【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

文字の大きさ
上 下
78 / 78

最終話

しおりを挟む

 そうして、バジュラドの処刑が済むと国王バルハルムドが国民達の前に姿を表し、バジュラドと同じく国を売った貴族達の家名を告げ始める。

 バルハルムドに名を呼ばれた貴族達は、既に捕らえられていたのだろう。
 手枷を嵌められ、貴族と言うには些かみすぼらしい姿で国民達の前へと引き摺り出される。

 国民達の口から売国奴、粛清しろ、と野次が飛ぶ。
 国民達の前に姿を表した貴族達は怯える者、怒り暴言を吐く者、沈痛な面持ちで黙り込む者等様々で、リスティアナは眉を顰めた。



 長いような、だが実際は短いであろう裁きの時が終えると国民達はバルハルムドから語られた国を襲った危機にざわざわとざわめきを残しながら一人また一人とその場を去って行き、傍聴席に居たリスティアナ達貴族もまた腰を上げて去って行く。

「──リスティアナ、貴女学園はいつから戻るの?」

 帰り際、リスティアナの友人であるコリーナがリスティアナとリオルドに視線を向けて声を掛けてくる。

「……そうね、お父様と相談するけれど……なるべく早めに学園に戻りたいわね」
「──そう」

 コリーナはゆったりと嬉しそうに瞳を細めた。

「なら、早く戻って来て頂戴。貴女が居ないとつまらないから。……アイリーン嬢と、ティファ嬢と待ってるわよ。……ああ、勿論スノーケア卿、貴方も待ってるから」
「ありがとう、コリーナ」
「ええ、直ぐに戻りますよ」

 コリーナの言葉に、リスティアナとリオルドは嬉しそうに瞳を細めると「また学園で」と挨拶を交わし、別れた。





◇◆◇

 アロースタリーズ国を襲った、一連の事件が収束に向かい、リスティアナは久しぶりに学園の制服に袖を通した。

「──リスティアナ、本当にもう学園に戻るのか?」

 王城の、腕の良い王宮医に足を診て貰ったオースティンは、義足を付けて杖を使用すれば自力で歩く事が出来るようになるまで回復した。
 歩けるようになるまでに数ヶ月の時間を要してしまったが、王都に戻って来たばかりの頃、血の気が引き弱々しくなってしまっていた父親オースティンの姿はもう何処にも無い。
 今では以前のように侯爵としての仕事に復帰して国王、バルハルムドの腹心として国内の貴族達の監視の目を担い、先日ウルム国へ向かった兄、オルファが国外に追放され、ウルム国に落ち延びた貴族達を監視する。

 暫くしたら、ウムル国でオルファの婚姻式もあるだろう。
 それには参加出来ないかもしれない、と話していたオースティンだが今の状態を見れば問題無くウルム国へと向かう事も出来そうでリスティアナはオースティンの言葉ににっこりと笑顔を浮かべて言葉を返す。

「ええ、お父様。これ以上お休みしていては授業に追い付けなくなってしまいますし」
「それは大丈夫だろう。邸でしっかりと講師を呼んで学んでいたし」
「ええ、ですが。……友人達も待っていて下さるので、登園致しますわ」
「──……わかった。大丈夫だと思うが、変な輩が居たら直ぐに私に報告するんだぞ」
「ふふ……っ、かしこまりましたお父様」

 リスティアナの元には、一連の騒ぎの後、王太子であるヴィルジールとの婚約が解消された事で婚約の申し出が次から次へと舞い込んで来ていた。
 すげ無く断ってはいるが、学園でリスティアナに接触して来る者もまだ居るだろう。

 オースティンは、リスティアナの背後に視線を向けると、唇を開く。

「──リオルド……! 学園内ではリオルドがしっかりとリスティアナを見てやっていてくれ……!」

 オースティンが視線を向けた先。
 そこには、リオルド・スノーケアがリスティアナと同じように久しぶりに学園の制服に身を包み、廊下を歩いて来ていた。

「ええ、勿論ですよ侯爵様。……いえ、お義父様とお呼びした方が良いですか?」
「あー……やめろやめろ。まだそんな呼び方をされたくは無い」

 リオルドは楽しそうに笑うと、待っていてくれていたリスティアナの手を取り、「では行ってきます」と声を上げて見送るオースティンや、邸の使用人達に手を上げて邸を後にする。



 あれから。
 リオルドは、リスティアナの婚約者になると同時に、メイブルム侯爵家を継ぐ為にメイブルム侯爵家に生活の基盤を移し、昼夜当主のオースティンから指導を受けている。

 リオルドは兄、マーベルをマーベルの側から支え助けるのでは無く、離れた場所ではあるが王都で、中央貴族としてタナトス領を以前のような危機に陥らせないようにオースティンから日々様々な事を学んでいる。

 リスティアナは、共に同じ邸で過ごしながらもあまり一緒に居る事が出来なかったリオルドが、オースティンから様々な事を学ぶようになり、頼もしく成長している事を目の当たりにして、握られた自分の手のひらにそっと視線を落とす。

「……リスティアナ?」

 リオルドが、きょとんと瞳を開きリスティアナの顔を覗き込む。
 共にメイブルム侯爵邸で過ごすようになり、リオルドはリスティアナの事を甘い声音で「リスティアナ」と呼ぶようになり、そして敬語も無くなった。
 どうしたの? とでも言うようにリスティアナの手をきゅう、と握り締めてくるリオルドにリスティアナは照れ笑いを浮かべながらリオルドに向かって言葉を返す。

「いいえ、なんでもないですわ……。ただ……リオルド様と婚約した事を内外に発表していないので……」
「──ああ……。断っても断ってもリスティアナに婚約の申し込みをしてくる男が減らないな……」

 リスティアナの言葉に、リオルドは「面白く無い」と言うように剣呑な色を瞳に乗せてむすっ、と表情を顰める。

「リスティアナ。学園でリスティアナにしつこく話し掛けてくる男が居たら言って。──叩きのめさないと……」

 リオルドの最後の方の言葉はぼそり、と呟かれた為リスティアナの耳には届かなかったが、リスティアナは幸せそうにリオルドに体を寄せると「はい」と明るく返事をした。



 二人は、揃って馬車に乗り込むと久しぶりに学園へと向かう。
 同じ馬車から降りて来る二人を学園生達が見れば自ずと分かるだろう。

 リスティアナ・メイブルムとリオルド・スノーケアが婚約した、と言う事が。



 数ヶ月前、愛していた人から婚約を解消して欲しいと告げられ、またその理由を聞いてリスティアナは失意の底に落とされたが、そこからまた手を差し伸べられ掬い上げてくれる人が現れるとは思わなかった。

 想い、想われると言うのはこんなにも幸せな事なのだと言う事を知り、リスティアナは今日も明日も、それからこれから先もきっとリオルドへ想いを募らせ、またリオルドからも同じだけ想いを返される。
 こんなに幸せでいいのかしら、とリスティアナは馬車の中で幸せそうにリオルドに寄り添ったのだった。



─終─
しおりを挟む
感想 236

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(236件)

カルカン
2024.02.12 カルカン
ネタバレ含む
解除
カルカン
2024.02.12 カルカン
ネタバレ含む
解除
澪
2023.08.03
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

偽りの愛に終止符を

甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。