【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 何故か、パチリ。
 とリスティアナとヴィルジールの視線が合ってしまい、リスティアナは扇子で上手く自分の口元を隠しながら嫌そうな表情が表に出てしまわないように押し隠す。

「──リスティアナ嬢……」
「……ええ、まさか……殿下はこちらにいらっしゃる気でしょうか……」

 リスティアナの隣に居たリオルドが「どうする?」と言うような視線で問い掛けて来る。

「私と、殿下が仲良くお話なんて出来ませんわ……。その様子を見たら、再び国内の貴族達が騒ぎ出すかもしれませんから。……もうお腹一杯ですわ」
「ですね。これ以上の無駄な混乱は無用です」

 リスティアナの言葉にリオルドもこくり、と一つ頷くとリスティアナに向かってリオルドはすっと手を差し出した。

 リスティアナは、リオルドから差し出された手のひらとリオルドの顔と、キョトンとした表情でついつい交互に見やってしまう。

「──リスティアナ嬢。ここは一つフロアの中心部でダンスを楽しむ学園生達に紛れて殿下から離れましょう。……あの様子ですと、間違い無く殿下はリスティアナ嬢に接触してくるかもしれません」
「──!」

 リオルドの提案に、リスティアナは「なるほど」と口元だけで笑みの形を作ると差し出されたリオルドの手のひらに自分の手のひらを乗せた。

「良い口実ですわね。さっさと離れてしまいましょう」
「ええ、是非」

 お互い、にんまりと笑みを浮かべて視線を交わし合うとリスティアナとリオルドはそのままダンスを踊っているフロアの中心部へと足を進める。

 リオルドがエスコートしている女性がリスティアナだと知り、令嬢達は嫉妬に塗れた視線を、子息達はリオルドに向かって気遣うような視線を向けているが二人はそんな視線など気にせず音楽に合わせて踊り始める。

「──リスティアナ嬢。そう言えば、ウルム国に行かれていた兄君はまだお戻りにならないのですか?」
「あっ、スノーケア卿にはまだお伝えしておりませんでしたね。オルファお兄様から連絡がありましたの。少々時間が掛かってしまっていらっしゃったのは、陛下とあちらの国とで何やら色々とやり取りがあったから、みたいですわ」
「──陛下、と……?」

 リオルドのきょと、とした瞳と声音にリスティアナはにっこりと満面の笑みを浮かべると、リオルドに向かって言葉を返した。

「ええ。お客人をお連れするのにお時間が掛かったみたいです」





 ──カツカツカツ、と足音荒くパーティー会場の廊下を歩きながらナタリアは羞恥や怒り、裏切られた、と言うような失望感や恨みでごっちゃになってしまった感情を持て余しながらとある部屋の前に来ると、ノックもせずに扉を開け放った。

「──っ、先生……!」

 ナタリアは声を荒らげると、そのまま開かれた扉の奥へと躊躇無く進んで行く。

「おや、ナタリア様? どうされましたか?」
「聞いて下さいませ、先生……っ! 殿下も、陛下も酷いのです!」

 パーティー会場の一室。
 ナタリアの主治医として、別室で待機していた医者が、わっと喚きながら入室して来たナタリアに優しい声で話し掛ける。

 その部屋には、ナタリア付きの侍女も待機しており、直ぐにナタリアの元へと向かうと落ち着かせるように椅子を用意して座るように促す。

「殿下もっ! 陛下もっ! 私が次期王妃なのに、その事をいつまで経っても国内外に正式に発表してくれませんし、あろう事か今日なんて! 国王陛下はパーティーに参加している皆さんの前で私を辱めたのですっ! 私、これでは……っ、悲しくて辛くて気が狂ってしまいそうですわ!」
「おやおや……。殿下も、陛下もナタリア様の素晴らしさにちっとも気付いて下さっていないのですね……何という事か……」

 態とらしく医者は悲しげに眉を下げると、ナタリアに向かい合っていた状態からくるり、と背を向けて振り返るとゴソゴソと自分の鞄の中を漁り始める。

「それでっ、それで私っ、殿下と陛下が私にストレスを与えたからっ、御子を失ってしまった、と告げようと思いまして……。先生ならっ! そのようにご説明して下さりますよね!?」
「うーん……それもいいですが……。ナタリア様の素晴らしさをもっと簡単に周知させるいい手を考えましたよ」

 くるり、と振り返った医者が笑顔でナタリアへとそう告げる。
 医者の手の中には、先程の鞄の中から取り出したのだろう。二つの小瓶が握られており、ナタリアは不思議そうにその小瓶を見詰めて首を傾げた──。
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