【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船

文字の大きさ
上 下
34 / 42

ゲストルームの扉の向こうで 3

しおりを挟む

ばたーん!と派手な音を立てて、アウディがゲストルームに転がり込んで来る。
派手にドアを蹴破ったのは舞踏会の王族警護にあたっていた近衛兵で、近衛兵の後方にはホーエンスが呼んで来てくれたのだろう、衛兵も続いてゲストルームへと入ってきていた。

アウディはしっかりとレオンの言った通りに、10分経っても出てこない兄に不安になりながらゲストルームのドアノブにそっと手をかけた。
そうしたら、ガチンと音を立てるだけで扉が開かない。扉へ耳を寄せれば中ではレオンとミュラーの声ではない物が聞こえた為レオンの言っていた「最悪の状況」がゲストルームの中で起きているのだと分かったアウディは、レオンの指示通り近衛兵へと報告へ向かったのだ。

報告に些か時間が掛かってしまい、ゲストルームへと戻るのに少し時間が空いてしまったが大丈夫だろうか、と心配しながら部屋へと入った瞬間、自分の視界に飛び込んで来た部屋の惨状に一瞬動きが静止する。



部屋の中にはニック・フレッチャーが床に転がり腕を抑え痛みに呻いているし、見知らぬ令嬢がまたも床に倒れ込み何事か呟き続けている。
恐らくソファの前にあったのだろうローテーブルは足が折れ、分厚い硝子のテーブル表面はバリバリに割れて床に散り、照明の明かりを受けてキラキラと床が煌めいている。
高級そうな水差しは何事か呟いている令嬢の側に落ちていて、硝子の厚い底面は何故か亀裂が走り今にも割れてしまいそうになっていた。

そんな異常な室内で、レオンがミュラーと思わしき女性をしっかりと抱き締めソファに座って顔中に口付けている。
自分の着ていたコートをミュラーの頭から被せ、顔を隠しているのだろうか。
自分の胸元へミュラーの頭を抱き込むと、レオンはやっとアウディ達へと顔を向けた。


「助かった、アウディ」
「え、いや、え、ええ」

呆気に取られていたアウディだが、室内に入っていく近衛兵と衛兵に続いてレオンへと足を進める。
後ろにいたホーエンスも室内の惨状を見て「うわぁ」と後ろで呻いているようだ。

「兄上、え、これ…何があったんですか」

これ、と言いながらアウディが床に転がるニックを指差すとレオンはチラリと視線をやり、近衛兵に拘束されているニックを恨みの籠った眼差しで射殺すように見やると唇を開く。
近衛兵と衛兵も現状把握の為か、ニックを拘束するとレオンの話を聞きに側に来る。

「…ニック・フレッチャーと、そこの、ああ、床に倒れている令嬢はキャロン・ホフマン嬢なのだが…2人がどうやら手を組んでいたみたいだな。俺とミュラーに媚薬を盛った後でこのゲストルームに誘導するよう王宮の使用人を買収していたみたいだ。つい先程交代したばかりの使用人には自分達が潜んでいる事を隠し、この部屋に俺たちを誘導するよう裏で糸を引いていたんだろう」
「…2人が潜んでいて、それで兄上とミュラーが媚薬で上がった熱を冷ます為にここに来るだろうから、招き入れて…って事ですか…」
「ああ。最初はキャロン・ホフマン嬢の姿しかなかったから油断した。後ろからニック・フレッチャーに襲われてこの有様だ」

室内をぐるりと見渡し、レオンが疲れたようにそう零す。

「ああ、あとキャロン・ホフマン嬢の拘束も頼む。俺に媚薬を持って無理矢理体の関係を迫ってきた危険な女だ。それと、恐らく例の禁止薬物もキャロン・ホフマン嬢が持っている。俺に盛ろうとしたよ」
「なっ!それは本当ですか…!」

レオンの話に驚いたように近衛兵と衛兵が声を荒らげる。
オリバーからしっかりと話は行っていたようだ、とレオンはほっと息をつく。
ああ、と頷くと服用されそうになったから水で吐き出した。と事も無げに答える姿に近衛兵と衛兵が慌ててキャロン・ホフマンも拘束する為駆け寄って行った。

「っ、!いやっ!触らないでっ私に触れてもいいのはレオン様だけよっ!レオン様レオン様っ!私と結婚すると仰って下さったじゃない!何で、他の男なんかに触らせるのっ!」
「っ暴れるな!」
「ああ、キャロン・ホフマン嬢は見ての通り禁止薬物常用者だ。こっちのニック・フレッチャーも」

レオンの言葉に近衛兵と衛兵は苦虫を噛み潰したように表情を歪めると、団長の元へと連れていきます、とレオンへ伝える。

「祝いの場でこのような事が起きてしまい大変申し訳ございません。警備体制の見直しを致します…お2人はお体は大丈夫でしょうか…?」
「ああ、禁止薬物は俺はすぐに吐き出したし、彼女も禁止薬物は摂取していない…盛られたのは媚薬一種類だけだが、どうも効き目がおかしい…ホフマン家で違法改良している可能性があるのでこの件も調べて欲しい」
「違法改良まで…っ、かしこまりました。…我々は一先ずこの者達を連行致します。お2人もお体が辛いでしょうから、後日改めて王城へとお越しください」
「了解した、アルファスト家とハドソン家に連絡を入れてくれれば大丈夫だ」

そのレオンの言葉を聞いて、近衛兵と衛兵は一礼するとニックとキャロンを引き連れてその場を後にした。

「……っ」

レオンは取り敢えず何とかなった、と安堵の溜息を零すと、腕の中で未だ熱い吐息を零すミュラーに視線をやる。

「アウディ、本当に助かった」

ありがとう、と続けるレオンにアウディはぶんぶんと首を横に振ると、兄上とミュラーが無事で良かったです。と呟いた。
ホーエンスもほっとしたように表情を和らげている。

「あー…2人とも、折角助けに来てくれたんだが…すまない」

気まずそうにレオンが視線を外し、唇を開く。

「多分俺とミュラーに盛られた媚薬は違法改良された物だ…耐性がないミュラーに効きすぎている」
「─!あぁ、はい。分かりましたよ。俺達にミュラーのその表情を見せたくないんですね」

いち早くレオンの言いたい事を察したアウディが、後ろにいたホーエンスの背中を押しながら部屋から退出しようと足を進める。

「…悪い。伯爵とラーラが到着したら事情を話して待っていてくれ…ミュラーも熱に魘された自分を見られたくないと思う…」
「…分かってると思いますけど兄上…」
「あぁ、こんな状態のミュラーに手を出す程落ちぶれていないよ」
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...