【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船

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答え合わせ 2

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「まぁ、…それで。ミュラーが婚約者探しをしているという噂が流れて、あのニック・フレッチャーがミュラーに近付いて来たようだ。成人の舞踏会で既成事実を作ろうと強硬手段に出たんだろう」
「なんてことを…」

あの執拗なまでのニック・フレッチャーからの執着を思い出してミュラーは顔色を悪くする。
だがそこではた、と疑問に感じた事をミュラーはレオンに問うた。

「…フレッチャー家のご嫡男の事は分かりましたが…何故そこでキャロン・ホフマンさんが…?」

先程のレオンの話だと、キャロンがニックに薬を渡したと言っていた。
普通の令嬢があんな違法の薬物を何故持っていたのか…入手経路が不明で気味が悪い。
ミュラーのその問いにレオンは深く溜息を吐き出すと、しっかりとミュラーの瞳を見つめながら唇を開いた。

「…二年前に、王都で禁止されていた禁止薬物が使用された。その禁止薬物を他人に無理矢理服用させた罪で、フィプソン伯爵家が爵位を剥奪され、家は取り潰された。一家の人間が尽く禁止薬物の乱用、売買に加担していたんだ」
「フィプソン家……」

ミュラーは聞き覚えのあるその家名に眉を顰めると、何処でその名を聞いたのか必死に思い出そうとする。

「…っ!パトリシア、そうですわ。パトリシア・フィプソン…!」
「…キャロン・ホフマンに聞いた?」
「ええ、ええ!あの日に確かに聞きました。レオン様と結婚する予定だった女性がいて、その女性がパトリシア・フィプソン嬢だと…!っですが、ホフマン嬢はフィプソン嬢はその、レオン様と別れた精神的なショックで儚くなってしまわれた、と…」

ミュラーから聞かされた内容にレオンは驚きに目を見開くと、呆れたように顔を歪ませた。

「─それは違う、ミュラー。パトリシア・フィプソンは犯罪を犯した者が収監される王城の地下牢へと入れられている…まあ、生きてはいるよ」
「っ、そうなのですね…では、何故ホフマン嬢は…」
「…キャロン・ホフマンは俺に執着していた。ミュラーを排除しようと、ありもしない妄言を話して聞かせたんだろう。流石親戚同士だ。パトリシア・フィプソンと似たような性格だな…今回も同じような手口で犯罪を犯そうとした訳だ…」
「…同じような…?まさか、フィプソン嬢は過去今回と同じような事を…?」

驚き、ミュラーは自分の口元を手で覆う。
待って欲しい。同じような手口、と言うことは以前の犯罪には自分は関わっていない事に気付いたミュラーは、レオンに視線を向ける。
まさか。

「まさか、以前…レオン様は禁止薬物を盛られてしまった経験が…?」

だから、今回の件に関して落ち着いて対処出来たのだろうか。
通常、解毒薬なんて常備している方がおかしい。
しかも何故二人分の解毒薬を用意出来たのか。
それはきっと、過去に自分が薬を盛られてしまった経験から万全の準備をしていたのだろう。

「ああ…恥ずかしい話。夜会で今回と同じく媚薬と禁止薬物を盛られた。禁止薬物には幻覚作用がある…盛った犯人をミュラーだと思い込み、危うい所だったけど、アウディに助けられた。パトリシア・フィプソンは恐らく俺に襲わせて既成事実を作るつもりだったんだろう」
「2年前…夜会…」

レオンの話に、ミュラーは2年前に見てしまったレオンのあの姿を思い出す。
令嬢を壁際に押し付け、口付けをしていた。
普段の温厚なレオンの態度とは違い、とても乱暴な姿。
あれは、そうだったのだ。とストン、と自分の胸に落ちた。
犯罪に巻き込まれ、理性を失ったレオンの姿だったのだ。
ずっと自分の心の中にしこりのように残っていた違和感やもやもやした嫉妬の気持ち。
レオンの意思とは反した行動だったのだ、と理解して喜色に染まる自分の心は何と浅はかなのだろう。
けれど、単純に嬉しいのだ。レオンが自ら正常な判断で、自分の意思で口付けてくれたのは自分だけだ。2年前のあんな偽りのレオンからの口付けに落ち込み、傷つく事はないのだ。
だって、しっかりと今ではレオンからの気持ちがまっすぐと自分に向けられている事がわかるから。

「それで…一般人である俺に禁止薬物を盛ったパトリシア・フィプソンはその場で取り押さえられて拘束された。自宅を調べる内に、伯爵家自体が禁止薬物に手を出していた事が判明して爵位剥奪の上、親は粛清。薬を服用、一般人へ一服盛っただけのパトリシア・フィプソンは一生涯収監の罪になった。…禁止薬物は全て根絶したかと思ったんだが…何故か今回親戚のキャロン・ホフマンがその薬を乱用、流通させてしまっていた。おまけに、媚薬を改良して効果を増幅させていた。」
「…それを、ニック・フレッチャーも使用していた、という事なんですね」

レオンが肯定するように頷く。
一連の話を聞いて、ミュラーは今回愚かな罪を犯した両者はもう助からないであろう事にも気付く。
以前、キャロン・ホフマンがレオンに服用させた件とまったく同じである。
しかも今回は計画的に複数の人間を巻き込み、巻き込んだ人間の一人は侯爵家の当主だ。
キャロン・ホフマンと同じく一生涯の幽閉となるだろう。

「こんな事にならないように俺がミュラーにしっかりついていたのに…守れなくてごめん」
「…っそんな!レオン様のせいではないですっ!私が薬を飲まされてしまった時もレオン様はご自分も辛い状況だったのに私を守ってくれました!」

とんでもない!とミュラーはぶんぶんと首を横に振ると、レオンにそう告げる。
自分も媚薬の熱と戦いながら守ってくれたレオンに感謝こそすれ、責める気持ちなんてまったくない。
そもそも、薬物で人の心を操ろうとしたり、無理矢理体を手に入れようとする人間が悪いのだ。

「…ミュラーに求婚を受け入れてもらって、俺の気持ちを受け入れてもらった事に浮かれて一時的にでもミュラーから離れた俺の落ち度だよ」
「…あの場合は仕方ありません…あのタイミングでドリンクの差し入れが来ては、お互い勘違いします…それに、王宮であんな大胆な犯行に及ぶとは…」
「王宮での舞踏会だから、伯爵家の護衛を入れる事が出来なかったあの場を狙ったんだ…ニック・フレッチャーのミュラーに向けるあの目を見ていたのに…本当にミュラーが無事で良かった」

真っ直ぐ見つめ、そう言葉を続けるレオンにミュラーはもう気にしないでください、と微笑みかける。
危ない所ではあったが、レオンが助けてくれて無事だったのだ。

2人の話が一段落するのを待っていたのだろうか、ミュラーの隣で黙って話を聞いていたミュラーの父親が口を開いた。
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