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しおりを挟む進路を定めたリスティアナ達一行は、時折リオルドの助言に従い馬の足を緩め、要所要所で小休憩を挟みながら小さな砦を目指していた。
リオルドを追うように鷹のミーガンも追軍の頭上をゆったりと着いて来ており、追軍の一行はある程度進んだ場所で馬の脚を止めた。
「リスティアナ・メイブルム嬢。スノーケア卿。今日はこの付近で野営を致しましょう。設営は我々が行いますので、双方らは暫しお体を休ませた方が良いかと」
「軍隊長殿、お気遣い頂きありがとうございます。お言葉に甘えて、少しだけ休ませて頂きますわ」
「ありがとうございます」
リスティアナとリオルドが礼を告げると、ルカスヴェタは笑顔で二人に軽く手を上げて部下達の元へと向かって行った。
そのルカスヴェタの背中を視線で追いながら、リオルドはリスティアナに視線を戻すと馬から素早く降りる。
「──リスティアナ嬢、大丈夫ですか?」
途中、宿で休みは取れていると言っても女性であるリスティアナは長時間馬を駆ける事に慣れていない。
貴族女性でありながら単騎で馬を操る事が出来るリスティアナにリオルドも驚いたが、流石に連日馬での移動は体にこたえたのだろう。
気丈に振舞ってはいるが、リスティアナの顔にはありありと疲労の色が色濃く浮かんでおり、リオルドはリスティアナの元へと近付くと自分の腕を差し出した。
リスティアナの様子を見て、充分に配慮してくれたのだろう。
野営の初日である今日はしっかりと休息を取れるように調整をしてくれたのであろうルカスヴェタに、リオルドは心の中で感謝するとリスティアナにしっかりと休息を取ってもらおうと腕を差し出して、リスティアナが下馬するのを支えようとしたのだが。
「あ、ありがとうございます。スノーケア卿……」
リスティアナが下馬しようと足を鐙に掛けて降りようとした瞬間。
足を踏ん張る力が無かったのだろう。ずるり、とリスティアナの体が傾いてしまい、リスティアナが焦ったような表情を浮かべた。
「──っ、!」
「リスティアナ嬢……っ、大丈夫ですか?」
だが、直ぐ傍にいたリオルドが危なげなくリスティアナを正面から受け止めると、そのままひょい、とリスティアナの体を抱き上げて地面へと下ろす。
細身の体の何処にこんな力があるのだ、とリスティアナが驚く程、リオルドは危なげなくしっかりとリスティアナの体を支えてくれる。
「だ、大丈夫です……っありがとうございます、スノーケア卿……っ」
「いえ。リスティアナ嬢にお怪我が無くて良かったです」
リスティアナはどきどきと鼓動を速める自分の心臓にそっと手を添えると、しっかりと抱き留めてくれたリオルドの力の強さや、細いのにしっかりと筋肉がついた均整の取れた体にぶわり、と頬を染めてしまった。
しっかりと、頼りになる「男性」であるのだ、と言う事を何故かこの場で自覚してしまって、リスティアナは支えて歩いてくれるリオルドの顔をまともに見る事が出来なかった。
リスティアナとリオルドがルカスヴェタの提案に甘えさせてもらい、休んでから少し。
軍の統率がしっかりと取れているのだろう。
あっという間に野営の準備が終わり、ルカスヴェタに呼ばれて二人は簡易天幕に案内して貰った。
「我々は火の番と、見張りを行います。これは、軍の仕事ですのでお二人は夕食を取られた後、直ぐに体を休めて下さい。休める時にしっかりと質のいい睡眠を取り、明日以降の行軍に支障が出ないようにお気を付け下さいね」
「──何から何まで……、申し訳ございません軍隊長殿……。有難く、しっかりと休ませて頂きますわ。体調を崩して、行軍の足を遅めてしまう方が良くないですものね」
「ええ。仰る通りです。我々は軍として動く事に慣れておりますので、適材適所、お互いが得意な部分で補い合いましょう」
リスティアナとリオルドはルカスヴェタの提案に有難く頷くと、行軍の邪魔をしてしまわないよう、しっかりと体を休める事に決めた。
しっかりと休息を取り、翌朝。
朝早くから一行は馬を走らせ始めると、当初の予定時間よりも大分早く目的地である小さな砦へと到着する事が出来た。
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