【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 ──王宮の中では、「来るべき日」の為に奔走する影が幾つも動いていた。
 「平和な日々」はその国に住まう人々に穏やかな安寧な日々を与えていたが、逆に普遍の日々が人々から緊張感を奪い、変化を奪った。

 アロースタリーズ国で史上最悪な長い長い一日がすぐそこにまで迫っていた。






◇◆◇


「──何ですって……?」

 学園の教室内。
 学園の卒業パーティーを明後日に控えた今日、授業中に慌ててやって来た使用人が、入室の許可を取るとコリーナの席にまでやって来て、コリーナに耳打ちした。

 その使用人から何かを聞いたコリーナが慌てたように声を震わせると、ガタリと音を立てて椅子から立ち上がる。

「──先生。申し訳ございませんが、火急の用事が入りました。家の事情ですので本日は早退致しますわ」
「フィ、フィリモリス嬢……? 分かり、ました……。早退、と言う事で処理をしておきますね」
「ありがとうございます……っ」

 授業を行っていた先生へコリーナは一礼すると、ざわめく教室内を足早に通り抜ける。
 コリーナが慌てて早退するなど、大事でも起きたのだろうか。

 リスティアナが心配そうにコリーナへ視線を向けていると、コリーナもリスティアナへ視線を向けて力無く微笑んだ。
 まるで「心配しないで」と言うようなその微笑みに、リスティアナは小さくコリーナにだけ分かるように頷くと、コリーナはリスティアナの仕草を確認した後、直ぐに教室を出て行く。

(コリーナ……。大丈夫かしら……。フィリモリス侯爵家に、何か大変な事が起きた、のかしら……でも、コリーナの侯爵家程の家が……? 授業を受けているコリーナを呼び出す程の……?)

「皆さん、落ち着いて下さい! 授業を続けますよ!」

 教室内に居た先生が、声を上げるとざわめいていた学園生達はコリーナが出て行った扉を気にしつつ、前に向き直る。

 コリーナに何かあったのだろうか、と心配していたのはリスティアナだけではないようで。
 守る為に離れて貰っていたアイリーンや、ティファも心配そうにコリーナが出て行った方向を見詰めた後、さりげなくリスティアナを気遣うような視線を向けてくれる。

 リスティアナは他の者に分からないように口元にだけ薄らと笑みを浮かべてアイリーンとティファに笑い返した。




 コリーナが早退した後。
 午前中の授業が終わり、昼休憩の時間の際に教室内はコリーナの家であるフィリモリス侯爵家の噂話で持ち切りになっていたが、リスティアナは下世話な噂話など耳にも止めず、いつもの様に──ここ最近恒例となっていた談話室へと向かう。

 廊下に出て、リスティアナが少し歩いた頃。
 前方から人々に囲まれ談笑しながらリスティアナに近付く集団が目に入る。

(──何故、最高学年である彼女がこの棟に……?)

 何か、目的が無ければこの棟になどやって来ない筈なのに、と考えてリスティアナは「ああ」と心の中で納得する。

(もしかして、目的は私──かしらね?)

 リスティアナは、目の前から近付いて来るナタリアと、ナタリアに侍る学園生達を冷めた視線で見詰める。

 ナタリア達が、リスティアナが自分達に気付いた事に気付いたのだろう。
 リスティアナの少し前方でぴたり、と足を止め先程まで楽しそうに会話をしていた声もぴたり、と止まる。

 周囲の学園生達は、ナタリアとリスティアナの対面に興味津々で、さりげなく人が集まり始めている。
 集まる人の中には、あからさまにリスティアナを蔑み、馬鹿にしたような視線を向けている。

「あら、奇遇ですねリスティアナ嬢」
「こんにちわ、ナタリア嬢」

 奇遇、とは良く言ったものだ、と思いながらリスティアナがナタリアへ言葉を返すと、ナタリアの周囲に居た学園生が「きゃあ」と声を上げる。

「──やだっ、リスティアナ嬢がナタリア嬢を睨み付けたわ……!」
「今のお顔の表情を見た? 憎々しげにナタリア嬢を見たわよ」
「ナタリア嬢に危害を加えるおつもりでは? 直ぐに離れた方がいいですわよ、ナタリア嬢!」

 自分達から近付いて来て、何をトンチンカンな事を言っているのだ、とリスティアナが白けた視線でナタリアを見ていると、ナタリアがまるでリスティアナを気遣うように唇を開いた。

「──リスティアナ嬢、少々小耳に挟んだのですが……ご友人のコリーナ嬢のお家が不幸な惨事に見舞われたとか……? ご友人がそのような事になってしまって……、何とお声をかければよろしいのか……」
「ご心配頂かなくても結構ですわ。コリーナ嬢の侯爵家は、不測の事態にも即座に対応出来るように普段から備えておりますし……。フィリモリス家が実際に惨事に見舞われておりましたら、我がメイブルム侯爵家も勿論手助けを致しますから」

 すげ無くリスティアナから言葉を返されて、ナタリアが言葉に詰まると、周囲に居た学園生達が「まあ冷たい!」と声を上げる。

「ご友人のお家の一大事やも知れぬのに、リスティアナ嬢は慌ても、心配もせずに随分冷静ですわね」
「ご自身でコリーナ嬢の助けになるべく行動するのでは無く、家が助けるですって……! そんなの本当に友人と呼べるのかしら……!」
「リスティアナ嬢に関わると不幸な目に会ってしまいそうですわ!」

 好き勝手に騒ぎ立てる令嬢達に、リスティアナは益々冷めた視線を向けると、「もう宜しいでしょうか」と声を紡ぐ。

「非生産的なお話で、有意義な休憩時間を無駄にしたくないので、もう失礼してもよろしくて? この会話に、何か意味があるのでしょうか? 解決に対して議論するでも無く、人のお家の事を面白おかしくお話するのは、はしたなくてよ」

 リスティアナの尤もな、正しい言葉にナタリアを含む他の学園生達も羞恥で顔を真っ赤にすると、「何を!」と声を荒げた。

 だが、学園生達が続きの言葉を紡ぐ前にここ最近聞きなれた男性の声が聞こえた。

「──何の騒ぎです? あ、リスティアナ嬢。こちらにいらっしゃったのですね、先生が呼んでおりましたよ」
「あら、スノーケア卿。先生が? それはありがとうございます」
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