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しおりを挟むルールエの町までは、馬で駆ければ半日しない程の場所にある。
その為、キアトはフェルマン邸から出ると病み上がりの自分の体調など気にせず、ただひたすらに馬を駆けた。
背後から、フェルマン家の捜索隊がキアトを静止するような声を上げているが、キアトは速度を落とさず駆け続けた。
(きっと、ルールエの町で保護されたのは兄上で間違いない……!町で手当をしてくれていると言うが、早急に邸に連れ帰り、医者に適切な処置をされれば……!)
キアトは、半ば兄キラージの生存を諦めていた所もある。
キラージが事故に巻き込まれてから大分時間が経っている。
その為、生きてて欲しいと願う傍ら「もしかしたら兄は既に」と良くない考えが何度も過ぎった。
だが、そんな辛い状態の時にルーシェの父親であるハビリオン伯爵から捜索の協力を得て、自分の説明不足のせいで──いや、自分がルーシェに嫌われるのを恐れて説明しなければいけない大事な事から逃げたせいで、婚約が解消されそうになっていたかもしれないのに、それでもまだ家族にもなっていないフェルマン伯爵家の為にハビリオン伯爵は協力を申し出てくれた。
それならば、腐っている時間は無いのだ。
快く協力を申し出てくれたハビリオン伯爵の為にも、自分が早く快復して兄を助けなければいけない。
それが、自分を信じてくれたハビリオン伯爵と、自分を信じてくれたルーシェに対して答えられる最上なのかもしれない。
そう考え、キアトは馬を駆け続け、半日も掛からずにルールエの町へと到着した。
「ルーシェ、来たぞ。大丈夫かい?」
「──お父様!」
翌日、フェルマン伯爵邸にはルーシェの父親が心配そうな表情を浮かべてやって来た。
ルーシェはパタパタと父親に駆け寄ると、沢山手助けをしてくれている父親に抱き着いた。
駆け寄った勢いのまま抱き着いて来たルーシェに、父親は危なげなくルーシェを受け止めると、「どうしたんだ?」と優しい表情で問い掛ける。
「お父様、沢山ご迷惑を掛けてしまってごめんなさい……。それなのに、沢山協力を頂きありがとうございます……!」
「なんだ、そんな事か?子供が困っていれば、手を差し伸べるのは父親として当然の事だ。お礼を言われる程ではないよ」
父親は嬉しそうに表情を綻ばせると、ルーシェの頭を撫でくりまわす。
ルーシェは、撫でられてボサボサになってしまった髪の毛を恥ずかしそうに手櫛で整えながら父親に視線を向ける。
「──でも、やっぱりお父様にお礼をお伝えしたいです。本当にありがとうございます……!」
「……ああ。どう致しまして」
ルーシェの言葉に、父親は「しょうがないな」とでも言うような、困ったような笑みを浮かべるとルーシェと、途中から合流した家令のジェームズに案内され、邸へと入っていった。
「──医者の手配はこちらでしておいた。フェルマン伯爵家で懇意にしている医者と、我が家の医者は同じだからな。キアト殿がキラージ殿を連れ帰ったら直ぐに見て貰えるように、今日の午後からこの邸に滞在して貰うよう伝えている」
「……っ!ハビリオン伯爵……、本当に何から何までご協力頂きありがとうございます……!」
「なに、礼には及ばん。赤子の世話や、邸内の仕事、当主が不在なのだ当主代理の仕事もあるだろう。私の名で手配出来る物はやっておこう」
ルーシェの父親の言葉に、ジェームズは深々と頭を下げて謝意を表す。
伯爵家当主が直々に動き、協力をしてくれる程有難いものは無い。
ジェームズは、邸内の全ての事を取りまとめねばいけない、と覚悟していたがこうしてルーシェの父親が手助けをしてくれる事でどれだけの助けになるか。
フェルマン伯爵家に、現在公式な当主が不在なのだ。
その為、当主代理としてキアトがその仕事を担っていたが、今はその当主代理であるキアトも邸内に不在となる。
医者の手配一つにも、当主代理の更に代理であるジェームズには時間が掛かるのだ。
それから、ジェームズはルーシェの父親の協力の元、キアトがキラージを連れ帰って来るまでの間、忙しなく動き続けた。
そして、翌日。
昼前にキアトがキラージを連れて馬車で戻り、フェルマン伯爵邸は当主の帰還と、命が無事だった事に喜んだが、キラージの怪我の具合が予測していたよりも酷く、大急ぎで手配していた医者を手当に当たらせた。
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