【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 リスティアナとリオルドは王都へ戻る途中、メイブルム侯爵であるオースティンを迎え合流して帰還した。

 王兄バジュラドは帰路の最中も何度か脱走を企てていたが、全てリスティアナの父親であるオースティンにその企てを見破られ、脱走は未遂に終わる。

 二十日以上の時間を掛けて王都へと戻ったリスティアナ達は王城に到着するなり直ぐに謁見の間へと通された。





「──お父様、その足では御前に控えておくのも難しいのではないでしょうか? 陛下に事情をご説明し、お父様は別室でお休みになられては……」

 謁見の間に通されたリスティアナ達三人と、罪人であるバジュラドは衛兵に両脇を固めらた状態で跪いていた。
 オースティンは膝から下を失っているので跪く事が出来ず、衛兵が慌てて用意してくれた椅子に腰掛けていた。

「いや。こうして座らせて貰えば大丈夫だ。死した者達の痛みや絶望に比べれば痛みを感じる事がどれ程恵まれているか……」
「ですが……顔色が悪いですわ……。大量の血液も失っておりますし──……」

 リスティアナがオースティンに向かって声を掛けている途中、謁見の間のリスティアナ達が入室した扉が勢い良く開かれ、リスティアナに向かって駆け寄って来る影が一つ。

「──リスティアナ……! 無事だったか、良かった……!」
「──っ、殿下……っ」

 帰還の報せを聞いたのだろう。
 王太子であるヴィルジールがリスティアナに向かって駆け寄り、抱き締めようと腕を伸ばして来たがリスティアナの隣に控えていたリオルドがさっとリスティアナの肩を抱き寄せてヴィルジールからリスティアナを遠ざける。

「──……っ、リオルド・スノーケア……! 何故リスティアナを……っ」

 誰の許可を得てリスティアナに触れているのだ、と言わんばかりの感情を瞳に抱き、憎々しげにリオルドを睨むヴィルジールに、リオルドは呆れたような表情を浮かべてヴィルジールに向かって唇を開いた。

「……王太子殿下、ウルム国第三王女であられるティシア殿下とのご婚約まことにおめでとうございます。ご婚約者様が居られながら、他の女性に触れようとするなど……ティシア殿下が知れば悲しみます」
「なっ、何故私がティシア殿と婚約した事を……っ」
「? アロースタリーズの王都に近付くにつれ、殿下とティシア様のご婚約のお噂は耳にする回数が増えておりましたから」

 何故既に婚約の話を知っているのだ、と狼狽えるヴィルジールに向かってリオルドが不思議そうに首を傾げながら答えると、ヴィルジールはリオルドに抱き寄せられているリスティアナに視線を向けて言い訳をするように唇を開いた。

「リ、リスティアナ……っ私は……っ」
「……殿下、ご婚約おめでとうございます。ウルム国の王女殿下とアロースタリーズの両国が強い絆で結ばれる事は喜ばしい事ですわ」

 リスティアナが本当に嬉しそうな笑顔を浮かべてヴィルジールにそう言葉を掛けると、ヴィルジールは悲しげに表情を歪ませる。

 以前もはっきりと言葉にしていると言うのに、とリスティアナは心の中で溜息を吐き出す。
 何故、ヴィルジールは未だに婚約を結んでいた頃のように名前を呼ぶのだろう。何故、未だに自分に気持ちがあると自信を持っているのだろうか。

 とっくの昔にヴィルジールへの想いなど捨て去ったと言うのに。



 ヴィルジールが更に何かを言い募ろうとした時。
 謁見の間、奥の扉が開き国王であるバルハルムドが姿を表した。

 リスティアナを初め、リオルドも素早く頭を垂れるが、バルハルムドがすぐに「顔を上げてくれ」と言葉を掛ける。

「──二人とも、無事の帰還なによりだ。……メイブルム侯爵……此度の働きに感謝する。足の怪我に付いては王宮医を遣わせるからしっかりと診てもらってくれ」
「──有り難きお言葉、感謝致します」

 バルハルムドと顔を合わせたオースティンは、ゆったりと口元に笑みを浮かべると座った体勢のまま、胸に手を当て頭を下げる。

「さて……。そこに居る愚息は報告の邪魔になるな……。衛兵、ティシア殿の元へヴィルジールを連れて行ってくれ」
「──はっ。かしこまりました」

 バルハルムドから冷たい瞳と言葉を向けられ、ヴィルジールは慌ててバルハルムドへと顔を向けて唇を開く。

「父上っ、お待ちください……っ、私はリスティアナと……っ」
「殿下、ティシア殿下の元へ。ティシア殿下がお待ちです」

 ヴィルジールは、この場に何とか残ろうともがいたが、相手は屈強な衛兵複数人だ。
 両脇を支えられ、バルハルムドの命令に従い謁見の間から連れ出されて行くヴィルジールの声が虚しく空間に響いた。



 呆れたように冷たい視線をヴィルジールに向けていたバルハルムドは、表情を柔らかいものへと変えると、リスティアナ、リオルド、オースティンへと視線を戻した。
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