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◇◆◇

 それから。
 ルドラン子爵邸には、アイーシャの婚約者であるベルトルトは頻繁に顔を出すようになった。

 だが、アイーシャにベルトルトが来たと知らせが来るのはいつも遅く、ベルトルトが来た際はいつもエリシャが先にベルトルトを出迎え、暫く二人で談笑した後に、アイーシャが呼ばれる。

 アイーシャはベルトルトが来たら早めに自分に知らせてくれるように使用人に頼んだが、使用人達はエリザベートにベルトルトが来たらエリシャに先に知らせるように、と告げているらしく、その言い付けを破りアイーシャに先に知らせた使用人達は解雇されてしまっていた。
 その為、仕事を失いたくは無い使用人達はアイーシャに申し訳無い、と謝罪しアイーシャに許され、ベルトルトがやって来るとエリシャに知らせに行っている。

 アイーシャがやって来るのがいつも遅い為、ベルトルトから苦言を呈される事もあったが、義母に嫌がらせをされている、と遠回しに訴えてもベルトルトはそんな事をエリザベートがする筈が無い、アイーシャが卑屈になっているだけでは無いか、と逆にアイーシャを責める。
 ベルトルトに対して何を言っても無駄だ、と諦めたアイーシャは、ベルトルトがやって来てからきっかり一時間程。一時間程経ってからベルトルトの元へと向かうようになった。

 エリシャと交流をする内に、ベルトルトはエリシャと過ごす事を楽しむようになり、アイーシャがやって来るとエリシャが部屋から退室してしまうのをあからさまに残念がるようになった。

(もう、いっその事私とは婚約を解消して、エリシャと婚約を結び直せばいいのに……)

 アイーシャがそう思ってしまう程、ベルトルトはエリシャに惹かれて行っているのが良く分かる。

(お義父様も、お義母様もきっとその方がいいでしょうに……)

 なのに、何故未だに自分との婚約を継続しているのだろうか、と不思議になってしまう。
 ルドラン子爵家がエリシャを勧めても、ベルトルトのケティング侯爵家が首を縦に振らないのだろうか。

 アイーシャは何故、と考えたがそこでふともしかしたら、と一つだけ思い至る。

(もしかしたら……私とエリシャが発動出来る魔法が関係しているのかしら)

 エリシャは、魔法を発動する為の魔力量が多いが発動出来る魔法の種類が少ない。
 威力の高い魔法を発動する事も出来ないのに比べ、アイーシャは違う。
 アイーシャはエリシャに比べると魔力量は平均的ではあるが発動出来る魔法の種類が多く、威力の高い魔法も発動出来る。

 その事から、アイーシャを選び優秀な魔法士を血筋に残したいのだろうか、と予測する。

(それ、だったら……お義父様もお義母様も私を追い出さないのも頷けるわね……きっと、私がルドラン子爵令嬢であれば利用価値があるんだわ……)

 だが、逆を返せばアイーシャの魔法の能力以外に惹かれる物が無ければあっさりと婚約は解消されてしまう可能性がある。

 もし、そうなってしまったらと考えてアイーシャはぞっとした。

(私が不要になれば……お義父様もお義母様も……私を子爵家から追い出してしまうかもしれない)

 誰かの後妻として嫁がせる。それだったらまだ良い方だ。
 普段から義母エリザベートはアイーシャを毛嫌いしている。アイーシャがこの子爵家に必要無くなればあっさりと切り捨てられるだろう、と予測がつく。

(私、一人でも生きていけるように準備は必要ね……)

 アイーシャはそう考えると、今日もまたベルトルトがやって来ている、と言う知らせを受け重い腰を上げてベルトルトの元へと向かったのだった。
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