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しおりを挟む「──何て、ことを……まさか、アイーシャが……」
信じられない、と言うようにベルトルトがぽつりと呟きエリシャの腕に痛々しく残る鞭で打たれたような痕を見詰める。
「違うのです、ベルトルト様……。お姉様は、不甲斐ない私を……」
「違わないだろう……!? 例え、君が何か失敗をしたとしても、口で言えば言いものなのにこうして体に傷を付ける事を許してはいけない!」
「──っ、怖っくて……っ。お姉様は、この家で大変な思いをしているから……っ、お辛い思いをずっと我慢しているから……っ、だから……っ、お姉様が辛い思いを私にぶつける事で……っ、少しでもお辛い気持ちが解消されるならいいんですっ、私がベルトルト様にお話した事は絶対にお姉様に言わないで下さい! お姉様にばれてしまったら、私っ、私……っ」
「ルドラン嬢……っ!」
廊下の床に崩れ落ちそうになったエリシャを、ベルトルトは慌てて抱き止める。
「──アイーシャの、過去は知っている……。確かに、ご両親があんな事になってしまい、アイーシャの辛い気持ちは分かるが……だが、良くしてくれている君の両親や、君に対して酷い事をしても良い、と言う事にはならないだろう?」
「──……っ、ぅっ、」
「……今までよりも、頻繁に子爵邸には通おう。僕が顔を出す事が増えれば、アイーシャも君に当たる回数が減るかもしれないだろう?」
「あ、ありがとうございます……っ、ベルトルト様っ」
ぶわり、と涙を溢れさせ、ひしっとベルトルトに抱き着くエリシャにベルトルトは僅かに頬を染めたまま、エリシャの自室へとゆっくりと向かった。
ベルトルトがサロンへと戻って来たのは、エリシャを連れて出て行ってから暫く経った後だった。
アイーシャは、ルミアから入れて貰った紅茶を何杯か飲んだ後、ベルトルトの戻りが遅い為、ベルトルトを探しに行こうか、と腰を上げ掛けた頃合にベルトルトが難しい顔をしてサロンへと戻って来た。
「──ベルトルト様」
「……ああ、待たせてすまないねアイーシャ」
婚約者の義妹の部屋に向かうのに、どれ程の時間が掛かっているのだろうか。
もう直ぐ夕食の時間になる。折角ベルトルトには来て貰ったが、そろそろ時間も時間なので帰って貰った方がいいだろう。
アイーシャがそう考えて、ベルトルトへと視線を向けるとベルトルトがアイーシャに向かって唇を開いた。
「──アイーシャ……。君は辛い過去を背負っているのは知っているが……、君を慕っている妹君に当たってはいけないよ。……君も、もう少ししたら学園に入学するだろう? 学園に入学すれば学友も出来て、いい気分転換にもなるだろうから……」
「当たる……、ですか……? 私がエリシャに……?」
ベルトルトの言う言葉の意味が分からず、アイーシャが思わずきょとん、とした表情を浮かべるとベルトルトは眉を寄せる。
しらばっくれている、とでも感じたのだろうか。
気遣うようだったベルトルトの眦がつい、と厳しくなる。
「……隠し通そうとするのはいいが……悪行は必ず日の目に出るんだ……。アイーシャ、君には自分が犯してしまった事をしっかりと反省し、自分の行いを見つめ直して欲しい。……それでは、僕はそろそろお暇するよ」
冷たくベルトルトから告げられ、最後はアイーシャを見る事無くソファから腰を上げると、アイーシャの言葉を待つ事無くサロンの入口へと歩いて行ってしまう。
ベルトルトの後ろ姿は、アイーシャの態度に呆れたような、幻滅したようなそんな感情が透けて見えて。
アイーシャは何故、ベルトルトがそのような態度を取るのか分からないまま、それでもベルトルトを見送りに行こうとしたが、真っ直ぐ歩いて行くベルトルトは振り返る事無くアイーシャに先程よりも冷たく言葉を発した。
「──見送りは結構」
冷たく吐き捨てるようにベルトルトからそう言われてしまい、アイーシャは何が何だか分からないまま、その場に立ち尽くした。
サロンが見下ろせる二階。
サロンの天井は吹き抜けとなっており、二階部分からサロンを見下ろす事が出来る。
手摺に手を付き、下を見下ろしていたアイーシャの義妹、エリシャはふん、と鼻で笑いながらにんまりと口元を歪めた。
「馬鹿なお姉様。お姉様の物は全部全部、私たちルドラン子爵家の物なんだから……」
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