【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 リスティアナとリオルドが執務室に入室すると、オースティンは執務机から腰を上げてソファへと移動している最中だった。
 オースティンはリスティアナとリオルドに視線を向けるとソファに座りなさい、と声を掛けて自らもソファへ腰を下ろす。

「お父様、お時間を頂きありがとうございます。こちらは、リオルド・スノーケア卿ですわ。学園生活でとても良くして頂いております」
「──リオルド・スノーケアです。本日はお忙しい中お時間を作って頂きありがとうございます」

 リスティアナの言葉に、リオルドは軽く自分の胸元に手を当てて一礼をするとオースティンへと感謝の言葉を述べる。

「ああ、君の事は良く知っているよ。学園ではリスティアナを助けてくれているだろう。ありがとう」

 すっ、と瞳を柔らかく細め口元をゆったりと笑みの形に変えてオースティンが返答する。
 リオルドは、頭を下げたままオースティンの言葉にひくり、と口元を引き攣らせた。
 オースティンは、リオルドの事を「良く知っている」と言ったのだ。
 学園内にメイブルム侯爵家の手の者が数多く潜んでいる、と言う事が今のオースティンの一言に集約されていて、それを感じ取ったリオルドは「恐ろしいな」と小さく心の中で呟いた。

 リオルドのスノーケア家が武に長け、戦に強いのとは逆に、メイブルム侯爵家は情報を集める事に長けている。
 情報収集に特化した部隊をいくつも持ち、それを様々な場所に潜り込ませ、情報を持ち帰る。
 コリーナのフィリモリス家も情報収集に長けた部隊を有してはいるが、リスティアナのメイブルム侯爵家には敵わない。
 だが、メイブルム侯爵家が情報収集に長けた部隊を使うには国王陛下の許可が必要になって来る。

 今までは国内の不穏分子を監視する為にその部隊を放っていた筈である。

(──待てよ……メイブルム侯爵家の諜報部隊に引っかからなかった、と言う事は……)

 リオルドはがばり、と顔を上げて顔色を悪くする。

(──内、では無くて外からの……!)

 リオルドがその考えに至った所で、オースティンは「さて」とこの場に似つかわしくないのんびりとした穏やかな口調で言葉を発した。

「リスティアナから聞いているよ。コリーナ嬢のフィリモリス侯爵家が恐らく何か良からぬ事態に陥っている、と……そして、それはスノーケア領でも発生している可能性がある、と言う事も聞いた」
「──っ、はい。仰る通りです、タナトス領の兄とは定期的に報告の手紙をやり取りしておりました。それが……途絶えたのですがどうにもタイミングが……」
「うむ。……フィリモリス侯爵家と重なっておるな……。リスティアナから連絡を貰い、残りの二家の侯爵家に急ぎ手紙を送ったが、残りの侯爵家からも返答は未だに無い。……どうやら手紙を送る余裕も無いと見られる」
「──……やはりっ、」

 オースティンの言葉に、リオルドは唇を噛み締めて俯く。
 何か、自分に出来る事は無いのだろうか、と考えるが爵位も持たぬ、動かせる人員も持たぬ自分には何も動く事が出来ない。

(せめて……兄上と連絡さえ取れれば……っ)

 だが、今からタナトス領に急ぎ向かったとしても単騎で駆けたとしてかなりの日数が掛かってしまう。
 それに、もしタナトス領が良く無い事になっていた場合、単騎で動くにはあまりにも危険だ。

 焦るリオルドの気持ちを見透かしたようにオースティンは落ち着かせるようにリオルドに向かって唇を開く。

「リオルド・スノーケア殿。先ずは落ち着くんだ。今、我々だけがこの王都で起きている不可思議な事案に気付いているだろう。私も先日から王都に諜報員を送っているが、帰って来ていない。……間違いなく王城にはこの国の者以外の、この国に害意を持った人物が潜んでいると見て間違い無いだろう」
「──なっ、そのような事を……!?」

 いつの間に、そのような大胆な事を仕出かしていたのだ、とリオルドはオースティンの言葉に目を剥く。
 オースティンはなんて事の無いように語ったが、かなり危険な行為だ。
 相手方にどこの手の者か知られてしまえば、逆に刺客を送られる可能性だってあるのだ。

 だが、オースティンはリオルドの考えを一蹴するようにふん、と鼻を鳴らすと腕を組み、好戦的な笑みを浮かべてリオルドに向かって言葉を返す。

「ある程度、こちらの身の安全は保証されているだろう、と分かっての行動だ。心配はいらない。……外からの者が入り込んでいるのであれば、今ここで四大侯爵家の内一つの家が潰れれば王都内は大きな騒ぎになるだろう。国が混乱に陥るにはまだ早い」
「……国が混乱に陥る時が、来ると……?」

 何処か確信めいたオースティンの言葉に、リオルドが小さく呟くとオースティンがこくり、と頷いた。

「──ああ。相手はどんな手段で、どのような目的を持って行動するつもりかは分からぬが……同時多発的に騒ぎを起こそうとしているのだろう。……タナトス領との連絡が取れない、と言う一報を聞き、そう確信した」
「ならば、国が混乱に陥る前にどうにかせねば……!」
「それは勿論だ。タナトス領に異変あり、と陛下に報告をする。同時に国外から争いの火種が持ち込まれそうだと言う事を陛下にお伝えしておこう」

 オースティンの言葉に、リオルドは震える声で感謝の言葉を伝えた。
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