49 / 78
49
しおりを挟むそうして、オルファ達が王都のパーティー会場へと到着した頃は丁度リスティアナがリオルドとダンスを踊り終わった頃合である。
「──リ、リスティアナ……っ」
リスティアナとリオルドのダンスが終わるのを根気強く待っていたのだろう。
リスティアナとリオルドが顔を合わせて笑い合っている時。壇上から降りて来ていたヴィルジールが焦燥感を滲ませて声を上げ、リスティアナとリオルド二人に近付いて来る。
「──来て、しまいましたわね……」
リスティアナは自分の頬に手を当てると困ったように呟き、「お兄様は間に合わなかったのかしら」と心の中で呟く。
どんどんと距離を縮めて来るヴィルジールに、リオルドからちらりと視線を向けられるが、リスティアナは「国王陛下がどうにか収拾してくれるだろう」と考える。
ウルム国の王女殿下はとても苛烈な性格をしておられると聞く。
自分の夫となる予定の男が、他の女性に思慕を抱いているなどと知られれば同盟を組もうとしているアロースタリーズ国の国王陛下が黙ってはいない。
そして、とリスティアナはちらりと周囲に視線を巡らせて直ぐに視線を落とす。
(──この国に取って害悪となる貴族達も粗方選別は終わりましたし……)
傍観者でいる者も。権力と言う魅力に惹かれ手のひらを返す者も、粗方確認は出来ている。
(けれど──……)
リスティアナは、近付いて来るヴィルジールに視線を戻す。
(殿下が間違いを犯した時の様子は、まだ詳細報告が来ていないわ……何が起きて、殿下は軽率な行動を取ったのか、……それはもう、陛下はご存知なのかしら)
「──リスティアナっ! 話があるんだ……っ、大事な話が……っ。私と一緒に来てくれないかっ」
ヴィルジールが程近くまでやって来た事に、リスティアナとリオルドは胸に手を当てて頭を下げる。
王族であるヴィルジールに、もう婚約者でも何でも無いリスティアナが顔を上げたまま対面する事は出来ない。
臣下として、当然の行動を取るリスティアナにヴィルジールはぎりっ、と奥歯を噛み締めると妬むような視線をリオルドへと向ける。
何故、自分がリスティアナと話す事も、触れ合う事も出来ないと言うのにリオルドがリスティアナと共に過ごしているのだ、と言う手前勝手な恨みである。
ヴィルジールが、リオルドに向かって「下がれ」と言おうとした所で、三人の背後。
壇上の玉座に座っていた筈の人物の声が耳に届いた。
「──時間切れだ、ヴィルジール。来賓を出迎えよ」
「……っ、え……?」
国王陛下、バルハルムドの言葉に、周囲はざわりとざわめいた。
来賓など、来る予定があっただろうか、と周囲の困惑を他所に、バルハルムドはゆったりとした足取りでヴィルジールの近くへと一歩一歩足を進めて近付いて来る。
バルハルムドが声を発し、歩くと言う動作を行っているだけで、ヴィルジールの元へとモーゼのように人垣が割れた。
それもその筈で、バルハルムドが発する怒気が周囲に居た者達を恐れさせ、大人しく見守ると言う行動しか取らせない。
「へ、陛下……?」
ヴィルジールは唖然としたような様子でぽつりと呟くが、ヴィルジールに話しかけられたバルハルムドはその言葉に返事をする事無く、未だに頭を下げ続けるリスティアナとリオルドに向かって申し訳無さそうに眉を下げると唇を開いた。
「──リスティアナ・メイブルム嬢。リオルド・スノーケア卿。此度の一件で迷惑を掛けたな。顔を上げてくれ」
「──、とんでもございません。私達はこの国の貴族です。貴族として、王族の臣下として当然の行動をしたまででございます」
「私も、リスティアナ・メイブルム嬢と同じく臣下として成すべき事を成したまででございます」
バルハルムドの言葉に、恐れ多くも顔を上げたリスティアナとリオルドはしっかりとバルハルムドの瞳を見詰めてそう答える。
リスティアナとリオルドの言葉に嘘は無い。
この国の貴族として、行動しただけだ。愚かな行動を起こさず、ただただ臣下として静かに行動し、動かぬ部分は動かぬようにしただけ。
「メイブルム侯爵や、フィリモリス侯爵ともしっかりと事態は確認しておる。残りの二家の侯爵とも顔を合わせ、話し合いを重ねておる。……今回は、王家の愚行により迷惑を掛けてしまったな」
「とんでもございません」
王家の愚行──。
それは、恐らくヴィルジールのみに限った事では無いのだろう。
国内で起きている様々な事柄に対して、バルハルムドが話している、と言う事にリスティアナとリオルドは気付き、再度頭を下げた。
「先ずは、一つ目である我が愚息の件について解決しよう。もう、リスティアナ・メイブルム嬢を悩ます事はこれで消えよう」
215
お気に入りに追加
4,724
あなたにおすすめの小説

王太子殿下はきっと私を愛していない。
haruno
恋愛
王太子殿下の婚約者に選ばれた私。
しかし殿下は噂とは程遠い厳しい人で、私に仕事を押し付けてくる。
それでも諦めずに努力をするも、殿下の秘書が私を妬んでいるようで……

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】
皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」
お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。
初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。
好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。
******
・感想欄は完結してから開きます。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる