【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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「──何故、件の夜に誰も殿下の御姿を見ていないんだ……? 酒に酔っていた状態とは言え、側近が殿下の御姿を見失うのか……?」

 オースティンはその報告書に視線を落としたまま文章が記載されている部分を自分の指先でなぞる。

 どうにも引っ掛かる。

「この国の、唯一の王位継承権を持った殿下の御姿が無い事に気付きもせず、御姿が無い事に疑問も持たず、朝まで祝宴を続ける、か……?」

 気持ち悪い程、「出来過ぎて」いる一連の流れにオースティンは眉を顰める。

 オースティンは、リスティアナが学園から帰宅するのを待ち、どうにもこの国の内部の動きがおかしいとリスティアナに注意を促す事を決めたのだった。





 場所は変わって、学園内。
 リスティアナはリオルドと共に用を済ませた後、教室へと戻り普段と変わらず授業を受けた。

「リスティアナ嬢、スノーケア卿とは何もお話されなかったのですか?」
「えっ、?」

 全ての授業が終わり、帰り支度をしているとティファが、瞳を輝かせてリスティアナに近付いて来てそう聞いて来る。

 リスティアナはきょとん、と瞳を瞬かせると首を傾げる。

「スノーケア卿と……? 特に、これといったお話はしていませんが……」

 渡り廊下のあの場所で話した事は伏せといた方がいいだろう、と考えたリスティアナがそうティファに答えるとティファは残念そうに眉を下げて「そうですか」と小さく呟くと、ティファはそっと周囲を見回してリスティアナにぐっと近付いて来るとリスティアナにしか聞こえない程度の声量でリスティアナの耳元で呟く。

「──あの日、スノーケア卿が庇って下さったのはきっとリスティアナ嬢を思っての事だと思いますわ……。きっとそうだと思います……、……リスティアナ嬢には私達も居りますし、スノーケア卿もきっと、リスティアナ嬢を……、メイブルム侯爵家を大切に思っておりますからね」
「……っ、ありがとうございますティファ嬢。そのように言って頂けるだけでとても心強いですわ」

 昼食の時に話した内容を気にしているのだろう。
 もし、万が一自分達がリスティアナから離れなければいけなくなってしまったとしても、メイブルム侯爵家を、リスティアナを大切な友人だと思っている事は変わらないと伝えたかったのだろう。

(でも、何故ティファ嬢は今この事を……?)

 と、考えてリスティアナはあ、と思い出す。

 少し先にこの学園では最高学年である学園生達を祝う卒業前の卒業パーティーが開催される。
 学園を卒業すれば、大人達の仲間入りである。
 デビュタントはまた別の機会、時期に行われるが学園卒業が貴族社会では一つの区切りで、卒業を機に学園生達は大人と同じ扱いをされるようになる。
 そのパーティーは、デビュタントを迎える学園生達の「プレ夜会」のような物だ。

 その証拠に、王族も参加するパーティーである。

(そうね……王族も参加すると言う事は、殿下もいらっしゃる筈だわ……。でも、殿下の御子を身篭っているナタリア嬢は祝賀会には参加されないわよね……。誤って転倒してしまう危険性があがるもの)

 すると、その場ではヴィルジールと顔を合わせてしまう可能性が高くなる。

 リスティアナは何とも言えない表情を浮かべると、ティファと別れの挨拶をして自分自身も帰宅の為に教室を出て行った。



「──祝賀会、私達在学生は最高学年の方達を祝う立場だから参加は必須……その場にナタリア嬢がいらっしゃれば反王政派と王政派の派閥の動きを確認出来るけれど……ナタリア嬢は恐らく不参加……もう一月も時間が無いけれど、それまでに確認が出来るかしら……」

 ナタリアは、そのパーティーには出席しないだろう、とリスティアナは結論付けていた。



 だが、数日後にそのパーティーの参加名簿を入手した父親であるオースティンにその名簿を渡され、名簿の中にナタリアの名前を見つけたリスティアナは驚きに目を見開いた。
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