークの表彰に移ろう。……クォンツ・ユルドラークは先の魔物の発生に際して魔法剣士として現地に赴き、魔物を倒し、現地の住民達を救ってくれた。皆も、クォンツのように学園の授業以外にも魔物の被害を受けている住民達の手助けになってくれ」

 公爵家の嫡男がそう告げると、先程アイーシャの隣に座っていたクォンツが椅子から立ち上がると壇上へと歩き出す。

「──えっ、嘘っ、あの方が……!?」
「エリシャ……?」

 エリシャが食い付くようにベルトルトの肩からガバリ、と頭を退けると身を乗り出してクォンツの姿を見詰める。

「あんな凄い方と、あの人はいつの間に知り合ったのよ……」

 エリシャが悔しげにぎり、と歯を食いしばるとエリシャの底知れぬ感情に反応したのだろうか。
 壇上に向かっていたクォンツが一瞬だけちらり、とエリシャとベルトルトが居る方向へと視線を向けて来た。

「──っ、」

 エリシャが咄嗟にクォンツから視線を外し、ドキドキと不安に胸を騒がせ、俯いているとエリシャに興味を失ったのだろう。
 クォンツはふい、と興味無さげに壇上に視線を戻し、先程の公爵家の嫡男から礼の言葉と共に、何か贈呈品を贈られていた。

 クォンツはそれを受け取るなり、一言二言公爵家の嫡男と親しげに言葉を交わした後、さっさと壇上から降りて先程まで自分が座っていた方向へと戻って行く。

 エリシャは、クォンツを視線で追いながら隣のベルトルトにクォンツの情報を得る為にこっそりと話し掛ける。

「ベルトルト様。今、褒められたクォンツ様って……?」
「──ああ、彼はクォンツ・ユルドラークと言って、ユルドラーク侯爵家の嫡男だよ。魔法の素質が素晴らしくあり、座学も完璧で、魔法剣士として国内の魔獣退治に学生の身でありながら単身向かえる程の力を持つ、その、何と言うか……化け物みたいな方だよ」
「ユルドラーク……侯爵様になる方なのですか?」
「ああ。そうだね。近い将来、彼は爵位を継いでユルドラーク侯爵になるだろうね。公爵家の嫡男とも仲が良いし、確か王太子殿下とも仲が良好だった筈だよ」
「すごおい……! 王子様とも、仲良しなんですね……!」

 エリシャは、ベルトルトの言葉にぱあっと表情を輝かせるとうっとりと瞳を細め、クォンツを見詰める。

「──……ぇ、?」

 だが、エリシャが見詰めた先。
 クォンツを見ていれば、当の本人クォンツは隣に居るアイーシャに気遣うような視線を向けた後、何事か常勤医と話した後、あろう事か隣に居たアイーシャを優しく抱き上げると常勤医を伴い、大講堂を出て行くでは無いか。

 エリシャの視線を追って、クォンツの方へ顔を向けたベルトルトも、そこで初めてアイーシャがクォンツに抱き上げられ、大講堂を出て行く姿を目撃し、驚きに目を見開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...