【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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「──なっ、」
「それは、本当ですか王女殿下……っ!」

 ティシアの言葉にリスティアナもリオルドも動揺を隠せない。
 何故、話し合いからそんな事になっているのだ、とリスティアナがナタリアへと視線を向けるとナタリアは床に押さえ付けられたまま、叫ぶように言葉を発した。

「誤解ですわ……! 私は、陛下や殿下方に蜂蜜入りの紅茶で和んで頂きたくてっ! 毒なんて恐ろしい物、私が持っている筈がございません!」

 ナタリアは、発言を許されてもいない状況にも関わらず喚くように言葉を紡ぐと、自分の体を拘束しているウルム国の護衛に「離しなさい!」と声を荒らげている。

 ナタリアの言葉を聞き、アロースタリーズの国王であるバルハルムドは衛兵達にその身を守られながらナタリアへ近付くとナタリアが暴れた際にテーブルにぶつかり、倒れた小瓶を自分の指先でぴんっ、と弾く。
 バルハルムドの様子から、ナタリアが盛ろうとした毒はバルハルムドが口に含む前に無事防げたのだろう、と言う事が分かりリスティアナもリオルドもほっと安心したように肩の力を抜いた。

「──蜂蜜……、? 可笑しいな。我々はこの香りを嗅ぎなれているのだが、その香りとそっくりだ。……なぁ、ヴィルジール? ナタリア嬢に分かり易く説明してやりなさい。私達王族は毒殺される恐れがある為、幼少の頃より何をしている?」
「──はっ、……我々、アロースタリーズの王族は……幼き頃より毒の混入に瞬時に気付く為……しっかりと様々な毒の種類を……、名前を、匂いを、味を……、覚え、ます……」
「そうだな? それは他国の毒であっても同様だな……?」
「──はい。例え、それが帝国内でしか流通していないものだとしても、です……」

 ヴィルジールの言葉に、バルハルムドは頷くとつい、とナタリアに視線を向ける。

「……他国の毒だからバレぬ、とでも考えたか……? 浅はかな真似を……。そのような物、どうとでも調達出来るのだ、ナタリア嬢」

 バルハルムドの言葉に、ナタリアはそれでも尚違うんです! と声を上げる。

「ちがっ、本当に毒だなんて知らなかったんです……っ! お医者様が……っ、お医者様がこれを飲ませれば私の言う事を聞いてくれるようになるって、言ったから……!」
「──なるほど? だから解毒薬も用意していたのか。助かりたくば、条件を飲めと? さすれば解毒薬を渡す、と脅すつもりだったのかな、ナタリア嬢は?」
「ちがっ、違うんです……! 本当にっ、お医者様が……っ」

 ぶんぶんと頭を振り、めそめそと泣き始めるナタリアにバルハルムドとティシアは溜息を吐き出すと、部屋の扉付近に居たリスティアナとリオルドへと視線を向けた。

「お医者様とは、先程スノーケア殿が捕らえたこの国の医務官ですね、バルハルムド殿」
「──ああ。まさか、医務官と侍女が帝国の手の者とは……六年前に医務官として採用した者だったのだが……それ程前から帝国は我が国を得る為に内部に間者を侵入させていたのだろう……。それにも気付かず、何と情けない事か……」

 未だに泣き続けるナタリアはもう捨て置くと決めたのだろう。
 バルハルムドはヴィルジールにちらり、と視線を向けてから溜息を吐き出すとティシアへと顔を向けて唇を開いた。

「ティシア殿。せっかく急いで我が国に来て頂いたと言うのに慌ただしくなってしまい申し訳ない。私はこの事態を収束せねばならぬ為、明日以降改めてティシア殿をウルム国第三王女として国賓として正式に迎える場を作ろう。……今日は城でゆるりと休まれよ」
「お気遣い頂きありがとうございます、バルハルムド殿。そう仰るのでしたら、私は少し休ませて頂くわ。……タナトス領へは、我が国の軍が追軍しておりますので……スノーケア殿が行かれるのであれば、案内させましょう」
「タナトス領の事まで、痛み入る。そうさせて頂こう」

 二人は顔を見合わせて頷き合うと、ティシアはアロースタリーズの衛兵に案内されて部屋を退出して行く。
 すれ違う際に、リスティアナとリオルド二人に向かって微笑むと真っ直ぐ背筋を伸ばし、美しい所作で廊下を歩いて去って行った。

 リスティアナとリオルドはティシアに向かって下げていた頭を上げると、ちらりとバルハルムドへと視線を戻す。



 ナタリアが、帝国の間者であった医者に利用されていたとは言え、結果的に国王陛下であるバルハルムドに毒を盛ろうとした事は事実だ。
 王族に対する毒殺未遂、他国の間者の傀儡となり、間者の手助けを行ってしまっていた、と言う事も罪は重い。

 何も知らぬまま、利用されていたのだと主張するには些か度が過ぎている状況である。
 それに、ナタリアには王太子であるヴィルジールとの御子の妊娠を嘯いた罪も重ねられる。
 これだけは、自分自身で分かっていた筈だ。子などいない、と言う事を。その事実を隠し、偽り、王家に対して虚偽の妊娠を報告した罪も重い。

 ナタリアの未来を察し、リスティアナもリオルドも視線を落としてしまう。

 だが、その重い空気をさして気にもせずにバルハルムドはナタリアを連れ出すように衛兵に指示をすると、リスティアナとリオルドにソファに座るよう促した。
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