13 / 27
13
しおりを挟む「兄上の衣服が見付かったとは本当か……!?」
翌日、キアトが急いで事故現場へ向かうとキアトが所属している騎士団の同僚達が居て、キアトは馬から飛び降りると同僚達の元へと駆け寄る。
「──キアト!」
「お前、顔が真っ青だぞ、大丈夫か……!?」
同僚達から名を呼ばれ、体調を心配されるがキアトはそれ所では無い。
兄が当日身に付けていた衣服が見付かったと知らせが入ったのだ。
衣服が見付かった、と言う事はその衣服を身に付けていた本人が近くに居る筈だ。
周囲を見回すキアトに、同僚達が言いにくそうに表情を曇らせ、キアトの前にそっと何かを差し出す。
「──これ、が昨日事故現場から離れたこの川の下流で見付かったようだ」
「……これ、が衣服……?」
同僚から目の前に差し出された物を視界に入れて、キアトは真っ青だった顔色を更に悪くする。
衣服、と言うにはボロボロになり過ぎていて一見してそれが衣服だと言うには直ぐには気付けない。
それ程、激しく生地が痛み破れ、擦り切れている。
その衣服をキアトは自分の震える腕で受け取ると、ゆっくりと広げて行く。
所々、血のような跡が付着しており、キラージの物であるならば大きな怪我を負っているであろう事が一目見ただけで分かる。
「これが、下流で……?兄は……?」
キアトの震える声に、騎士団の同僚達は力無く首を横に振る。
何処まで流されて行ってしまったのか。
せめて、体だけでも邸に戻してやりたい。
キアトはその一心で、捜索に自身も加わる事にした。
伯爵家の仕事の合間を縫って、仕事が終わった後、僅かな侍従を伴い夜間に捜索にも向かった。
だが、数日経っても兄、キラージの消息は掴めぬままで、キアト自身も憔悴し始める。
「……もうすぐ、ハビリオン伯爵から提示された一週間だ……ルーシェ……ルーシェに会いたい……」
慣れぬ伯爵家の政務に、連日の兄の捜索に、自分の婚約の事。
キアトの疲労は限界まで溜まりに溜まって、とうとうキアトは倒れた。
キアトがハビリオン伯爵家にやって来る約束の日の二日前。
ハビリオン伯爵邸に、フェルマン伯爵家の家令であるジェームズが、憔悴した様子でやって来た。
ルーシェの父親は何事か、と戸惑い気味にジェームズに訳を聞くと、ルーシェが回復したと思ったら、今度はキアトが体調を崩し、倒れたと知らせに来てくれたのだ。
詳細を聞いてみれば、キアトは兄キラージの衣服が事故現場付近で見付かった事を知り、事故現場に向かい連日兄の捜索に加わっていたらしい。
その捜索は、伯爵家の仕事の合間を縫って行っていたらしく、疲労が積み重なり、体力を消耗しとうとう今日この日糸が切れたかのように突然倒れたらしい。
「──何と言う無茶を……!」
ルーシェの父親は、余りの事に自分の額を抑えた。
いくら騎士団に所属し、体力があるとは言っても伯爵家の仕事をこなし、睡眠時間を削り捜索に参加するなど、倒れても仕方ない。
ルーシェに会う事を楽しみにしていたのに、体調管理も出来ずに倒れてしまう程、捜索に没頭するなど何かがあったのだろうか。
ルーシェの父親は疑問に思い、ジェームズに尋ねるとジェームズは青い顔で言いにくそうにだが、唇を開いた。
「それが……キアト様の兄君、キラージ様が当日お召になられていた衣服が川の下流から見付かったらしく……その衣服の惨状に、少しでも早く兄君を邸に連れ帰ってやりたい、と……」
「──生存の希望はないのか……?」
「衣服に付着した血痕の量からして……厳しいそうです……。ですから、キアト様はせめてキラージ様のお体だけでも、と……」
ジェームズがどんどんと俯いて行く様子に、ルーシェの父親は「なんて事だ……」と小さく呟くと暫し考え込む。
「──分かった。我が伯爵家からも捜索の人員を回そう……」
ルーシェの父親の言葉に、ジェームズは俯いていた体勢から、ぱっと勢い良く顔を上げると震える声で「まことですか……」と小さく声を上げる。
「お力をお貸し頂けるのは大変嬉しいのですが、本当に宜しいのでしょうか……!」
「勿論だ。将来、ルーシェの夫となる男の家族の為だからな……。捜索の協力程度しか力なれぬが許してくれ」
「──とんでもございません……!捜索の人員が増えれば、キアト様の兄君、キラージ様のお体も見つかるかもしれません……っ、本当に、本当にありがとうございます……!」
薄らと涙の膜が張った瞳で、ジェームズに見つめられお礼を伝えられてルーシェの父親は「気にするな」と微笑んでやる。
さて、それでは早速捜索に行ってくれる者を選定するか、とルーシェの父親がくるりと振り返ると。
応接室の扉が空いており、その場に呼んで居ないはずのルーシェの姿があった。
「──お父様……今のお話は……」
「ルーシェ……!」
ルーシェの顔は真っ青に血の気が引いており、その声も、唇もカタカタと小さく震えていた。
48
お気に入りに追加
1,534
あなたにおすすめの小説

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。

お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。
そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。
しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?

婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました
柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」
久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。
自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。
――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。
レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

私を捨てた元婚約者が、一年後にプロポーズをしてきました
柚木ゆず
恋愛
魅力を全く感じなくなった。運命の人ではなかった。お前と一緒にいる価値はない。
かつて一目惚れをした婚約者のクリステルに飽き、理不尽に関係を絶った伯爵令息・クロード。
それから1年後。そんな彼は再びクリステルの前に現れ、「あれは勘違いだった」「僕達は運命の赤い糸で繋がってたんだ」「結婚してくれ」と言い出したのでした。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる