【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 リオルドの言葉に、オースティンはにんまりと口元を笑みの形に歪め、オルファは口笛を吹く。
 リスティアナはリオルドの言葉に顔を真っ赤に染め上げてぱくぱくと唇を開けたり閉めたりとしてしまう。

「ス、スノーケア卿……」

 まさか、婚約者になる条件を直接父親であるオースティンに聞くとは思わなかった。

 オースティンは、リオルドの言葉を聞き「ふむ?」と声を上げると愉快気に唇を開く。

「スノーケア卿は、学園を卒業後騎士団で数年間過ごした後、タナトス領に戻るつもりでは……? 兄上である現タナトス領当主、マーベル殿の補佐をする為に学園で学び、騎士団で己を鍛えると聞いていたが……。メイブルムの当主となればそれも叶うまい」
「ええ。そうですね……。リスティアナ嬢と出会う前の私は、兄の力になりたい、助けになりたい、と考えておりました。……ですが、」

 リオルドはそこで言葉を一旦区切ると、リスティアナへと真っ直ぐ視線を向ける。

「好きな女性を私自身の手で支え、共に生きて行きたい……、女性がいます。兄の手助けは、離れた場所からでも充分出来ます。──昔は、兄の側に居なければ手助けも何も出来ない、と考えていましたが……。離れた場所──この、王都でも、国の、中央からでもまた違った手助けは出来ます。それを、今回メイブルム侯爵の行動で気付かせて頂きましたから」
「──そうか。……まあ、いいだろう」

 リオルドの言葉を聞き、オースティンは小さく微笑みを浮かべてソファに背を預けるとゆっくりと息を吐き出した。

「──条件など、無い。リスティアナが好いた男が、同じようにリスティアナを好いてくれていればそれで充分だ」

 オースティンは今まで被り続けていた侯爵家当主のオースティン・メイブルムでは無く、リスティアナ・メイブルムの親として自然に小さく笑顔を浮かべると、リオルドに向かってそう言葉を掛けた。





 そうして、翌日。
 アロースタリーズの国王であるバルハルムドを弑逆しようとしたバジュラドの処刑の日。

 国内の貴族達には此度の一件について説明がされているが、国民達にはされておらず、朝早くから叛逆者、王兄バジュラドの処刑について王都中に報じられた。
 処刑場所である王城の広間には、所狭しと王都で暮らしている民達が集まり、叛逆者であるバジュラドが姿を表すのを固唾を飲んで待っている。

 ざわざわ、と民衆達がざわめくなか、リスティアナ達貴族は少し離れた場所に貴族達専用の傍聴席があり、そこにリスティアナとリオルド、オルファが座っている。
 オースティンは怪我の件もあり、不参加だ。邸で全てが終わるのを待っている。

 リスティアナ達の近くには、同じ四大侯爵家の面々が座っており、リスティアナとコリーナはこの傍聴席にやって来た時に軽く顔を合わせ、会話をした。
 リスティアナの隣にリオルドが居る事から、ある程度察したのだろう。
 コリーナは瞳を細めてリスティアナとリオルドに「良かったわね」と声を掛けると軽く手を振り自分の席へと着いた。

 バジュラドの処刑が済めば、その後は国王バルハルムドから国民に、今回の騒ぎの説明が行われ、敵国に情報を売った貴族達が粛清される。

 やっと、ようやっと一連の騒ぎが落ち着くのだ、とリスティアナは小さく溜息を吐き出すと、隣に座っていたリオルドがリスティアナに視線を向けた。

「──リスティアナ嬢?」
「……、ごめんなさい何でもないですわ」
「そう、ですか……?」

 だが。何でも無い、と言うリスティアナが何処か苦しげに見えてリオルドはリスティアナの手をそっと握る。

「──ス、スノーケア卿……?」

 突然握られた手に、リスティアナは微かに頬を染めてリオルドに視線を向けると、リオルドは真っ直ぐ前を向いたまま、繋いだ手を指先を絡めるようにしてぎゅっと力を込める。

「──リオルド、と呼んで下さい……。見たく無ければ見なければいいのです」
「……。目を逸らす事はしませんわ。……この国の貴族として、貴族として生まれたからには最後まで見届けねばいけません」
「貴女は強いですね」
「あら、強くなんてございませんわ。本当は目を背けたくてたまりませんもの。……何も見ず、何も知らぬ存ぜぬで過ごせれば、生きるのにどれだけ楽かしら?」

 二人が小さく、小声で会話をしていると民衆のざわめきが大きくなる。

 元、王兄バジュラドが姿を表したのだ。



 民衆のざわめきの向こうに、バジュラドがやつれた姿を表し、怯えた表情で視線を彷徨わせている。
 ゆらり、ゆらりとバジュラドの視線が彷徨い、貴族の傍聴席に座っているリスティアナの姿を見付けたのだろう。
 バジュラドの唇が小さく動いた。

「──……っ、」
「リスティアナ嬢……?」

 リスティアナは、思わずバジュラドから視線を逸らすようにリオルドの胸に顔を埋める。
 確かに、バジュラドはリスティアナの母親の名前を口にした。
 そっと自分自身の背中に回る、優しいリオルドの手のひらにリスティアナはほっ、と安堵の息を吐き出すと、バジュラドに視線を戻す。

 視線を戻した先のバジュラドは、リスティアナからは既に視線を外しており処刑台へと上がっていった。



 真実は分からないが、恐らくバジュラドはオースティンの妻であり、既にこの世を去ってしまったリスティアナとオルファの母親である女性に想いを抱いていたのだろう。

 そして、王の血筋であると言うのに妾腹の子であったが為に玉座に座る権利を剥奪されていた。
 ヴィルジールと言う後継が居なければ。今の国王が崩御した際は。
 自分自身が玉座に座る事が出来ると夢見たのだろう。

 その歪んだ思いが、国を売り他国と手を組み、国民の命を危険に晒した。

 そして、国を危険に晒した男の一生は、呆気なく幕を下ろした。
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