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しおりを挟むやってしまった。
カイルは、シェリナリアを自室へと送る為抱き上げたまま廊下を慎重に進んで行く。
(俺が、考え事に気を取られたせいで皇女様にお怪我を……)
何をやっているんだ、と自分を殴りたくなる。
今、自分の腕はシェリナリアを抱えている為自分を殴る事は出来ないが、今自分の手が空いていたら間違いなく強く殴るのに。
と、カイルは落ち込んでいた。
守るべき対象であるシェリナリアに怪我を追わせ、シェリナリアが求めていた気晴らしも途中で中断してしまった。
(シアナだったら、もっと上手く出来たのだろうか──)
ふと、カイルは自分の一つ年上の先輩護衛騎士の姿を思い浮かべる。
シェリナリアと同性だからか、シアナと良く共に居る事が多い。
シェリナリアが困っている時、相談したい時、一番に頼られるのはいつもシアナだ。
確かに、カイルが専属護衛騎士に任命された時には既にシアナはシェリナリアの隣に居た。
自分よりも長くシェリナリアの隣に居たのだから、自分より信頼されていても仕方ない。
頭ではそう理解しているが、カイルはいつもモヤモヤとしたやるせなさを感じていた。
(皇女様が俺を頼ってくれない、と言う悲しさや嫉妬心)
もっと力を付ければ、シェリナリアは自分を頼ってくれるだろうか。
何にも動じない、強い力を手に入れればシアナよりも頼ってくれるだろうか。
そう考えて、カイルはいつも人一番訓練に勤しんだし、シェリナリアが頼ってくれそうに、頼りになる大人になれるようにいつも冷静沈着で、取り乱さないよう頼れる大人を目指して来た。
(それなのに……せっかく、皇女様が気晴らしの相手として俺を選んでくれたのに……)
カイルは、自分の腕の中に居るシェリナリアにちらり、と視線を向ける。
先程は気が動転して直ぐに部屋に戻らなければ、と抱き上げてしまったが、こんなにシェリナリアは軽かっただろうか。
(こんなに……皇女様は小さかっただろうか……)
力を入れたら簡単にぽきり、と折れてしまいそうな程、弱々しい体だっただろうか。
カイルがじっとシェリナリアを見つめると、髪の間から覗くシェリナリアの耳が仄かに赤く染まっている。
恥ずかしがっているのだろうか。
(昔はこれくらい日常茶飯事だったのに……)
子供の頃は、シェリナリアとシアナと、たまにアレックスがやってきて、四人で共に過ごす事が多かった。
皇城の広い庭で遊んだり、隠れんぼをしたり。
疲れて眠ったシェリナリアを、カイルは良く抱えていたものだ。
(子供の頃とは違う……)
カイルはそう考えて、先程無意識に強くシェリナリアを抱きしめてしまった事を思い出す。
(──……っ)
瞬時に、先程のシェリナリアの体のやわらかさや、シェリナリアから漂って来るいい香りを思い出して赤面する。
(俺は、何を……!)
恥ずかしい。
忠誠を違う、主君である皇族に対して感じる思いではない。
このような感情を抱いた事がシェリナリアに知られれば幻滅し、専属護衛の任を解かれてしまう可能性もある。
カイルが真っ赤になりながら、廊下を進んで行くとシェリナリアの部屋が視界に入る。
その事にほっと安堵の息を漏らして、カイルはシェリナリアを抱く腕に力を入れ直す。
「皇女様、もう着きますので……」
「え、ええ。ありがとう……」
シェリナリアの声が自分の首元からポソポソと聞こえて来て、何だか擽ったい。
カイルは、そのままシェリナリアの部屋へと近付いて行く。
すると、部屋の前で立っていた近衛護衛がギョッとした視線を向けてくる。
その視線に、カイルは唇を開いて説明する。
「皇女様が足を捻ってしまわれた。手当の為に室内に入るが、しっかり警備は続けてくれ」
「──あ、ああ。了解した」
カイルの言葉に、近衛護衛も頷くと部屋に入りやすいように扉を開けてくれる。
カイルは軽く礼を言うと、シェリナリアを抱えたまま部屋へと入って行った。
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