30 / 78
30
しおりを挟む「──何故、件の夜に誰も殿下の御姿を見ていないんだ……? 酒に酔っていた状態とは言え、側近が殿下の御姿を見失うのか……?」
オースティンはその報告書に視線を落としたまま文章が記載されている部分を自分の指先でなぞる。
どうにも引っ掛かる。
「この国の、唯一の王位継承権を持った殿下の御姿が無い事に気付きもせず、御姿が無い事に疑問も持たず、朝まで祝宴を続ける、か……?」
気持ち悪い程、「出来過ぎて」いる一連の流れにオースティンは眉を顰める。
オースティンは、リスティアナが学園から帰宅するのを待ち、どうにもこの国の内部の動きがおかしいとリスティアナに注意を促す事を決めたのだった。
場所は変わって、学園内。
リスティアナはリオルドと共に用を済ませた後、教室へと戻り普段と変わらず授業を受けた。
「リスティアナ嬢、スノーケア卿とは何もお話されなかったのですか?」
「えっ、?」
全ての授業が終わり、帰り支度をしているとティファが、瞳を輝かせてリスティアナに近付いて来てそう聞いて来る。
リスティアナはきょとん、と瞳を瞬かせると首を傾げる。
「スノーケア卿と……? 特に、これといったお話はしていませんが……」
渡り廊下のあの場所で話した事は伏せといた方がいいだろう、と考えたリスティアナがそうティファに答えるとティファは残念そうに眉を下げて「そうですか」と小さく呟くと、ティファはそっと周囲を見回してリスティアナにぐっと近付いて来るとリスティアナにしか聞こえない程度の声量でリスティアナの耳元で呟く。
「──あの日、スノーケア卿が庇って下さったのはきっとリスティアナ嬢を思っての事だと思いますわ……。きっとそうだと思います……、……リスティアナ嬢には私達も居りますし、スノーケア卿もきっと、リスティアナ嬢を……、メイブルム侯爵家を大切に思っておりますからね」
「……っ、ありがとうございますティファ嬢。そのように言って頂けるだけでとても心強いですわ」
昼食の時に話した内容を気にしているのだろう。
もし、万が一自分達がリスティアナから離れなければいけなくなってしまったとしても、メイブルム侯爵家を、リスティアナを大切な友人だと思っている事は変わらないと伝えたかったのだろう。
(でも、何故ティファ嬢は今この事を……?)
と、考えてリスティアナはあ、と思い出す。
少し先にこの学園では最高学年である学園生達を祝う卒業前の卒業パーティーが開催される。
学園を卒業すれば、大人達の仲間入りである。
デビュタントはまた別の機会、時期に行われるが学園卒業が貴族社会では一つの区切りで、卒業を機に学園生達は大人と同じ扱いをされるようになる。
そのパーティーは、デビュタントを迎える学園生達の「プレ夜会」のような物だ。
その証拠に、王族も参加するパーティーである。
(そうね……王族も参加すると言う事は、殿下もいらっしゃる筈だわ……。でも、殿下の御子を身篭っているナタリア嬢は祝賀会には参加されないわよね……。誤って転倒してしまう危険性があがるもの)
すると、その場ではヴィルジールと顔を合わせてしまう可能性が高くなる。
リスティアナは何とも言えない表情を浮かべると、ティファと別れの挨拶をして自分自身も帰宅の為に教室を出て行った。
「──祝賀会、私達在学生は最高学年の方達を祝う立場だから参加は必須……その場にナタリア嬢がいらっしゃれば反王政派と王政派の派閥の動きを確認出来るけれど……ナタリア嬢は恐らく不参加……もう一月も時間が無いけれど、それまでに確認が出来るかしら……」
ナタリアは、そのパーティーには出席しないだろう、とリスティアナは結論付けていた。
だが、数日後にそのパーティーの参加名簿を入手した父親であるオースティンにその名簿を渡され、名簿の中にナタリアの名前を見つけたリスティアナは驚きに目を見開いた。
175
お気に入りに追加
4,700
あなたにおすすめの小説

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

愛してくれない婚約者なら要りません
ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる